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反ワクチンと保守勢力「闇の5年間」

(2025年7月15日、武蔵小山某所。参政党・幸福実現党・集団ストーカー啓発ポスターが一同に介する)

[8/30 文章を一部変更しました]

先の参院選では、それまで争点として注目されていなかった外国人を巡る政策の是非が急浮上し、選挙期間中には政府が入国管理の厳格化を発表、これまで自民党に比して中道よりの立場を取ることの多かった公明党までもが同調する姿勢を見せ、現在まで様々な議論を呼んでいます1

なぜこうした争点が大衆の注目を浴びたのか、という大きな議題についてはそこら中のメディアで論じられているので有識者の方々に譲るとして、ここでは陰謀論やカルト集団について観察している筆者からの視点について語ってみます。

今回の参院選において、党派として外国人政策を重視していた団体として主に挙げられるのは、参政党、日本保守党(国政政党)、NHK党、日本誠真会、無所属連合、日本改革党、日本保守党(確認団体)の7団体です。

このうち、日本改革党を除いた6団体には共通する特徴があります。いずれもコロナ禍以降の反ワクチン勢力と密接に関係しているということです。

参政党はそもそもが党是として反標準医療傾向を持っており、今回の選挙でも公約としてWHOからの脱退を掲げていました2。日本誠真会はその参政党から一昨年に離党した吉野敏明が立ち上げた団体です。無所属連合はコロナ禍以前より偽科学や反標準医療のスプレッダーとして活動していた内海聡による団体です。

今回「日本保守党」という同じ名前の別々の団体が候補者を擁立していましたが、いずれも党首が反ワクチン活動に関係していました。国政政党の日本保守党百田尚樹代表は6月に開かれた反ワクチン団体GHFの集会に登壇し、「日本保守党はワクチンも含めた自公政権の政策と戦っている」と発言しています3確認団体の日本保守党石濱哲信代表も2021年から多くの反ワクチンデモや街宣に参加しています。

NHKは現在こそ党として反ワクチン政策を掲げてはいませんが、かつては「コロナ問題を考える会」などの反ワクチン団体を率いていた黒川敦彦を幹事長に据えており、コロナ禍以前には平塚正幸や石川新一郎のような、後に反ワクチン活動に従事する人物を擁立していました(とはいえ、これは愉快犯的な側面が強いと思われ、前述の党派とは趣が異なります)。

このように、今回の選挙でいわゆる「外国人問題」を争点とする党派が急増した要因の一つには、コロナ禍以降の反ワクチン・陰謀論勢力の潮流の変化という側面が指摘できます。かつて反ワクチン思想を持つ人々は左派傾向が強いとされていましたが、コロナ禍を境に、新たに保守系の反ワクチン勢力が急速に広がっています4

原口一博川田龍平須藤元気など旧民主党系の政治家にも反ワクチン傾向の人物は多くみられますが、選挙結果から明らかなように党としての支持には結びついていません5。反ワクチン傾向の強い左派政党であるれいわ新選組も、反ワクチン運動全体においては存在感を示せていない状況です。

前回の記事で示したように、これはコロナ禍以降の反ワクチン運動の主導権を保守勢力が握っていることに起因します。今回の記事では視点を変え、保守勢力が反ワクチン運動に接近していった経緯について掘り下げていきたいと思います。

パンデミック前後の状況

日本では2020年2月ごろからSARS-CoV-2、いわゆる新型コロナウイルスの集団感染が多発し、後に「第一波」と呼ばれるエピデミックの発生に至りました。この頃から「コロナ捏造説」を唱える勢力が徐々に拡大し始めますが、保守勢力との結び付きが見られるようになるのはもう少し後の話になります。

陰謀論のはじまり

平成以降に生まれた保守系市民運動は非常に乱暴に分けると、日本会議を源流に持ち文化人や政治家を主体とする「草の根保守」系北京五輪前後に生じたフリーチベット運動を源流に持ちネットコミュニティを主体とする行動する保守」系統一教会幸福の科学などの宗教系の3つの系統があります。

