作:擬人化カイオーガちゃんはいいぞ
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▼EP“わたしの、だもん”
「
「う、うん……」
かおがきゅってなって、おろおろしたかいとが、わたしのからだにぎゅってしてくれる。
みているところは、みずのそこ。そとにつながってるばしょを、じっとみつめてる。
……ふあん? だいじょうぶだよ、わたしがいるよ。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけのちからで、ぽんぽんってしてみる。
きっとわたしのふつうは、ふつうじゃないから。かいとをいたくしちゃうから、やさしくさわる。
「ん、あ……大丈夫だよ、ありがと」
「
「だって、カイオーガが守ってくれるんだよね」
「
ぼろぼろのかおで、かいとはわたしをみて、ちょっぴりつかれためで。
「なら、安心して任せるよ。頼んだ」
「
たのんでくれた、たよってくれた。ほかのひとたちみたいにこわがって、なにかをおねがいしてくるんじゃなくて、ただ“よろしく”ってしてくれた。
だから、すっごくうれしくて、はりきっちゃった。かいとをぎゅってして、ざぶーんってうみのなかにはいった。
なつかしい、うみのなか。
においもかんしょくも、わたしがしってるのとあんまりかわらない。
きもちいいみずがわたしのからだをなでる。すごく、すごくひさしぶりにおよげてる。
あいつがおそってこない。あいつがいないうみで、あつくないうみでおよげてる。
「
「がぽぽ!がぽぽ!!」
かいとがへんなかおで、とんとんってわたしのせなかをたたいてる。どうしたのかなってかんがえて、このこのからだがすごくゆれてるのにきづく。
「
「がぽっ!がぽ!!」
「
わたしのいいたいことがわかってくれたのかな。すっごくうなずいて、ほっとしたかおになってる。
……そんなに、はやかったかな。
ちょっとだけおそくして、かいとのいきたいりくのほうにおよぐ。くうきがひつようだから、なんどかうえにいって、またおよいでをくりかえす。
だんだん、たのしそうなかおをしてくれるようになったかいとをみて、わたしもうれしくって。
ちょっとだけふかいところにもぐってみたら、なにかきた。
ばってんまーくがついためのあかいやつ。なんだろーなっておもってたら、かいとがばたばたしてる。
「(うわ、サメハダー!?)」
どーしたのって、きこうとおもった。でもわたしとかいとのほうにきてるのが。
「グガガガー!」
特別意訳:お、なんかおるやんけ!
「(なんであんなに興奮してるんだよ!!)」
かいとをみてよろこんでる。たのしそうにあそぼうってさそおうとしてる。
……。
…………。
………………なんか、むかむかってする。かいとは、わたしのなのに。
「
「グガ?」
「
「グガッ!?」
あ、いっちゃった。あれ、なんかすっきりした……?
ふしぎなかんかくだなって、なんだろーな、ってかんがえてるとかいとが、びっくりしたかおでわたしをみてた。
「(マジで!?)」
「
よくわかんないけど、なんだかびっくりしてる。どうしたんだろうなって、でもきにしないでっていわれて。
かいとにいわれたことだから、まえをみておよぐ。わーっておよいで、あっというまにりくがみえて、なんだか。
「────」
「(あと少しだな!)」
「
このじかんがおわっちゃうんだ、ってさみしくなっちゃった。もっと、かいととふたりでおよいでたかったな。
▼
「あ〜〜! 地面の感触ぅ〜〜!!」
「────……」
砂浜のジャリジャリとした感触、キューキューとうるさいキャモメの鳴き声、さんさんと照り返る太陽の光。
海水でべちゃべちゃになった服にくっつく砂を無視して、この愛おしい大地を抱きしめるように大の字でばたばたする。
なんだか呆れたような、ムッとしたような視線を真横から感じるが、今はこっちが優先だ。
ここは元の目的地であるミシロタウンの小さなビーチ。奥に目を向ければ、美しい木々や草が生い茂っている自然に囲まれた街が見える。
「安心するぅ……」
だが、それよりも生きてこの場所に帰ってこれたことに安心と感謝を。ほんとに生きてるぅ〜〜!!
うつ伏せからくるりと仰向けになって、雲ひとつない真っ青な空を見上げて生を実感する。ああ、本当に良かった!!
