作:擬人化カイオーガちゃんはいいぞ
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▼EP“さいしょは、わたしがいい”
「今日ミシロタウンってところで、最初のパートナーを貰うはずだったんだけど」
かいとがほかのこをさいしょのぱーとなーでもらうってきいて、わたしはすごくさみしくなった。
どうしてかな、どうしてかなって。じぶんのきもちがわかんなくて。
でも、まだだっていわれてあんしんしてた。なのに。
「ちょっと特殊だけど、相棒になるポケモンはここで捕まえるしかないんだ」
そんなことをいわれて、むねのあたりがきゅってする。
どうしてかな、なんでかな。かいとがほかのこといっしょにそとをみにいく……それがとても“いや”だった。
くるしい、やだ、なんで。いっぱいしらないものがあふれてきて、あたまのなかがぐちゃってなる。
「————、———?」
だから、かいとに“わたしじゃ、だめ?”ってきいたのに。
ぽけもんなら、あなたのことをたすけれるぽけもんなら、ここにいるよってつたえたのに、“わかんない”ってかおをするの。
「?? えっと?」
どうして、つたわらないのかな、なんでかな。むかむかってあついものがひろがってくる。
わたし、きっとおこってる。りふじんにおこってる。
だから、もうしらない。だから、かってにする。
かいとのもってる、もんすたーぼーるのぽちってしてるところを“ぴっ”てして。
「
「あ」
わたしのからだがきゅーってたまのなかにすわれて、きづいたらひとりになっちゃった。
「……
ここ、どこ。かいとは、どこ?
なんで、どーして、やだ……!
めにあついいやなものをかんじて、あたまのなかがぐちゃぐちゃになって、むがむちゅうにあばれようとした。
けど、どうしてもなにもできなくて、まるくなってぎゅっとじぶんのからだをだきしめて、なくしかできなくて。
「ちょ、どういうこと!?」
「
きづいたら、さっきのところにもどってた。めのまえには、とってもおどろいたかおをしたかいとがいて。
「————ッ!!」
「ぶふぉ!?」
さむい、さみしいのをなくしたくて、かいとのほうにとびついちゃった。
▼
「お、落ち着いた……?」
「……——」
「そ、そか……」
モンスターボールに吸い込まれたカイオーガを慌てて出して、なんで? と聞こうとしたのに、なぜか泣きべそべちゃべちゃで抱きつかれている。
ポケモン以外にモンスターボールが反応して吸い込んじゃう……なんて話は聞いたことがない。よっぽど怖い目にあったのだろうと、申し訳ない気持ちがあって彼女にされるがままなわけだが。
「……、………————」
「ぐ、ぐぐぅ……へ、平気だから……大丈夫だから……」
ぐりぐりと顔を胸に押し付けて、ぎゅ〜〜っと物凄い力で抱きしめられている。最初はお腹のあたりになんだか幸福な感触もありつつ、慌てていたのだが。
どこからそんな力を出しているのか、カイオーガの怪力に絞められてめっちゃ顔が青くなっているのが自覚できる。
なんか骨がミシミシいってる気もする。オレの体の方がよっぽど平気じゃない。
それから数十分。
必死に声をかけたり、背中をポンポンしたり。なんやかんやと慰めていれば、ようやく顔だけは離してくれた。
ああ……海水とは別の塩水で服がびっしょり……。
「大丈夫? とりあえず拭こうな?」
「————」
「なんで今度はご機嫌なんだ……」
ビッシャビシャになった顔を丁寧に拭ってやると、すりすりと頬を押し付けるように触れてくるカイオーガに“拭きづらい!”と口では言いつつも、ちょっぴりドギマギ。
顔が良い。そんな子がふにゃっとした顔ですりついてくるとか、顔が熱くなるわ。
そんなやりとりをして、ようやく海水の上へと座り直す。……なんで海水の上に座ってるんだろうか。
「えっと、それで……なんでモンスターボールに入っちゃったんだ……?」
「?」
「どうして“なにが?”みたいな顔してるのさ」
「———!」
「“せいかい!”じゃないよ!」
ニコニコと嬉しそうに頷くカイオーガにちょっと大きな声でツッコミを入れてしまうが、より楽しそうにきゃっきゃとし始めて、こっちまで笑ってしまう。
本当に幼い子を相手している感覚に近いなぁと思いつつ、カイオーガが入っていたモンスターボールを確認してみる。