2010年代後半になると、草の根保守系と宗教系は時の安倍政権を下支えする存在として吸収されてゆき、行動保守系は過激化による刑事事件の続発と絶え間ない内紛による細分化によってライト層の離脱を招き急速に衰退していきました。

(2022年9月10日、渋谷で統一教会批判街宣を行う日本第一党桜井誠代表)

パンデミックの当初も保守勢力は日本政府の対応の是非や、発生源である中国の責任を問うものなど(今からしてみれば)比較的まともな議論に参加していた印象がありました。陰謀論としては発生地とされる武漢にウイルス研究所が存在することから、新型コロナウイルス生物兵器として人為的に生み出されたものである、といったものが人気でした6

ところが、この年の春頃から「新型コロナウイルスは弱毒の、あるいは存在しないウイルスであり、メディアが権力と結託して危険性を煽ることによって国民の自由を制限することが真の目的である」という荒唐無稽な陰謀論が広がり始めます。

2月には陰謀論活動家の平塚正幸が「国民主権」を結成、「コロナは風邪」をスローガンに東京都知事選挙に立候補したほか、自粛要請を無視した「クラスターフェス」などを各地で行いました。4月には陰謀論インフルエンサーの「字幕大王」が精神科医アンドリュー・カウフマンの「コロナ捏造説」を紹介、後に国民主権党の派生団体「日本と子供の未来を考える会」(ニコミ会)の相談役となります。コロナ禍以降の反ワクチン運動はこの辺りから広がり始めました。

(2020年10月31日、ハロウィンの渋谷に繰り出した国民主権党「クラスターフェス」)

一方、この時代の運動はそこまで保守色の強いものではありませんでした。ニコミ会を主宰する「きぃ」はかつて三宅洋平の選挙運動(いわゆる「選挙フェス」)のスタッフとして参加していたり、翌年に「コロナ問題を考える会」を立ち上げる黒川敦彦も森友・加計学園問題に関連した市民運動で名を挙げた人物であるなど、リベラル系の市民運動を出自に持つ人々が主導していた印象があります7

一方、国民主権党に参加し後に「反コロナ共闘委員会」を率いる塚口洋佑や、黒川らと反ワクチン活動を始めた石濱哲信のように右派的な傾向の人物も多く参加しており、雰囲気としては「左右のイデオロギーを越えた運動」を志向していたように映ります。

この頃はまだ分化されていた保守勢力と反ワクチン・陰謀論の融合は、ある出来事を機に進んでゆくことになりました。

アメリカ大統領選挙

2020年11月3日、アメリカ大統領選挙が行われます。この選挙では民主党ジョー・バイデンが当選しましたが、現職のドナルド・トランプは敗北を認めず、「不正選挙」を主張する陰謀論が巻き起こりました。これに日本の保守論客の一部が同調を見せます。もともと彼らがトランプを応援していたことに加え、当初、陰謀論の主題は中国政府による政治工作とされていたからです。

そして、日本における大統領選陰謀論の拡散に大きな役割を果たしたのが、日米双方に拠点を持つ新宗教系のメディアでした。統一教会系メディアのワシントン・タイムズや提携関係にあるOANN法輪功系メディアの大紀元(エポックタイムズ)、当時幸福実現党の外務局長であった及川幸久などが、英語圏のネット上で拡散された陰謀論を翻訳して紹介しました。

こうしたメディアの多くはコロナウイルスやワクチンについての誤情報の発信源にもなりました。さらに、Qアノン陰謀論の影響を受けたことで純粋な中国脅威論的主張から、次第に「ディープステート」などの文言が混入してゆくことになります。

大統領選後、こうした勢力の一部が街頭活動を始めます。この集団は上述したような様々な宗教の信者有志による混成であるところが特徴で、特定の教団による偽装団体というよりは、共通の立場を持つ複数の教団信者が緩やかに連帯して活動しているといった様相でした。活動の中心となっていたのは統一教会派生団体のサンクチュアリ協会の信者で、彼らは教団を挙げてトランプを支持していることに加え、Qアノンから強い影響を受けていました8