「
大声で笑いながら笑顔で“青空サイコー! 太陽サイコー!!”と叫んでいると、真横で足を屈めてそれを抱きしめながら、ジトーッとした目でオレを冷えた表情で見てくる子がいるが、一度おいておき。
「やっぱり地上が一番だぁ〜〜!!」
今はこの瞬間の噛み締めることにしよう、うん。空を見上げて大きく息を吸ったタイミングで、ペしりと肩をはたかれる。
「いてっ」
「……──」
そっちを見れば、ぷく〜〜と頬を膨らませ、眉を八の字にして“わたし、ふきげん”と顔に書いたような表情のカイオーガがいた。
彼女は何度もペシペシと大きなヒラを使ってオレを痛いような痛くないような絶妙な力加減で叩きつつ、拗ねた顔になっていく。
「どしたの? あの、ちょ、ちょっと……一回叩くのやめよ?」
「────、──────!」
「なんでそんな怒ってるのさ……」
カイオーガはぷっくりと頬を膨らませたまま、自分が不機嫌になっている理由をジェスチャーと口パクでで伝え始める。
まずはビシッと空に浮かぶ眩い太陽を指さして、大きく口をぱくぱく。それはどう見ても
「────」
「太陽?」
ふんす、と頷いてから一回バッテンを作る。次に海を指さして、両手を大きく上下にして何かを表し始めた。海水が上に行って、下にくるのをくりかえす……?
「う〜ん?」
「────っ!!」
「水が降る……? 雨??」
「っ!」
嬉しそうに大きくうなずきながら腕全体で大きくマルを作ったカイオーガ。えっと、太陽はバツで雨はマル……。
「“雨の方がいい”ってこと?」
「──、──!」
「えーっと、そうかなぁ」
雨の方が好きって人、そんなにいないとおもうけどなぁ、なんて思っていれば。
むくれたカイオーガが立ち上がって、手をばんざーい! と伸ばして、むん! って顔でオレの方を見たまま、それを下に大きく振り下ろす。
すると急に空が曇りだして、ザバァー! っとすごい勢いで雨が降り出した。
「ちょ、あまごい!? いやこの勢いはなんかの特性!?」
「───!」
「“ふんす!”じゃないよっ! ちょ、濡れる濡れる! せっかく乾き始めたのに!」
慌てて頭の上にリュックサックを乗せて簡易的な傘に。大丈夫かもしれないけど、もしかしたら風邪引くかもとカイオーガの手を握って木の方向に小走りで雨宿りへと向かう。
「ほら、こっち!」
「っ……───?」
「なんでそんな反応なの!?」
「───、──────……」
モジモジとしたあとに、握ったオレの手をきゅっと握り返して“えへへ”と笑うカイオーガ。嬉しそうだから別にいいけど、なんで喜んでるんだろうな、と思いつつもすぐさま木の影に入ったところで。
「あれ、晴れた……」
「
「もしかして雨をやめてくれたの?」
「───」
ちょっと不満げながらも、どこか満足したように頷くカイオーガ。焦って小走りしたけど、これなら別にその場にいても良かったかなぁ。
キョロキョロと景色を見渡して、空を見上げればさっきまでの雨はどこへやら。快晴の空模様がオレとカイオーガを照らしている。
一度息を吐いてから、街の方へと向き直る。時刻は太陽の位置的に朝方で、きっと昨日の遭難から1日以上は経過しているのだろうと推測できる。
「ちょっと気が重いけど……」
「─────?」
ミシロタウンの方からカイオーガに目を向けると、“どうしたの?”と首を傾げる姿を見て不安が増す。
たぶんだけど、大嵐の中で船から落ちて行方不明みたいなことになっているオレが、急に人っぽいポケモンを連れて“図鑑とポケモンくださーい”とか言ってみろ。
もう、考えるだけで目眩がしてくる。しかもその人型のポケモンがもしかしたら……。
「たぶんカイオーガ、なんだもんなぁ……」
「??」
キョトンとしたカイオーガに苦笑いを浮かべて、どう言い訳をするべきかなと考えながら彼女を引き連れて、ポケモン研究所……オダマキ博士のいるところへと歩いていく。
まずは大遅刻をしてしまったことを謝って、岩か何かにぶつかって故障したポケナビをどうにかして……この子の言い訳は、うーん。
「というか、服装もやばいよなぁ……」
「──?」
「その、カイオーガって今裸みたいなものだよね?」
こくんと頷いて、“それが何?”とでも言いたげな顔で見つめてくるカイオーガにまた目眩がする。
ただのポケモンならば全く問題ないのだけれど、こんなぴっちりした水着みたいな格好で歩くのはオレ、良くないと思うんだ。
というかやっぱり裸なのね。え、ということはあの胸の出っ張ったところって————。
「ごほんっ!!」
「
「なんでもないです。とりあえずこれを着てください」
「?
