Anthropicの和解提案により生成AI「無断学習」の合法性の議論は先送りに
「Anthropic著作権侵害訴訟、和解へ──史上最高額の著作権回収に」というニュースがありました。米AI大手のAnthropicが自社の生成AIモデルの訓練に出版済み書籍のデータを使っていたことに対する、著作権侵害訴訟が巨額の和解金により解決の見込みというお話です。
この訴訟は、米国の複数の作家を原告とするクラスアクション(集団訴訟)です。その点では、ちょっと前にあった、Google BookSearchの訴訟に似ています。新たなテクノロジーによって可能になった、著作物の大規模利用に対して、著作権制度をどのように対応させていくべきかという点で長期的な影響がある訴訟です。
この訴訟の和解提案前の裁判所の判断をものすごく大雑把に述べると以下のとおりです:
① 書籍データに基づいて生成AIを訓練することは原則的にフェアユースにあたる(許諾不要)(著作物をそのまま使うわけではなく変容的(transformative)な利用(新たな著作物を生み出すための利用)というのが大きな理由)
② 無許諾で複製された書籍データ(いわば海賊版)を使った場合はフェアユースに当たらない(許諾がなければ複製権侵害)
今回の和解案は、②の問題をクリアーすることが目的です。Anthropic社が、15億ドル(約2,200億円)(1作品あたり約3,000ドル)を和解基金として支払うこととなっています。まさに金の力という感もありますが、現時点の企業価値1830億ドルのAnthropic社にとっては、訴訟を早期終結させる方が優先ということでしょう。
この後、和解案が裁判所に承認されれば、上記の②の問題は事実上解決しますが、①の方は判例として確定することなく裁判が終わります。合法的に入手された訓練データを使用し、かつ、訓練データと類似の作品が生成されないよう対策されているという「クリーン」な状態で、生成AIの学習処理が一般にフェアユースと認められるか(認められるためにはどのような条件が必要か)は多くの人々の関心事ですが、その直接的答はこの裁判では出ません。
もちろん、今後、別の権利者を原告とする訴訟が行われる可能性は当然にありますし、他の訴訟(New York Times対OpenAI / Microsoft等)で、遅かれ早かれ「無断学習」のフェアユース該当性の判断の枠組みに関する確定的判決が出ることになるでしょう。