この、俗に「Jアノン」と呼ばれる集団は翌年1月ごろまで活動を続けていましたが、トランプの実質的な敗北宣言もありその後は下火となりました。一方で完全に活動が断絶したわけではなく、サンクチュアリ協会の信者の中には小規模なデモ活動を続けるグループもありました。ここに外部から参加していたのが後述する保守活動家の佐藤和夫であり、後の保守勢力と陰謀論集団の融合の布石となりました。

(2024年9月21日、大統領選前に行われたJアノンによる「トランプ再選祈願デモ」)

さて、日本へのQアノンの伝来には「コンスピリチュアリティ」というもう一つのルートがあります。「コンスピリチュアリティ」はconspiracy(陰謀)とspiritualityを合わせた言葉で、スピリチュアル的な思想を伴う陰謀論を指します。

Qアノン支持者の中には「ディープステートの正体は銀河戦争に敗れて地球へ逃れた爬虫類型宇宙人の勢力であり、地球人の光の霊性を妨げて星を乗っ取ろうとしている」と主張する人々がおり、その多くはスピリチュアリストやその団体の影響を受けています。日本のフォロワーの中で発信力のある人物は英語の情報を精力的に翻訳して紹介、不正選挙陰謀論ブームの風を受けインフルエンサーとなってゆきました9

Qアノンは本来「アメリカ民主党とリベラルエリートが影で人身売買を行っている」というローカルな陰謀論でしたが、コンスピリチュアリティによって捻じ曲げられたストーリーが紹介されたことにより、無関係のはずの日本の政治運動にも関与してくることになったのです。

そして、「保守運動」と「スピリチュアル」が「Qアノン」という糸で結ばれたことが、反ワクチン・陰謀論運動が政治の世界へと侵食してゆく下地となりました。

前哨

21年よりワクチンの接種が進むと、誤情報の拡散から反ワクチン思想が一部で広がり始め、2022年ごろから政治運動としての集約が起こり始めます。前述した「2つのQアノン」はまだ分化されていた状態でしたが、すでに保守運動への傾斜は起こり始めていました。

表の参政党、裏の神真都Q

コロナ禍以降の陰謀論運動の特徴は、参加者の殆どが政治活動に参加した経験のない「普通の人々」であったことでした。すでに政治活動の経験のある人物はコミュニティの中心的存在となり、その結果「極右であり、スピリチュアルに親和的で、かつ反ワクチンでもある」という、それまでの政治の世界ではアウトサイダー寄りであった人物が急速に台頭してゆきます。

22年初頭、「神真都(やまと)Q」という反ワクチン集団が全国各地で数百人〜数千人規模のデモを同時に行い、人々の度肝を抜きました。彼らは陰謀論インフルエンサーで元俳優の岡本一兵衛のファンを中心としており、コンスピリチュアリティ系のQアノンを支持する集団でした。

当時、そんな神真都Qの弁護士をしていたのが、南出喜久治木原功仁哉の二人です。南出はコロナ禍以前から反HPVワクチン訴訟を受任するなどしていた筋金入りの反ワクチン活動家で、「日本国憲法を段階的に廃止し大日本帝国憲法を復活させる」という「真正護憲論」なる活動を行っています。木原も反コロナワクチン訴訟を受任、ヴィーガン政治団体の天命党で一時期活動しており、南出とは大東亜共栄圏復活を掲げる政治団体祖国再生同盟」に参加していました。

(2023年3月18日、神真都Q全国結集デモ。左端で日章旗を持っているのが南出)

神真都Qの思想の大きな特徴は「日本人は龍神の末裔であり、YAP遺伝子という特別な遺伝子を持つが故に地球人の中でも特に霊格が高く、爬虫類型宇宙人から地球を防衛する要の民族である」という民族優越主義的な傾向が見られることです。神真都Qにおいてメンバー個々人の「教義」の理解度はまちまちですが、この「YAP遺伝子」についてはかなり広く共有されている印象がありました。こうしたことからも、南出のような反ワクチンかつ極右活動家のような人物と結びつきやすかったのです。

