英ジャーナリストが指摘「移民受け入れへの不安を語る人々を、左派はレイシストと決めつけすぎた」
世界中の多くの国でポピュリスト政党が台頭し、大勢の心を掴んでいる。その一方で、左派政党を見限る人々が増えているようだ。経済的な不安や移民問題に揺れる日本もまた、似たような状況にあると言えるだろう。 抑圧と抗争の歴史を経ても生きる「クルディスタンという強力な理念」 『頭 手 心』などを刊行して注目を集めた英国のジャーナリスト、デイヴィッド・グッドハートは、現状を改善するには「左派版のサッチャリズム」が必要だと指摘している。仏紙「フィガロ」が取材した。
肝心なのはバランス感覚
──フランスのシンクタンク「ジャン・ジョレス財団」の報告書で、あなたは左派が国境管理の強化と富の再分配に力を入れるべきだと提言されています。そのような結論に達した理由を教えてください。 ヨーロッパで選挙に勝ちたかったら、どの政党も、戦後に起きた二つの大きな歴史的革命を受け入れる必要があります。最初の革命は1940~50年代に起きました。フランスや英国をはじめとした欧州諸国で社会保障のセーフティネット、すなわち公共サービスと再分配型の税制が整備されたのです。 次の革命が起きたのは1960~70年代で、これは人種、ジェンダー、性に関する平等の闘いを推し進めるものでした。これらの二つの革命で得られた成果は、いまや不可侵のものとなっています。それを正面から否定する政党は、まともだとはとてもみなされません。 しかし、いまでは左派政党が道を見失っています。これは左派がレインボーフラッグを掲げる連合勢力のスポークスマンに変わってしまったからです。 マイノリティの利益をマジョリティのそれの上に置き、移民の大量受け入れを推進し、日常の関心から乖離した課題に関して進歩的な見方を擁護していたため、庶民階級が左派を見限ったのです。いま庶民階級の大半は、ポピュリズムの政党を支持するようになっています。 そこで私が提言しているのが「真っ当なポピュリズム」です。実際、多くの国で、既存政党はこの「真っ当なポピュリズム」を求める有権者層に応えられていません。この有権者層は、戦後に起きた前述の二つの革命をおおむね受け入れており、経済の面では左派的(しっかりした公共サービスと大規模な富の再分配)である一方、文化の面では保守的です。とりわけ移民の受け入れに慎重であり、国家主権を重視するのが特徴です。 こうした経済的中道左派と文化的保守派を抱き合わせた領域に、フランスの「国民連合」や英国の「リフォームUK」といった政党が、地歩を固めるようになっています。左派は、この領域で競争力を持つべきでしょう。肝心なのはバランス感覚です。社会正義を擁護しつつも、アイデンティティに関する懸念を無視せずに受け止めなければなりません。 私の構想する「真っ当なポピュリズム」は、レイシストではありません。移民個人に反発しているわけではありません。それに実際の庶民階級も、近所に住む移民や同じ職場の移民のことは、好意的に親しみを感じていますからね。ただ、移民を大量に受け入れると、国民の結束が損なわれるだけでなく、雇用や公共サービスの分野で競争が激しくなるのではないかというところに、懸念を抱いているわけです。 左派はこれまで、こうした懸念を口にする人を、レイシストだと決めつけがちでした。そのせいでそうした懸念を口にする人たちは、左派から離れ、ポピュリズム政党に向かうことになりました。 「真っ当なポピュリズム」の立場は、偏見には絶対に屈しないが、国民のアイデンティティに関する懸念には耳を傾けるというものです。 たとえば以前、英国では「英国政府が民主制国家として果たすべき役割をEUのせいで果たしていない」という懸念が示されたことがありましたが、その懸念の声は「内向きの小英国主義」として片づけられてしまいました。それが結局、英国のEU離脱につながったのです。(続く) 後編では、グッドハートが提唱する「左派版のサッチャリズム」について深掘りする。移民の受け入れがもたらす「アイデンティティが失われる可能性」に対する不安や、経済の停滞や格差拡大などという懸念に、国家はどう対応していくべきなのか?
Ronan Planchon