……捕まえたことになっているのを見て、顔を少し顰める。これ、間違いなくこの子が登録されてるよなぁ。
なんでだろ、とモンスターボールとカイオーガを見比べていると。
「……——」
「あ……怖いの?」
「——」
神妙な顔でこくりと頷くカイオーガ。確かモンスターボールの中は、ポケモンにとって居心地の良い環境になってるみたいな話だったけど、たぶん人間? のこの子にはそうじゃなかったようだ。
「あ、というか。一応確認なんだけど」
「———?」
「カイオーガってポケモンなの……ってこの聞き方だと変になるなぁ……。えっと、キミってポケモンなのか?」
そんなことはないと思うけど、と前置きはありつつ直球で聞いてみれば。
「——」
当たり前のように“こくん”と頷いたカイオーガを見て、口元をひくつかせたのは言うまでもないだろう。
つまりは、あれか。この普通……ではないかも知れないけど、女の子にしか見えない目の前の子を捕まえてしまったと言うことなのか。
…………えぇっと。
「あの……。オレがゲットしちゃった、ってことで良いのか……?」
「——」
「いやあの……」
「?」
「すぐ逃すから……!」
「——!?」
どうしよう、逃すとかってどうやってやるのかな……!?
慌ててモンスターボールをガチャガチャといじって、機能を確認していると。
「——! ——!! ————!!!」
慌てた様子のカイオーガがバシバシと水面を叩きながら、今にも泣きそうな表情で頭をぶんぶん振って止めてくる。
「な、なんで……? だってさっきのは事故で」
「————!」
「んと……?」
「————」
カイオーガは自分を指差したあとに口を大きく開く。これはきっと何かを伝えたいのだろうと、じっと口元と彼女の動作を注視する。
「“わたしは”?」
「————」
「“かいとの”?」
「————!」
「“さいしょ!”……?」
すっごい頷いてる。めっちゃ笑顔ですごい勢いでぶんぶんって頷いてる。
“さいしょ”って言うのは、初めて捕まえたポケモンがってことなんだろうけど。うーん、えぇ……?
「俺のパートナーポケモンになってくれるってことであってる……?」
「っ! ————!!」
目を“><”にしてバタバタと手を振っていたカイオーガは、ハッとした顔になってから“ふんす!”と繋いでいる手の反対側を胸元に持ってきて、ガッツポーズ。
“やる気満々です!”と言う顔で見つめてくるカイオーガに、身体を引きそうになる。
オレ自身、別に嫌とかではないんだが。この子が初ゲットのポケモンとか、あまりにも異質なパートナーすぎないかな、なんて思ってたりするんだけども。
「——! ————っ!」
「う……」
こんなにも自信満々に、そして期待に満ちた目でオレを見つめてくるカイオーガに“ノー”なんて言えるはずもなく。
ピクつく口元を無理やり笑顔に変えて、力ない声でモンスターボールをしまって。
「よ、よろしく」
「——」
改めての挨拶を伝える。そうすれば、目を少し細めたカイオーガが微笑むようにして頷き、きゅっと手を握り直してくれる。
自分が教えた“よろしく”を早速使ってくれたようで、照れ臭い気持ちになるけれど、初めてのポケモン? をゲットできたと嬉しい気持ちが多少はオレにも芽生えていた。
というか、この子がポケモンだとしてどういった存在なんだろうか。まさか本当にカイオーガじゃあるまいし。
彼女の全身をもう一度上から下まで何度も、ゆっくりと眺める。
「……」
「——?」
“はて?”なんて顔をしている少女の外見。水色の長い髪、両手の先は大きなヒレのようになっており、先には爪のようなもの。
腰にはピンクのスカートのようなものが。腹部は真っ白でぴっちりとしたスクール水着のよう……と言うかちゃんと身体の一部のみたいで、男としては直視するだけで恥ずかしい気持ちになってくる。
頭にはこれまた蒼いヒレが両サイドに付いており、体のところどころにある紅いラインの模様は特徴的だ。
見つめてくる黄色、いや山吹色の輝くような瞳は少し眠そうな半眼で、その奥には深海のような青と黒が混じった瞳孔。
……いやあの、これ。本か何かで読んだカイオーガの特徴にそっくりだけど、気のせいだよね。だってこの子、カイオーガにしては小さすぎるし!
