小説の風景描写を二行で書く
小説の場面転換するとき、登場人物がいる場所がどういう所なのか読者に説明する風景描写が必要です。
映画やコミックのように視覚的にわかれば必要はないですが、小説の場合は文章で表現しなければなりません。
小説を書いていると、風景描写をどのように描くかいつも迷います。というのは、正直に言うと、自分が読者のときに風景描写をあまり読んでいないからです。目で文字を追ってどういう場面か想像しますが、あまり長いと読み飛ばしてしまうことさえあります(作者の方、すいません)。
風景描写が好きな人もいるでしょうし、素晴らしい描写に接すると惚れ惚れすることはありますが、風景描写を深く読むよりも、次の展開が気になるし、会話を早く楽しみたいんですよね。
自分が書く立場になったときに、どれぐらい場面を描写するか考えてしまいます。長すぎると読まれないかもしれないし、短すぎるとどんな場所かわからないし。
色々と試行錯誤した結果、自分の中で決めたのは、「風景描写は二行で
書く」ということです。
場面転換したとき、今カメラが当たっているのがどういう場所なのか二行
で書くことを心がけています。
二行なら読み飛ばされないだろうし、読んでいて「長いな」と思われることが少ないような気がします。
でも、二行というのは一文か二文がせいぜいなので、文章としてはかなり短いです。そのボリュームで読者に場面を説明するのは大変です。短いからこそ、研ぎ澄ました言葉で的確に描写する必要があります。これだという表現に至るまで、何回でも書き直します。
もちろん、例外はあります。何度も登場した場所なら一行で済ます場合もありますし、逆にもっと長く書くこともあります。
風景描写を長く書くのは、時間を経過させたいときです。
時間の経過とは、読者が感じるリアルな時間を指します。物語内の時間であれば、「二週間が経過した」などと書けばよいのですが、読んでいる読者の時間は数秒しか進みません。
次の場面への期待を膨らませたり、余韻を感じてもらったりするためには、読者が実際に読んでいる時間を伸ばしたくなります。
そういうときには、二行以上の風景描写を書きます。リアルに読んでいる時間を長くすることで、読者に「時間の経過」を感じてもらいます。
文章が長いと冗長になりがちなので、慎重に言葉を選び、読者が飽きないように工夫をします。
小説の執筆の際、長い風景描写を書くことに一番時間をかけているかもしれません。
「風景描写を二行で書く」というのは僕の決め事なので、人によっては違うだろうし、長い風景描写こそが腕の見せどころだと考えている熟練した作家さんもいるでしょう。
どれが正解ということはなく、書き続けていると、その人の文体やスタイルに合わせた風景描写が見つかると思います。
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