なんでもない大黒PAの日常を撮影した動画がYouTubeに流れている。
その中で「そのクルマはさすがに、違法車両になりようがないでしょう?」という1台が、大黒PAに駐留する神奈川県警察本部高速道路交通警察隊大黒分駐所の隊員に停められ、ドライバーと問答を長いコト繰り広げていた。
いわゆる大黒PAの「無料車検」に引っかかったというのだ。
クルマはRE雨宮のフルエアロをまとったコンバーチブルのFD3S型RX-7。そう、ドライバーは茨城は小美玉にあるスターダストファクトリー(以下SDF)の押田さんだ。
20分以上の押し問答の末、もらったのは厳重注意。
指摘された箇所の違法性に納得がいかないSDF押田さんは、日をおいて、神奈川県警察などに意見を綴った文書を提出したところ、同交通隊の小隊長から謝罪を受けた。
このクルマのどこが厳重注意となったのか、問題となったカスタム箇所についてや、その後合法であるコトの各所への訴えなどの経緯、文書への回答などを数回にわたって紹介していきたい。
なお、この一連の記事は、違法車両へ改造を助長するものではなく、法規制の範囲でチューニング&カスタマイズを楽しんでいこうという気持ちで書かれている。
記事を書いている途中で、神奈川県警察本部、神奈川県公安委員会へ文書を提出、取り締まりの現場から謝罪があるなどの状況であると言うことは先にお伝えする。ただ、正式に文書での回答をお願いしている機関がいくつかあり回答には数ヶ月かかるものもあるので、それら回答をもって正式なものとしたい。
さてコトの発端から、筆を進めるコトにしよう。
「無料車検」と呼ばれる不正改造車排除推進の街頭検査が実施される大黒PA
SNSを覗いていると、時折「それって違法車両じゃん」というコメントがついている投稿を見かける。
よく見てみると、確かに微妙だなというものから、ナンバー切ったクルマでサーキットのピットでの写真だからそういうの関係ないじゃん。と思うようなものまで、コメントをもらっているクルマの種類も様々だ。
また、古い知識のまま更新するコトをせず、自分の知っている古い規則を基準にコメントしている人もいるし、反対に新しい規則を適用外のクルマに当ててしまっている人もいる。
実際のところ、よほどアンテナを高くしていないと最新の情報を仕入れるのは難しい世の中で、平等に機会が訪れるとしたら免許更新の際の講習の時間くらいか。
わざわざ「今日から施行される新しい法律ってあるかな?」なんて調べてから出かけないし、よほど大きな変更でなければ、マスメディアに取り上げられるコトもないのが現実だ。
そもそも、マスメディアで扱うクルマに関係する話題なんて、春季労使交渉(春闘)のベースアップ(ベア)でトヨタの話が毎年定番であるくらいで、ほかにはよほど大きなリコールについてか、新技術がピックアップされる程度。
交通事故についてはスピード出しすぎ、ハンドル操作の誤りでだいたい片付け、具体性のないなんとなくわかったような気になる分析で終わるのが関の山だ。
そんな状況だが、日夜頻繁に取り締まりが行われている場所がある。
それが大黒PA。
神奈川県警察の高速道路交通警察隊大黒分駐所が、PA利用者の車両をチェックし、違法改造の場合、改善命令を出すなどする流れは、それなりに大黒PAを利用するドライバーなら見知ったコトだろう。
「無料車検が始まった」というコトバがそれなりに通用するくらい見馴れた風景でもある。
そんな無料車検にハマったのがSDF押田さんだ。
SDF押田さんは、東京オートサロンに出展されているRE雨宮などのデモカーの公認車検を担当し、またD1GPで車検員を務めた経験もあるなど、自動車関連の各種法規にも強い人物。
そのSDF押田さんの愛車といえば、FD3S型マツダRX-7をコンバーチブル化した車両。RE雨宮のフルエアロをまとい、雨天時用の幌も装備したカスタムカーだ。
もちろん、オープン化されたボディを含め、改造箇所は強度計算などの作業を経て構造変更等の申請がされた1台となっている。
SDF押田さんの愛車のどこが問題とされたのか? 当日のやりとりは?
