第3章|支え合う手と、つながる心。
── 小さな場所から、未来を耕す。
───
この地にたどり着き、
小さな村で出会った、
あたたかい手と、あたたかい心。
私は、探していた場所に、
たどり着いたのかもしれない。
───
生きる場所に、
心が震えた日。
春のある日。
この大地に立った私は、たしかに感じた。
ここは、自分が生きる場所だ――と。
ただ、なんとなくではない。
身体の奥から、細胞のひとつひとつが震えるような、
そんな確かな感覚だった。
子どもの頃に見た、夏空の色。
祖父母の家で聞いた、虫たちの音色。
無邪気な笑顔に包まれた、あの日のぬくもり。
長く忘れていたはずの記憶が、
この地に立ったとたん、心の奥から湧きあがってきた。
思い出したのは、ただの風景だけじゃない。
あのとき感じた、
「愛されている」という感覚だった。
ああ、自分はこういう場所に、
ずっと、帰りたかったんだな。
そう気づいたとき、
この大地と自分の心が、ひとつにつながった気がした。
「ここで生きよう。」
そう、心の底から決めた。
この村にある、あたたかな人情も、
私の心にそっと火を灯してくれた。
支え合う手。
つながる心。
互いを思いやるまなざし。
それは、遠い過去の記憶と、
いまこの瞬間を、生きる自分とをつなぐ。
こうして私は、
この地に根をおろしていく。
───
懐かしい風景に、
心はほどけていった。
この村に吹く風は、
どこかいつも懐かしい。
遠い夏の日。
鹿児島の祖父母の家で感じた、あの土の匂い。
夜空いっぱいに広がった満天の星。
素朴な人たちの、屈託ない笑顔。
それらすべてが、
体の奥、細胞のひとつひとつを震わせるように、
私の心を溶かしていく。
ただ目の前にあるものを、
ただ当たり前に愛し、
ただ当たり前に支え合って生きる――
忘れかけていた大切なものに、
またひとつ、出会えた気がした。
そんな本当の豊かさに包まれながら、
今日もまた、生きていく。
───
誰かの心に、
小さな灯をともせるなら。
あの日、
誰かに優しく差し出してもらった、あたたかな手。
そっと背中を押してくれた、あのまなざし。
それは、今も、私の中で生きている。
そしてその温もりは、つまずき、迷い、立ち止まりそうになるたびに、
そっと私を立たせてくれた。
もし、私が。
ほんの小さな一歩でも、
誰かの心に、火をともすことができるのなら。
あのとき、私がもらったものを、
今度は、私が誰かに渡していきたい。
誰かが、一歩踏み出す勇気を持てるように。
誰かが、また明日を信じられるように。
そうやって、
小さな灯火が、
少しずつ、少しずつ、広がっていったら――
こんなに幸せな生き方は、きっと他にない。
今日もまた、
あの日の想いを胸に、
泥くさく、かっこよく、生きていきたい。
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