血のつながった両親「どんな人か知りたい」…67年前の新生児取り違え、数十人へ手紙の発送開始
東京都立墨田産院(閉院)で67年前に別の赤ちゃんと取り違えられた江蔵智さん(67)の生みの親を捜すため、都は、同じ時期に生まれた男性数十人とその親に対し、調査への協力を求める文書の発送を始めた。江蔵さんが切実な願いをつづった直筆の手紙も同封された。(柏木万里) 【写真】江蔵さんのつづった手紙の冒頭
発送開始は今月4日。江蔵さんと同じ1958年4月に墨田区内で生まれた男性少なくとも113人とその親のうち、現住所が特定できた3分の1程度を対象とした。
墨田産院での出生者には、DNA型鑑定への協力も求める。都の担当者は「相手方にも家族や生活があり、心理的な負担がある。十分に配慮をしなければならない」と話した。
都の文書に同封された手紙は便箋5枚。1800字超の文面からは、67年という歳月に対する江蔵さんの思いが浮かんでくる。
〈親戚の集まりで「おまえは誰にも似ていないな」と言われることが一度や二度ではありませんでした。家族のなかで自分だけ浮いている違和感に耐え切れませんでした〉
幼少期から抱いてきた苦しみが、「自分のルーツを知りたい」との思いに変わったのは2004年、46歳のときだった。育ての両親と医学的な親子関係のないことがDNA型鑑定で判明した。ただ、それは、新たな苦悩の始まりでもあった。江蔵智という名前も4月10日という誕生日も、違っていたのではないかと考えるようになった。
〈自分の本当の名前は何なのか、誕生日は本当はいつ祝えばいいのか、何一つ分からないことに耐え難い思いを抱いてきました〉
都に生みの親の調査を求め続けた20年間で、育ての父は亡くなった。90歳を超える母は施設で暮らすようになった。
〈母は「お腹(なか)を痛めて生んだ子に会えるものなら、遠くから見るだけでも見たい」と言っています。育ててくれた母親のためにも真実の子を一目でも見せてあげたいとも思っています〉
手紙には、医学的な親子関係が判明しても相続などを求める意思のないことに加え、協力してくれた人のプライバシーを尊重することも書き添えた。江蔵さんは取材に、「67年を手紙にするのは初めてで、どうすれば思いが伝わるか悩んだ。両親に対しては『会いたい』よりも『どんな人か知りたい』との思いが強い。一人でも多くの人に協力してほしい」と話した。