後ろ姿からして可愛い女の子が踏切の中で転んでいた。
電車が来る警告音があたりに鳴り響いている。
『可愛い子は何としても助けろ』
そう言って夜の街に消えていったひい爺さんを思い出した。
________気がついたら、俺は彼女を突き飛ばして線路に立っていた。
「ああ……悪りぃ俺死んだ」
目の前に迫っていた電車を見て覚悟を決めた。
身長も高くない、顔も良くない、なんの取り柄も無い俺が最後に誰かの役に立てた。それだけで十分だ。
「幸せにな」
そう言って助けた彼女の顔を見た。
………
……………あ?
ババアじゃねぇか!!!!?
そこで意識は途絶えた。
_______________Now Loading
俺は気づいたら赤ん坊になっちまってた。
一体全体、何を言ってるかわからねぇと思うが俺も何を言っているかわからねぇ。
まあ最初は混乱したが次第に落ち着いて喜んだ。赤ちゃん言葉しか喋れないが、そりゃあもう絶叫するくらい喜んださ!第2の人生でそれも記憶を残したままだ!天才児と呼ばれる日も近い!ってな。
そう思ってた時期が私にもありましたッッ!
今?今の気持ちは神よ○ね!としか思わないね。
なんでだって?………俺が生まれ落ちたのは現代文明から程遠い世界だからだよ。
携帯は無い、車も無い、てか現代のものが一切ない。家は藁の屋根で明かりは松明、それに村の外は平原しかないときた。
もっかい死んだらもっと良い世界に生まれるとかない?ないよね。
こうなったら覚悟を決める。
俺はこれでも頭は良い方なんだ!知識を使って村を豊かにしてやるぜ!そして暮らしやすくして褒められて崇められて俺のハーレムを作る!!!
「_______________って思ってたのが10年前」
知識使って村を豊かに?無理無理!生まれて間もない子供が頭使った動きしたら殺されかけたもん!なんならそのせいで俺の父親が死んだ。
母親からは悪魔を見るような目で見られるし、村の人間は関わってこようともしない。
全く酷い奴らだぜ。こっちは善意で行動しようとしたのにさ。
「ま、そのおかげで農耕や家畜の世話をしなくて済むんだけどね。」
それに働いてないのに飯くれるし、意外に情は深いみたい。そんな環境に甘えてもう10年ですよ!時の流れってのは早いものだね!
「さて!今日も今日とて俺は丘に寝転んでお昼寝さ!」
全く娯楽がないこの世界は寝ることしかやることがなくて困っちゃうね。
っと思ってたら誰か来た。
「なんだ
「………」
皆さんにご紹介します!
村唯一の良心!ユミルちゃんでーす!
彼女はみんなから避けられてる俺を不憫に思って、いつも俺の傍に来てくれるコミュ障の女の子だよ!
「また飯持ってきてくれたんだ!ありがとね」
「……うん」
みんな俺を嫌がってるから、俺のご飯はだいたい彼女が運んできてくれる。
「まるでニートと母親だな……!」
「……ニート?」
「あー?えっとニートってのは家を守る立派な自宅警備員さんの事だよ!」
「でもアナタは家を守ってないよ?」
「おっと、正論で返されると俺の心が折れちゃうぜ」
「……変なの」
おいおいおい。そんな心底変なものを見る目で見ないでくれよ!唯一の良心であるユミルちゃんにそんな目で見られたら、興奮し……悲しくなっちゃうよ!
「……でも」
「?」
でも?
「家は守ってないけど………私を守ってくれた」
「………ユミルちゃん」
守った事ありましたっけ?
いや全然記憶にないんだが!俺がユミルちゃんにした事といえば、下着履いてるのか聞いた事や、水運ぶの手伝ったら転んで頭からぶっかけた事くらいだぜ?
それ以外は本当に何もしてないよ?………してないよな?
「…………犬、から守ってくれた」
「あ!」
そうだ!狩で使う犬に何故か追いかけ回されてた時に助けたよ!