来ていたトレーナージップパーカーを脱いでカイオーガに手渡すと“?”と頭の上に浮かべながら、見様見真似で着ていく姿に心が落ち着いていく。
服を着るの自体が初めてなのか、袖を見て“うーん”、首元を見て“はて?”と四苦八苦しているカイオーガ。頑張って着ようとしてくれているが、数分の格闘ののち。
「───………」
“わかんない……”と、しょぼくれた顔で服を持ったままオレを見つめてきた。
それもそうか、となるべく視線を下に向けずにファスナーを開いてカイオーガの肩に合わせてから、腕を通そうとして……うん。
「ヒレが大きくて入んないな、これ」
「───」
「う〜ん、どうしたもんか」
「
「何が言いたいかわかるけど、オレがよくないの」
「??」
“そうなの?”。絶対にそう思っている顔でオレを見つめてくるカイオーガは一度置いておき、どうしようかなと考える。
体自体は小柄で服のサイズは問題ない。むしろ大きいくらいなんだけど……とりあえずは。
「肩にかけて、腕のところを結んでおこっか」
「──」
肩に被せるようにかけてからファスナーは閉めずに腕を通す部分を軽く結ぶ。ちょっと暗めな紺色のパーカーだが、カイオーガの色的にもそこまで違和感はないなと着せてみて頷く。
「うん、だいぶマシになった……はず」
「──、────?」
「あ、ぷらぷらしてるの気になる? ごめんだけど、とりあえず我慢してて」
カイオーガは身じろぎをする度にお腹の辺りで動く服の袖部分が気になるようで、じーっとそれを見ている。
そして何を思ったのか、袖を器用に両方のヒラで掴んだかと思うとクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
え、何してんの? 待って、めっちゃ恥ずかしい。訳もわからない初めての羞恥がオレを襲う。
「や、やめてっ!? なんかむっちゃ恥ずい!」
「──────(すんすんすんすん)」
「なんで真剣な顔でさらに嗅ぎ出すんだっ!」
「────、───────……」
「なんで満足げな顔で何度も頷いてるのさ……」
ふにゃっとした笑顔でなんかご機嫌になったカイオーガ。オレの匂いを嗅いで満足って、ポケモンのテンションをあげるパワーでもあったのかな。
妙な彼女の反応につい自分の体の匂いを嗅いでみるが、自分じゃ自分の匂いなんてわかるはずもなく。
カイオーガの反応に不思議な顔をしていれば、ふと何やら視線に気づく。その方向へと視線を向けて見れば、遠巻きでオレたちを観察している人を数人見つける。
「……見ない顔だねぇ」
「この辺に来たばかりのトレーナーじゃろ。昨日もたくさん来ておったし」
「そういえば今日引っ越してくる子がいるみたいな話じゃなかったか」
「女の子じゃなかったー?」
「あの横の子は……」
やっば、朝から騒ぎすぎた。
慌ててその人たちの方向にぺこぺこと頭を下げた後にカイオーガの手を引いて、なるべく木陰に隠れながら目的地であるオダマキ博士のポケモン研究所の方へと歩いていく。
数件の民家と瑞々しい自然、木々に囲まれたミシロタウンはとても穏やか。この先には101番道路があり、コトキタウンへと向かうことができる。
初めてくる街の風景を眺めてカイオーガと歩く。
彼女も興味はあるのか、しきりにキョロキョロとあたりを見回している。道中で大きなトラックが止まっている家が、なんだかバタバタとしていたがどうやら引っ越し作業の最中のようだ。
その道中でちょっと妙なことも。
見ない顔であろうオレたちを物珍しげに眺めてくるこの街の人々。その視線を受けたカイオーガが。
「───っ」
悲しそうに、そしてどこか苦しそうにしてオレの背中に隠れていた。どうしたのだろうと声をかけてみても、ふるふると首を振るだけ。
具合でも悪いのかなと足を止めようとしたが、むしろグイグイと背中を押して“早く行こう”と伝えてくる。
「なんかあったら言ってね?」
「——、————」
「よし、じゃあちょっと緊張するけど、博士の研究所に行ってみよう」
多分すっごい怒られるし、カイオーガを見てどんな反応をされるかは予想がつかないけれど。自分の旅のスタートラインにようやく到着できそうだ。