「人間の証明」やノンフィクション「悪魔の飽食」など、幅広いジャンルの作品で知られるベストセラー作家の森村誠一さんが24日、死去した。90歳だった。
映画「人間の証明」の舞台となった群馬県安中市にある霧積温泉「金湯(きんとう)館」の佐藤みどりさん(86)は訃報に際し、「残念です」と話した。偶然だが、森村さんと熊谷商高時代に同級生だったという女性が一昨日に宿泊客として訪れ、「お体の具合が悪いと言っていました」と近況について語っていたという。
森村さんとのかかわりは古く、学生時代に泊まったことがあるという。山歩きが好きで、お弁当を持って県境を越え、長野・軽井沢あたりまで足を伸ばしていた。宿のお弁当の包み紙に「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね?」から始まる西条八十の詩「ぼくの帽子」が印刷されていた。
大事にしまってあったその包み紙が、「人間の証明」を書き始めるヒントになった。殺人事件に秘められた母と子の悲しい詩情が根幹となった小説は770万部もの大ヒット、松田優作主演の映画も大ヒットし、宿には「ゆかりの地」を訪ねてみようと観光客がどっと押し寄せた。麦わら帽子などの関連グッズもまたたくまに売れた。森村さんも映画関係者との打ち合わせなどで何回も金湯館を利用したという。
「金湯館としては森村さんに感謝です」。館内にはお弁当の包み紙、西条八十の経歴とともに、森村さんの経歴なども飾られている。まさに森村さんの「人間の証明」でもある。【赤塚辰浩】