精神科からの退院 精神医療審査会へのFAX送信事例
八月三十日から九月六日まで、千葉県内の精神病院に医療保護入院していた。もちろん、医療従事者の皆様には頭が下がる思いで、長きに渡って療養することも考えたものの、やはり精神科には特段の自由はない。例えば同伴で買い物に行くなどの機会はあるものの、それは院内に限られてしまう。また、医療保護入院は公費の対象ではない故に、長期にわたれば当然、医療費の負担も決して軽く収まるものではない。筆者はたまたま、閉鎖病棟ではあるものの、私物のノートパソコンを持ち込んでいたため、慙愧に耐えない思いではあったが、精神保健福祉センター審査課へのFAXを送信、受理するという手立てで退院を請求し、退院した。
◇ 細かいことより実物を
個人情報の保護の為、多くを黒塗りにしているが、これが精神保健福祉センターへ送信した実物である。いわゆる「精神保健福祉法第三十八条第四項」に基づいた請求である。内容は、
一 退院を求めること、
二 退院が認められぬ場合には任意入院への変更、
三 それも叶わぬ場合には他院への転院、
の三段構えで記載した。 退院を求める理由としては、以下のような記述を行った。
一 原契約(入院契約)は八月三十日午後一時に締結されたものであること、
二 その後、主治医との会話において退院の時期が「早いうち」「会社の調整次第」などと流動的であったこと、
三 PC操作や文書作成を自力で行えるだけの状態にあり、また病識も保っていること、
を記し、感情や私情を挟むことを極力避けることとした。
◇ ファイルのダウンロード
Word版
PDF版
◇ 自筆・自力・自発の退院請求
退院請求そのものは以前から制度として存在するものの、現実には医師や病院側が「そのうち」と言って退院時期を引き延ばし、患者自身が「何をどうすればよいか分からない」ままに留め置かれる例が多い。しかしその中で、「自筆・自力・自発」によって制度を正面から叩いた今回の試みは、精神医療の制度上の盲点を突く行為でもあった。
筆者は病棟内から、インターネットFAXサービス「FAX・plus」を使用して書面を送信した。通常のFAXでは看護師の管理下にあるナースステーションから送信することになるし、当然医師の見るところになれば許可などでない。そのため、それを経ずに直接送信した。この計二枚の書面を行政機関に届かせたことで、「本人による判断と行動」によって審査が動いたという形になった。
◇ 審査課の声の揺らぎ
FAX送信後、千葉県精神保健福祉センター審査課へ電話をかけ、文書の到達確認を行った。その際、担当者の声には明らかな動揺があった。「インターネット上からFAXが送れるとは知りませんでした。入院中の患者さんが自らFAXを送信してきたというのは前例がないですけど、受理します」ーーー。
既に法律に定められている手続きを、正当に踏んだ形で提出された以上、受理しないという選択肢は存在しなかったのだろう。
行政の判断は、ある意味で文書の整合性と文言の形式に基づく。病状ではなく、送信手段でもなく、内容が整っていれば、審査は動く。今回の行為は、その「制度の機械的部分」を突いた格好になったのかも知れない。
◇ 公開理由
この記録を公開することについて、筆者は少なからず迷った。だが、退院した今だからこそ思うのは、「制度を知っていても、実行できなければ意味がない」ということだ。病棟にいながら、書面を作成し、FAXを外部に通し、審査課から正式に「受理された」と確認できたことで、確実に退院の道筋がついた。誰もができるわけではない。パソコンが使えること、送信手段があること、多少なりとも法制度を理解していること、そして何より、少しの勇気と静かな闘志が必要だ。
だが、もしこの投稿を見て、「自分もやってみよう」と思う方が一人でもいれば、このFAXの一枚には意味があると考えた。
◇ 連絡先の調べ方
Google検索で、次のように入力する。「”(都道府県名)”+”(精神医療審査会)”+”FAX”」。
注意されたいのは、必ずダブルクオーテーションで囲う点である。また東京都などは、医療審査会が本部、中部などで分かれているため、連絡先が異なる。
◇ 文言の例文
(一)統合失調症の場合
「記憶の錯綜や被影響体験については既に消失しており、現在は日常会話において明確な論理展開が可能であること、及び自身の状態についての理解(病識)も相当程度回復していることから、引き続きの社会復帰支援は通院下での対応が適切と判断し、退院を請求する」。
(二)双極性障害(躁状態での入院)
「昼夜逆転や過活動傾向、対人干渉的行動は既に収束を見ており、軽躁状態にあった初期とは異なり、現在は薬物治療に対する自発的な同意と継続意志が確認されている。これらの状況を踏まえ、緩解状態にあるものとして退院を請求する」。
(三)双極性障害(うつ状態での入院)
「気分の持続的な抑うつ、希死念慮は顕著に軽減しており、自己評価の回復、対話意欲の再獲得が見られる。処方薬への依存や急性自傷の危険性も消失しているため、退院を妥当と判断するに足る緩解が得られている」。
(四)PTSD(外傷後ストレス障害)
「フラッシュバック・回避行動・過覚醒といった症状群は治療的枠組みの中で明らかに減衰しており、当該トラウマに関する言語化も可能になっている。社会的生活を送るうえでの基本的適応力は保持されており、通院でのケアに移行可能な段階と認識する」。
(五)汎用文言
「本人の精神状態については、入院当初に認められた急性期症状が現在は明らかに緩解しており、疾病理解・服薬遵守・自己管理に関する意識も回復している。これにより、現状においては継続的な隔離環境におくことの医療的合理性は失われており、退院が妥当と判断される」。
(五の二)「入院決定の基礎となった他害・自傷の具体的危険性は、現在においては存在せず、行動抑制および判断能力は明確に回復している。引き続き通院による治療継続が可能な状態であり、当該措置の継続的必要性は消失しているため、退院を請求する」。
◇ 最後に
精神医療は誰のためにあるのか。患者本人の人権と尊厳が、制度の中で確保されるべきであることは言うまでもない。だが現実には、まだまだ“閉じられた場所”としての構造が色濃く残っている。こうした事例があるという一例として掲載した。
◇ おまけ
本記事の公開に至るまで、さまざまなことがありました。根本的な解決はしていないものの、明日が見える程度にはなりました。本記事を参考にしていただけましたなら、ぜひカンパ頂けますと幸いです。この先には何もありません。
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