その後、神真都Qはワクチン接種会場襲撃事件を起こし、中心メンバーが逮捕されてしまいますが、代表逮捕後の会を担う相談役として南出らが引き入れたのは、かつて行動保守系団体「神鷲皇國會」を率いていた極右活動家の清水勇祐でした(ただし、清水との関係は半年ほどで破綻し南出・木原ともども解任されているため、会に与えた影響はあまり大きくありません)。

(22年3月、神真都Q浅草支部のオープンチャット。在日コリアンだという参加者がヘイトスピーチに抗議する場面。後にこの参加者は追放された)10

同じ頃、別の政治団体が急速に規模を拡大していきます。この年の参院選で1議席を獲得する参政党です。参政党は元々2020年に結党した団体で、当初はネット右翼に人気の保守論客を集めた政党という趣でしたが、大統領選前後から代表の神谷宗幣陰謀論への傾倒が顕著になり、初期のコアメンバーは離党、その後吉野敏明や赤尾由美などを媒介して反標準医療、自然農法推進の政策へと転換していきました11

神谷は日本会議に所属していたこともある保守系の政治家ですが、保守運動の歴史の中ではそれほどの存在感はありませんでした。一方でコロナ禍以前からスピリチュアル団体「にんげんクラブ」に参加していたり、マコモを実践していたりとオカルトやスピリチュアルへの親和性も高く、極右・スピリチュアル・反ワクチンの思想を併せ持っていた人物でした(神谷の父親が傾倒していたモラロジーの影響を指摘する意見もあります)12

参政党の選挙運動は神真都Qが刑事事件を起こし急速に規模を縮小した時期と重なる部分があり、神真都Qから離れたライト層の一部が流れていった可能性があります。あくまで筆者の造語ですが「表の参政党・裏の神真都Q」といったように、この年を象徴する団体として表裏一体の関係にあったという印象があります。

(2022年7月9日、参政党マイク納め)

一方で、この頃はまだ反ワクチン運動には明確なイデオロギー上の方向性はあまり見られず、参政党に対しても極右的な側面を知った支持者が困惑する場面も見られました(反ワクチン活動家で現在反参政党活動を活発化させているサルサ岩渕などが代表的)13。状況に変化が見られるのは翌年からです。

反ワクチン運動の転換

2023年になると、それまでの反ワクチン運動の急速な退潮が見られるようになりました。特に運動の嚆矢となった国民主権党、コロナ問題を考える会、反コロナ共闘委員会はこの年に活動を停止しています。大きな理由として、新型コロナウイルス感染症法上の分類が2類相当から5類に変更され、その結果として社会的にいわゆる「コロナ明け」の風潮が高まったことが大きく影響していたと思われます。

この時期に存在感を強めていったのが、Jアノンの項で言及した佐藤和夫でした。佐藤は元幹部自衛官で外務省の一等書記官も務めた人物であり、退官後は保守団体「英霊の名誉を守り顕彰する会」を主宰、「日本のこころを大切にする党」から国政選挙に立候補したこともあるなど、「草の根保守」系の中でも重鎮と言って良い存在でした。

一方、過去の発言を追うと2018年頃から「ディープステート」への言及が目立ち、「氣」についての講演会を主宰するなどスピリチュアル傾向も見られます14。コロナ禍においてはニコミ会のデモに参加したことを出発点に、Jアノン系のデモを繰り返していました。

佐藤は23年に活動を本格化させますが、ワクチンなど特定のイシューに拘らず、Jアノン系の人脈をベースに多彩な運動を展開していたのが特徴でした。中でも6月17日に行われた「LGBT理解増進法反対デモ」は、現在から遡って最初に反ワクチン・陰謀論系が結びついた大規模な右派的な運動だったと考えています。

(2023年6月17日、LGBT理解増進法反対デモ。先頭で日章旗を持っているのが佐藤)