「考えても仕方ないな、うん」
「————」
「なんでもない!」
「————……?」
“そうなの……?”なんて言いたげなカイオーガからそっと目を背けて、まずは脱出の手段を……って。
「あれ、カイオーガ」
「——?」
「もしかしてだけど、オレのこと抱えてここからでれるの?」
「——!」
ぽんっと胸を叩いて、“うん!”と頷いたカイオーガがあまりにも頼もしい。
それはそれとして、こんなにもあっさりと助かるかも、となると気が抜けて脳内物質が切れ始めるわけでね。
「っと……」
ふらっとしかけた身体をなんとか持ち直して、痛みと疲れを訴え始めた身体に苦い顔をする。
まずいなぁ、ちょっと無理をしすぎたかも。薬とかはない、と言うか使えなくなってるし。
海水を吸ってダメになっているリュックの中身を思い出して困っていると、何かに気づいたカイオーガがそっと頬に触れてくる。
「あっ、と……どうかし——む?」
「————!」
続きをしゃべる前にそっと唇に手を添えられて黙らされてしまう。急にそんなことをされて困惑したまま、カイオーガの顔を見ていると、彼女は一度目を閉じてから。
「———」
何かを呟いたように見えて……すぐに変化が現れる。カイオーガとオレの周りを、水で出来た煌びやかなベールが包み込んでいく。
目の前で急に起きた不思議な事象に一瞬だけポカンとしたが、すぐにこれが“アクアリング”だと気づく。
なんたって、自分の体の傷が本当にゆっくりと少しずつ回復している。気のせいでなけば疲れも消えている、ような。
目の前の女の子が本当にポケモンである。それを確信させる光景に目を丸くして驚く。
呆然とカイオーガを見つめていれば、ゆっくりと目を開けた彼女が、その小さな口を開いて。
「
「ぁ……うん」
「
「あり、がとう」
どうしてかはわからない。でも、この瞬間だけはカイオーガの伝えたい言葉がスッと頭に直接伝わってきた。
微笑んで頷いた彼女にお礼を伝えて。それから、かなりマシになった身体を確認してから、次のお願いをカイオーガに伝える。
「何度も頼み事をしてごめんだけど。オレを地上まで連れてってくれるか?」
「————————、————……」
頼み事を聞いたカイオーガは、同意するように頷いて何かを言った後、わずかに首を横にしてオレへと問いかけてくる。
声のない質問に一瞬だけ、“なんだろうか”と疑問に思ったけど、すぐに意味を理解してちゃんと言葉にして伝える。
「ん、と。大丈夫、もうカイオーガはオレのパートナーなんだよな?」
「——」
「なら、オレと一緒に行こう」
「————!!」
とびっきりの笑顔と、喜びを抑え切れなかった突撃によって少しだけ体勢を崩した。
みっともない格好で腰をつけて、手持ちのポケモンを受け止められないような新米トレーナーのオレは、今この瞬間に。
これから先ずっとお世話になる相棒と、最初の絆を結んだのだった……って言うのはちょっと照れ臭いなぁ。
ちなみに、この後の地上までの脱出はというと。
「————♪」
「がぽぽ!がぽぽ!!(早い!早い!!)」
とんでもないスピードで泳ぐカイオーガに抱えられて海中で叫んだり。
「グガガガー!」
「(うわ、サメハダー!?)」
「——!」
「グガッ!?」
「(マジで!?)」
「——?」
襲いかかってきそうだったサメハダーを睨んだだけで追い払ったカイオーガに驚愕したりと、短いながら非常に濃い帰り道だったと記しておく。
やっぱりキミ、カイオーガなのでは?
「