「あー!そうだったね!」
「……うん」
ユミルちゃんは犬が大の苦手みたいで、ちょうど周りに大人がいなかったから俺が助けたんだった。すっかり忘れてた。
にしても義理堅いねぇ!そんなことで俺に肩入れしてくれるなんてさ!
「もしや………」
「……?」
「ユミルちゃんそれで俺に惚れちゃったりしてるー?」
HAHAHA!!
まあ!俺は前世と違って顔も整ってて(自己判断)、背も高い(同い年と比べて)、何より性格が良い(自己判断)だからね!
可愛いユミルちゃんが惚れちゃうのも仕方ないんじゃない?
「なんてね!冗談だよ!じょーだ……」
そこには顔を真っ赤に染めたユミルちゃんがいました。あら可愛い。
じゃなくて!!
「マジか」
「ッ!」
真っ赤な顔を俺に見せまいとふ向いてしまうユミルちゃん。
冗談だったんだがまさかの大穴、大当たり。
今思えば、ご飯持って来てくれるのも暇があれば俺のそばに来るのも俺が可哀想だからじゃなくて、好きだからって事?
「………えっと」
こうゆう時、なんて言えば良いんだ!?前世の俺助けてくれ!ダメだッ!俺の前世は死ぬまで手も繋いだことない童貞だった!!
こんな事ならひい爺さんに貰った【女を落とす2000個の技】を読んでおくべきだった!
ええい!聞いたことがある!こうゆう状況は度胸で乗り越えるって!
「ユミルちゃん!!」
「!」
ユミルちゃんの手を両手で掴む。伏せていた顔を上げて目と目が合う。
大きく息を吸って背筋を伸ばしてキメ顔で口を開いた。
「もうちょっと大人になったら結婚しよう!」
「!!!!!!?」
瞬間、ユミルちゃんの頭から煙と共に爆発音が聞こえた気がする。
顔がマグマみたいに赤くなってるユミルちゃんと見つめ合う。
こんなこと10歳の子供同士がする事じゃないし、会話もおかしい。テンションがどうにかなってて、まともな思考じゃないけどもう撤回はできない。
てかフラれたらどうしよう。広いにしてもみんな顔見知りの村でフラれたら俺は生きていけないっ!
てかユミルちゃん返事は?YESかNOの2択なんだから早く答えてください!この時間心臓に悪い!
てかNOはやめて!YESしか言わないで!一択問題です!答えを早く!
「……ユミル、さん?」
掴んでいた両手の片方にユミルちゃんの手が絡んでくる。
心臓がドキドキしまくって口から出てきそう。
_______________コクリ、とユミルちゃんは頷いた。
「やったあああああああ!」
この世に生まれ落ちて10年!前世と合わせて30年!遂に俺は彼女で将来のお嫁さんをゲットしました……!!!
この後、手を繋いで帰った俺達は俺の叫び声を聞いて警戒した門番さんに槍を向けられました。解せぬ。そんなに俺怖い?
_______________って幸せな事があったのも束の間。
俺達はみんな奴隷にされた。
大人の健闘虚しく村は焼き払われ、母親は殺された。
その上、村全員が舌を切られそうだったが、俺の知識を最大限に活かして有用性を示した。そのおかげで全員とはいかずとも俺とユミルちゃん、あと数人はソレを免除された。
そこからは、地獄の日々だった。
休むことも出来ない労働の日々。まともに飯も食えず、水も飲めない。
こんなことが永遠に続くのだろうか。
そんなことを思っていたら前を歩いていたユミルちゃんが足を止めた。
「足止めるとまた殴られちゃうよユミルちゃん」
そう言ってユミルちゃんが顔を向けている先を見ると、着飾った服と花飾りを身につけた女性と同じく着飾った男性がキスをしていた。
その周りには二人を祝福するように拍手をする者や贈り物をする者がいた。
「…………」
その光景を見るユミルちゃんは悲壮感いっぱいで抱きしめたくなった。
「ユミルちゃ…「おい!そこ!さっさと働け!!」…すいません!」
「……」
見張りに怒られて歩き始める俺達。
ユミルちゃんは見えなくなるまでずっと結婚式の方を向いていた。
その日の夜、豚が何者かによって逃がされた。
『この中に、豚を逃がした者がいる。名乗り出よ。さもなくば全員から片目をくり抜く』
とんでもねぇ事を言う王様だな。くたばれ髭ジジイ。
てか豚を逃がすなんて命知らずな人もいるもんだな。勘弁して欲しい。
なんて考えていたらその場の全員がユミルちゃんに指を向けていた。
「この畜生共……!!!」
こいつら!ユミルちゃん1人に全部擦りつけようってのか!!?