同じ頃には神真都QのデモにおいてもLGBT法反対の主張が見られるなど、反ワクチン・陰謀論勢力の中で話題となっている様子が各所で観測されました。「コロナ明け」の世相において新たに訴求力のあるテーマを求め迷走してゆく中、それまであまり表に出ていなかった差別主義的な面を顕にしてゆく呼び水になった可能性があります。

一方この年には、当時日野市議会議員であった池田利恵を中心とする「有志議員の会」や、参議院議員となった神谷宗幣立憲民主党衆議院議員である原口一博を中心とした「WCH議連」など、政界における反ワクチン勢力の結集の動きが見られました。これを機に反ワクチン運動における「上部」と「下部」の融合が進んでゆくことになりました。

反ワクチンから極右へ

翌年1月、佐藤が主催した「パンデミック条約反対デモ」は、当時の反ワクチン運動としては大所帯となる数百人規模の参加者を集めました。池田利恵ら政界の反ワクチン勢力と、在野の有名活動家とが一挙に集結したことが一つの理由であり、4月の池袋で行われたデモには更に多い数千人が参加、反ワクチン運動が完全に勢いを取り戻します。

この時に運動の実務面を仕切ったのが「チャンネル桜」創業者の水島総でした。水島は草の根保守運動の代表的な活動家であり、「頑張れ日本!全国行動委員会」をはじめ十数年に渡り様々な政治運動を企画した大ベテランです。これを境に、反ワクチン運動に保守系論客が多数参加するようになりました。

中でも、5月31日に行われた林千勝による「WHOから命をまもる国民運動」のデモは参加者1万人前後という国内の反ワクチンデモとしては最大規模のものとなりました。日比谷の野外音楽堂で行われた集会には河添恵子や山口敬之など保守系界隈の人物と、井上正康のような反ワクチン界隈の人物とが一同に介し、両者の融合が視覚的にも示された出来事でした15

(2024年5月31日、パンデミック条約反対デモの先頭)

6月30日には、東京都知事選挙に立候補していた内海聡田母神俊雄が「共闘」を宣言し、翌月6日の最終日には合同での演説会を行いました(どちらかが撤退するというようなものではなく、全く意味のわからない宣言でした)。声明文では佐藤和夫と池田利恵の仲介があったことが示されていました16

(2024年7月6日、左から田母神俊雄・林千勝・内海聡)

田母神は4月の衆院東京15区補選や10月の衆議院議員総選挙では参政党候補への応援を行いました。元々反コロナワクチン傾向の発信も見られ、党の顧問だったという発言もありますが、明確に活動に加勢するようになったのはこの年からでした。衆院選では坂東忠信なども応援に立ち、保守政党としての性格を色濃くしてゆきます。

先述したように、こうした人々はかつては自民党の長期政権を支える存在でしたが、21年の東京オリンピックを境にお互いの橋渡しをしていた自民党安倍派が急速に弱体化、さらに岸田政権のもとで自民党包括政党路線へ回帰していったことが重なり、アイデンティティが危機に立たされていた時期でした。そこに佐藤のような「スピリチュアル極右」が自らの運動へ引き入れ、反ワクチン勢力と自然に合体していったというところではないかと推測されます。

(2024年衆院選政見放送、おそらく統一教会のことをあえて「半島系のカルト」と表現する原口一博)

一方、参政党の路線転換の副作用として、かつての党勢拡大を支えた中心メンバーの離脱が生じました。この内部対立は、今回の選挙における党派の乱立へと結びついています。吉野敏明は先述した南出喜久治と共に日本誠真会を結成、武田邦彦は日本保守党(国政)に協力します。無所属連合からは22年の末に参政党を離党した藤村晃子が立候補しました。

こうして、コロナ禍以降の反ワクチン・陰謀論界隈の情報コミュニティの中に、極右的な言説が一気に流れ込んでくるようになりました。その結果、在日外国人や帰化者に対するバッシングが強まるようになります。神真都Qも3月のデモ以降反ワクチン関係の主張が縮小し、「移民推進反対」を前面に押し出すようになりました。

(2025年5月18日、神真都Q東京甲隊デモ)

