児童書などを中心に奈良市で50年間営業してきた「新風堂書店」が今年末で閉店する。子どもの個性に合わせた本を届ける店独自の「パーソナルブッククラブ」の取り組みも終わる。店主の中田純さん(77)は「後継者もおらず、区切りをつけざるを得なかった。残念だが、奈良に爪痕は残せた」と話す。28日には店主催の最後の講演会として、国立科学博物館前副館長、真鍋真さんを奈良に招く。
書店は1975年、中田さんの父が同市西之阪町に開店。中田さんは会社員生活などを経て85年に店を手伝い始めた。父が亡くなった翌90年、現在の同市右京3に店を移し、妻睦子さん(78)との二人三脚で今に至る。店内には約1万5000冊。うち子ども向けは4分の1ほどある。
二十数年続けてきた「パーソナルブッククラブ」は、親や祖父母らの申し込みを受け、子どもの特徴や性格、好きなことなどを“カルテ”に書き取り、一人一人に合った本を月1回届ける。口コミで広まってきたが、4年前にテレビで取り上げられて一気に広まり、現在も北海道から福岡まで約230人の登録者がいる。書店内ではカルテと共に、送った本の一覧表、お礼の手紙などが整理されている。これまでに約500人。乳児で始め、18歳ごろまで続いた人もいるという。
本を選ぶのは主に睦子さん。毎月、絵本以外にも30冊程度読み、お勧めできる本のストックを増やしてきた。睦子さんは「何が好きか、とっかかりは相手に聞くこと。手紙を書いて、その返事からヒントを得る。こちらから送って初めて本を読む習慣がつく子もいる」と意義を語る。
経営は順調とは言い難かった。現在の場所で店を営む35年間で売り上げは4分の1~5分の1に落ち込んだという。状況はどこも似たり寄ったりらしく、日本出版インフラセンターの調査では、県内の書店は2015年6月に158店だったのが今年6月には112店に減少。管内に1店舗もない自治体内も少なくない。
こうした状況の中でも、奈良に文化の薫りをと、中田さんは講演会を約30回、コンサートも10回以上、近隣の会館などで開いてきた。講演会に呼んだのは河合隼雄さん、井上ひさしさん、谷川俊太郎さん、高橋源一郎さんらビッグネームが並ぶ。地方の一書店としては異例の取り組みだ。
真鍋さんの講演は2019年以来2回目で、新型コロナウイルス禍以降、最初で最後の講演会になる。「恐竜博士ふたたび奈良へ!」と題し、28日午後1時半から奈良市山陵町の奈良大学C205教室で。1700円。中高生1500円、5歳以上~小学生1000円。申し込みは同書店(0742・71・4646)へ。
中田さんは「行ってみたら(閉店の)貼り紙1枚というのは嫌なので、この講演会をスタートに閉店までの3カ月、最後までいろんな企画を行いたい」と話している。【梅山崇】