「俺だ!!!俺が豚を逃がした!文句あるか糞王様!」
「……!」
ユミルちゃんの前に立って王様に怒鳴る。
近いうちに戦争に駆り出されて死ぬ命だ。どうせだったら好きな女の子守って死んでやる。
『きさま……!よかろう!貴様
「なっ!」
この糞王!ユミルちゃんに情があるのを察してどっちにも罪を被せやがった!!
「逃げるぞユミルちゃん!!」
「!」
ユミルちゃんの手を引いて走り出す。
前までは健康的で綺麗な手だったユミルちゃんの手は、今ではザラザラで皮だけみたいだ。
まじで許さねぇぞ糞王!絶対に生き延びて、お礼参りしてやるからな!
森に入ると全速力で走り抜けていく。間伐がされて馬が走れる空間があるから早くこの場所を抜けないと、追いつかれてやばい。
「ハァハァ!ユミルちゃん!まだ走れる?!」
「………大、丈夫」
そうは言うもののだいぶ息も切れて足も重くなってきた。くそ!子供の体が憎い。
「……!きた!!」
犬の声と共に馬の足音が聞こえてくる。
奴らがきやがった!性根の腐りきった畜生共……!
「いっっっ!!……がァッッ!」
矢が俺の足に突き刺さった。続けて右腕にもう一本刺さる。
あまりの痛さに躓くと、斜面を転げ落ちて木に体がぶつかる。
「……!」
「大丈夫大丈夫!早く逃げよう……!」
ユミルちゃんが心配してくれる。しかし全然大丈夫じゃない。痛さでまともに走れてないし、意識が朦朧とする。
「こっちだ!」
馬に乗って追ってこられないように木が密集した場所に入ると、子供の体を活かして通り抜けていく。
『おい!こっちだぞ!犬を使え!!』
アイツらの声が聞こえる。
落ち葉や枯れ枝を踏む音がだんだんと近くなってくる。
ほんと人を虐めることに関しては用意周到だよな畜生共!
「……ハァハァ!………これ、木か?……デカ」
「……!」
前世でも見た事がない巨大な木。それが目の前にあった。
まるで漫画に出てくる世界樹のような姿に目を奪われる。
『いたか?』
「「!!」」
すぐ側までヤツらが来てる!どこか隠れる場所は……!!
「あれっ…!」
ユミルちゃんに手を引かれる。指差す方に目を向けると巨人樹の根元に空洞があった。
ここに立ち止まっているよりかはまだマシだろう!
「行こう!!」
「……うん!」
空洞に入ると真っ暗で何も見えなかった。
慎重に進みながらアイツらに追いつかれないよう奥へと進むと、地面が無くなった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「!!!!!!」
底が見えない穴に2人揃って落下する。
マジかよまた死ぬのかよ!今世だとまだ10年と少ししか生きてないぞ!!
と、思っていたら水の中に落ちた。
「助かっ……!」
助かってない!腕の痛みで酷くて泳げない。やばい!それにかなりの高さから水面に落ちたから衝撃が半端じゃない。
「ユミル、ちゃん……!」
「ヤマ……!!」
お互いに手を伸ばして握りしめる。俺は最後の力を振り絞ってユミルちゃんを抱き寄せる。
死ぬんなら、せめて一緒にいたい。
段々と沈んでいく。
水面に見えていた微かな光も見えなくなって、意識が遠くなっていく。
最後に見た光景は_______________
_______________光るムカデみたいなのが2つに分離してる様子だった。