今年の春先に話題となった「財務省解体デモ」にも影響が現れていました。このデモは当初れいわ新選組の支持者が中心となっており、反ワクチン勢力の比率が高い状態でした17。回数を重ねるうちに反ワクチン団体「日本列島100万人プロジェクト」が関与するようになると、急速に日の丸を仕立てる形式の運動に変貌し、早い時期から移民政策への反対などが主張されるようになっていきました。財務省職員は全て帰化人」のような荒唐無稽な情報も飛び交う事態となりました。

(2025年1月31日、財務省・国会議事堂デモ。「財務省は中国の使い魔」と主張する演説者)

このように、コロナ禍以降に生まれた反ワクチン・陰謀論勢力の流れを組んだ政治団体の多くが「外国人問題」を主張した背景には、時流を捉えたというだけではなく、それ以前から続く運動の潮流の変化が反映されていた側面があったといえます。

令和時代の「保守」

参政党の躍進の背景には、安倍政権時代に自民党へ投票していたいわゆる「岩盤保守層」の票が大きく上積みされたという推測が広く見られます。一方で、その運動の様相には、上述したような経緯を踏まえた不可逆的な変化が生じた部分もあると筆者は考えています。

一つは、反ワクチン・陰謀論勢力との関係がもはや不可分と言ってよいほど密接となってしまっているという点です。元々こうした層は科学に関する誤情報に対して脆弱な側面がありましたが、Qアノンを経由することで現在では反標準医療やスピリチュアルが公然と思想の中核に組み込まれてしまっています

一方で、先の参院選においては参政党の主張する「発達障害は存在しない」などの言説に反感を示し投票行動を変えた人々の存在を指摘する調査もあり、有権者の間にこの政治空間の大変動が完全に浸透しているとは言い難い状況となっています18。互いのギャップが埋まらないままの状態が続いた場合、大きな分裂を呈するリスクとなるかもしれません。

また、もう一つは、長い間日本の保革対立の根幹を成していた「自主憲法制定」という「大きな物語」が崩壊しつつあるという点です。実は、反ワクチン勢力の中には憲法改正、特に安倍政権下で導入が目指されていたいわゆる「緊急事態条項」に対する反感が強く、改憲運動に対する結びつきは極めて弱い状態となっています。中には憲法改正反対を掲げた運動へと移行した団体までありました。

(佐藤らが製作したパンデミック条約反対ビラ。大勢を意識し「日本国憲法を"当面は"変えてはならない」という曖昧な文面となっている)

参政党も「創憲」を掲げ憲法改正案こそ提示しているものの、選挙に際してはあまり重要視しておらず、どこか「迷い」を感じる扱いとなっていました。我が国では国政選挙の折に「改憲勢力」という概念が援用されてきましたが、自民党が主導する憲法改正に大同団結する構図は今後あまり意味をなさなくなるかもしれません。

以上の2つの変化の根本には、反ワクチンを経て保守層に強い影響を持つようになった反グローバリズムの思想が影響しているといえます。移民政策もパンデミック下での国際協調もどちらも「反グローバリズム」の文脈で否定されうるものであるがゆえ、双方の接近を手助けする役割を果たしました。これは伝統的な日本の保守思想よりも、ここ十数年の欧米社会におけるポピュリズムの拡大に近い動きです。

参政党は時に「戦後まで日本人は小麦を常食していなかった」などの史実を明らかに無視した歴史観を提示することがありますが、これもまた「国民の物語」としての体系的な歴史から、反グローバリズム文脈における「ちょっとイイ話」の羅列としての歴史に需要が移っていったことの現れかもしれません。

一方、今回の選挙では参院選東京都選挙区の平野雨龍候補や、奈良県議選で当選したへずまりゅうなど、反ワクチン運動との関わりの薄い新たな排外主義勢力の台頭も目立ちました。先駆的事例となった河合悠祐を含めた彼らの特徴として、かつての行動保守の中心となっていた層より一回り下の世代で構成されていること、特定の党派に属さないローン・オフェンダー的な活動形態が目立つことが挙げられます(河合悠祐は確認団体保守党に所属していましたが、先ごろ離党しています)。

