魔法少女強化合宿:ある魔法少女のお話 ②
私は思う限りの弱音を吐き出しました。
途中で噛んだり言い間違えたり、かなり拙い説明で時間もそれなりに掛かったと思います。
それでもブルームさんは何も言わず、私の話に耳を傾けてくれました。
魔法少女として戦う中で、自分の力不足を感じていたこと。
この合宿で変わろうと勇気を出してみたが、ロウゼキさんを前に何一つ成果が出せないこと。
あまりにも情けない気持ちが溢れ出して、泣き出してしまったことを、隠さずに吐き出しました。
「……なるほど、そういうことか」
「ご、ごめんなさい。 急にこんな話をしても迷惑ですよね」
「いや、むしろ友達には吐き出しにくい話だろ。 俺みたいな相手こそ気兼ねなく話せるだろうし」
「そ、そんなことぉ……」
ない、とは言い難い。 たしかにこんな話をしたのはブルームさんが初めてだから。
そのおかげで何となく気持ちも軽くなった気がする、だから普段は聞けないようなことも口走ってしまったのかもしれないです。
「あの……ブルームさん、は……どうして強いんですか?」
「強い? 俺が?」
「はい、東京事変でもとても活躍したと……それに、何というか自信と気品に満ちていて……」
《ブフッ!》
どこからかブルームさんのものではない声が聞こえた気がしたけど、辺りを見渡しても誰もいませんでした。
あらためて視線を隣のブルームさんに戻すと、なにやらスマートフォンを握りしめて神妙な面持ちです。
「オホンッ! 俺は強くないよ、全部ギリギリで運が良かっただけだ。 どこか一つでも間違えてたら死んでたかもしれない」
「し、死んでたかもって……怖くないんですか?」
「怖いよ、けど臆病になって大事なものを失う方がずっと怖い。 君は違うか?」
「それは……はい」
もしも目の前で友達や家族が魔物に襲われているとして、私が戦う事を恐れて死んでしまったとしたら……その後悔は一生拭えないものになります。
考えただけで背筋が凍えて仕方ない、死ぬより怖いと言われるのも確かに納得です。
「君は強いよ、保証する。 自分の弱さを知って立ち向かえる君は強い」
「そ、そんなことないですよ! 私なんて……!」
「なら魔法少女なんてやめちまうか? 味方の足を引っ張ってしまうぐらいなら」
「…………それは、いやです」
「ははっ……だよなぁ」
私の返答を聞いて笑うブルームさんの笑顔は、なんだか少し寂しそうに見えました。
それはまるで、私がもう戦いたくないと言うのを望んでいたかのように。
「大丈夫だよ、少し時間はかかるかもしれないけど君ならちゃんと課題をこなせる。 それでも辛くなったらまた話を聞くよ」
「は、はい! あの……ありがとうございます!」
「気にするなって。 ……と、あれってもしかして君の家族?」
「へ?」
ブルームさんが指さした方へ振り返ると、ホテルの出入り口からこちらに向かってくる人影が見えました。
ひょろりと長い背丈、夏だというのに丈の長い服装。 片手を振ってやって来るのは間違いない、私のお姉ちゃんでした。
「あ、私のお姉ちゃんです! ブルームさん、あらためてお礼を……あれ?」
再び私の隣へ視線を移すと、そこには先ほどまでいたブルームさんの影はありませんでした。
夢だったのでしょうか? いえ、私の手の中にはあの人から貰った缶ジュースがしっかりと握られています。
「妹よ、こんな時間まで戻ってこないから心配したよ。 こんな所で何をしていたんだい?」
「もうっ、お姉ちゃんのせいでブルームさんが逃げちゃったよ!」
「ン我が魔法少女!? 我が魔法少女がいたのかい!? ここに!?」
「えぇ……どうしたの急に」
急に興奮しだしてブルームさんが据わっていたあたりをカサカサ探し回るお姉ちゃんの姿を見て、ドン引きしました。
身内でなければ通報していたと思います。
「自慢じゃないが私は彼女の大ファンなんだよ、ほらこのマフラーもお揃いのグッズで」
「非正規品じゃん! どこで買ったのそんなの!?」
「ははは、自作さ!! ああ、心配しなくとも我が妹のことも当然ながら推していて」
「聞いてないよそんなの! ほら、戻るよホテル! こんな姿ブルームさんには見せられないんだから!!」
「ま、待ってくれ! 私にも一目会わせてくれ!」
「もーどーるーのー!」
抵抗するお姉ちゃんの背中をグイグイ押しながら、ホテルへと戻る。
それでもちょっとだけ気になって、後ろを振り返って見るがやはりそこには誰もいませんでした。
ミステリアスで、美人で、かっこいい魔法少女……ブルームスター。 お姉ちゃんに賛同するわけではないけど、私も彼女のファンになりそうです。
今日彼女と出会った出来事は、きっとずっと忘れないと思います。