そのSDF押田さんのFD3Sが、大黒PAの「無料車検」に引っかかった。
実際には当日は厳重注意とのコトだったが、どこが是正の対象=NG認定されたのか?
読者の皆さんは想像がつくだろうか。
それは、ナンバープレートの角度だった。
前面のナンバープレートは垂直に!
当日のやりとりを再現してみよう。
K=現場の警察官 オ=SDF押田氏
K「今日は厳重注意で済ませるけど、フロントナンバーフレートの角度が垂直ではないから直すこと」と指示
オ「垂直?何度まで良いのですか?垂直と言うことはないと思いますが」
K「垂直は垂直0度だ!」
オ「現行の車両令和3年4月1日でも角度が決められていますが、判らないのですか?」
(※当時の国土交通省・警察庁の案内パンプレットでは平成33年4月1日新基準全面適用とあります※ここも問題ですが)
K「垂直!0度なんだよ」
オ「基準を確認してください、適応年式も理解してください」
K「あなたが知らないんでしょう!垂直ですよ0度です」
オ「本日・明日以降、基準を確認してください」
現場の警察官曰く、法規改正があり、その後は年式問わず、前面のナンバープレートは垂直に装着されていなくてはいけなくなったという認識で、ナンバー位置を修正しろというコトなのだ。
この取り締まりをする警察官の認識に対して、SDF押田さんの見解は?
コレに対し、SDF押田さんは指摘されたFD3Sが平成7年6月の新規登録で「今回の法規改正に該当しない車両であり、また仮に該当する車両であってもその改正内容は『前面のナンバーは垂直にしなければならない』というものではないので、結果ナンバーの取り付け角度を垂直にする必要はない」と主張した。
現場では厳重注意を言い渡される。
SDF押田さんは大黒PAを出るところだったというので、一般的なドライバーが同じ状況になったのであれば矛を収めて家路に着くところだろう。
が、SDF押田さんは公認車検のプロ。今回の現場の警察官の認識違いは、自分以外にも損失をこうむる関係者が生じうると判断し、粘った。
押し問答は20分以上続いた。
なにしろ、当日ほかの車両で、新基準適合の現行車ではない改正施行以前のクルマが、ナンバー角度の修正を言い渡されていると思われる状況を確認していたので、そのまま帰るわけにはいかないという気持ちに。
SDF押田さんの認識のとおりだとするならば、もし、この現場の警察官の認識が、他の警察官にも同様に波及している場合、必要がないのに是正を言い渡され、パーツ交換などの負担を強いられる車両オーナーが生まれる可能性がある。
さらにいえば、現在市販されている、古いモデル向けのナンバープレートステーの多くが、さかのぼって違法改造部品に当てはまってしまう。
そうなれば、市販中の部品は構成部品の変更をする必要が出てくるかもしれない。もしかすると販売中止もあり得る。また、このご時世、場合によっては規制の施行開始以降に新品が販売されたものについては各メーカーが独自に回収するという流れも生じるかもしれない。
SDF押田さんの思い違いならば問題ないが、現場の警察官の認識が間違っていたのならば、波が広がらないうちに認識を正してもらったほうがお互いのためだし、自分の認識が誤っているのならば、関わる車両の是正作業や、関係するアフタパーツメーカーへの連絡なども必要になる。
そういう気持ちだったのだ。
次回は、今回の問題が生じた原因となる法規と文書の提出、謝罪について取り上げる
次回は、今回の取り締まりについての問題の原因となった令和3年4月1日の法規改正、道路交通法第十九条の「自動車登録番号標の表示の義務」の規定について取り上げ、その後の神奈川県警察本部、神奈川県公安委員会への文書の提出、そして取り締まりの現場から謝罪などの様子を取り上げたい。
なお、繰り返すが、この一連の記事は、違法車両へ改造を助長するものではなく、法規制の範囲でチューニング&カスタマイズを楽しんでいこうという気持ちで書かれている。明らかに法規を意図的に破った改造についての取り締まりを誹謗中傷する、面白おかしく紹介することを支援するつもりはない。
だからこそ、取り締まる側が間違った認識で取り締まるというコトに対して、正誤を確認したい……というハナシなのだ。
REPORT:古川教夫 PHOTO:稲葉浩一/古川教夫