(2025年7月18日、左から市川たけしま、平野雨龍、浜田聡)

今回の参院選では、行動保守系にあたる日本第一党が撤退、沓澤亮治率いる日本改革党も党全体でわずか5万5232票しか獲得できなかった一方、平野候補は無所属という不利な立場ながら日本改革党全体の4倍以上にあたる23万5411票を一人で獲得する大健闘を見せました。これは、ヘイト系政治運動における行動保守の衰退と世代交代を決定づける結果といえます。

こうした動きに影響を受け、地方自治体の選挙に排外主義的な主張を掲げて立候補する動きが広がり始めています。彼らが国政に接近しうる大きな勢力を形成してゆくのか、そして参政党を始めたとした反ワクチン・陰謀論運動とどの程度の距離を取ってゆくのかは、今後の注目点となりそうです。

おわりに

冒頭で示したように、この記事ではあくまで運動側の内情を探ってゆく内容となりましたが、運動に参加する側がまたこうした極右的言説を受け入れたこと、そしてそれが選挙において一定の支持を集めたことは軽視できない点ではあります。

一方で、市民社会の大局的な動向を探る上ではそれを(語弊のある表現ですが)「仕掛ける」側の歴史を分析することもまた重要なのではないかと感じています。コロナ禍以降の政治運動はある意味で「裏側の歴史」であり、メディアや研究者が殆ど取り上げていない分野でした。しかし、今や「表」の政治空間にまで侵食してきた現状において、もはや無視できるものではないものとなったと思います(ウォッチャーとしては複雑な気分です)。

今後の我が国の政治においては、フェイクを利用して社会を動かそうとする勢力との本格的な戦いをしばらくの間、強いられることになると思われます。戦いの前線に立つ人々にもこうした「裏側の歴史」に目を向けて頂き、今後の議論の糧となれば良いと思います。


  1. 公明党秩序ある共生社会実現へ
  2. 参政党『第27回参議院選挙-27th House of Councillors Election- これ以上日本を壊すな!
  3. 黒猫ドラネコ『「原爆は偽装」の発言も…。元農水相が再登板を志願し、某市長や某政党代表まで登壇した反ワク団体GHFのキックオフミーティング(詳細レポート・後編)
  4. 鳥海不二夫ら『Anti-vaccine rabbit hole leads to political representation: the case of Twitter in Japan
  5. 原口一博による政治団体「ゆうこく連合」神奈川12区支部X投稿。公然と参政党の候補などを応援している。
  6. 新型コロナウイルス人工発生説については、諜報機関も真剣に検討した形跡がある一方、科学的には海鮮市場を起源と仮定することに特に矛盾はないとする見解が主流となっています(参考:谷口恭『武漢の研究室で作られた? 海鮮市場で始まった? 新型コロナウイルスの起源は…』)。
  7. ニコミ会公式サイト、選挙ウォッチャーちだい『 【confess】 安倍昭恵夫人の告発と「オールド左翼」の幻想
  8. 藤倉善郎日本で繰り返されるトランプ応援デモの主催者・参加者はどんな人々なのか
  9. 山崎リュウキチ『【陰謀論】日本とQアノンを結ぶ70年前の宇宙人
  10. ソース
  11. 雨宮純『参政党のこれまでを振り返る(結党~2021年編)
  12. 雨宮純『参政党のこれまでを振り返る(結党前史編)
  13. サルサ岩渕『【世田谷区】参政党に関する質問にお答えします
  14. 2020年2月に佐藤が主催した講演会「氣を喪失した日本
  15. 山崎リュウキチ『なぜ日比谷公園に一万人の陰謀論者が集まったのか
  16. 内海聡のX投稿
  17. 雨宮純『2024年12月~2025年3月14日の財務省解体デモ・財務省前デモまとめ
  18. 荻上チキ『なぜ参政党を選んだのか?〈後編〉ロシア工作疑惑、ファクトチェックの影響