株高不況 株高不況

世界的にみても「おいしい」日本株

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月45,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。

  • 日銀は利上げを続け、2026年前半に政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を25年末までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.8%、NASDAQが+1.0%で引け。VIXは15.3へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で金利低下。予想インフレ率(10年BEI)は2.390%(▲1.6bp)へと低下。
    実質金利は1.768%(▲4.1bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は+57.1bpへとプラス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面高。USD/JPYは148半ばへと上昇。コモディティはWTI原油が63.5㌦(▲0.5㌦)へと低下。銅は9975.5㌦(±0.0㌦)へと上昇。金は3577.3㌦(▲28.8㌦)へと低下。

注目点

  • 日本の名目GDP成長率は4%強の基調にある。それに対して長期金利は上昇したとはいえ、10年金利は1.6%程度であり、依然として名目GDP成長率を大きく下回っている。「名目GDP成長率>長期金利」の比較、すなわちドーマー条件は財政の持続性を検証する際によく用いられる。一般的に名目GDPの成長率は税収の伸びに影響するため、それが満たされる下では税収増が利払い費の増加を上回ることで、財政の健全性が維持される。実際、現在の日本で税収が増加し、政府債務残高のGDP比が低下に転じているのは、この賜物と言える。

  • 「名目GDP成長率>長期金利」の状態は投資(リスクテイク)が報われ易いことでも知られる。極めて単純に考えれば、借入金利を回収できる投資案件がマクロ的に多く存在することを意味するため、企業は能力増強投資など売上増に繋がる実物投資や研究開発投資、投資家はそうした企業の株式を購入することで、利益を最大化できる。これは投資家にとって「おいしい」状態と言える。

  • そこで名目GDP成長率と10年金利の差と、TOPIXのPBRを比較してみると、一定の連動性が確認できる。経済の実力(≒名目GDP成長率)に対して長期金利が抑制された状態になると、株式のバリエーションが切り上がるという、教科書通りの関係が示されている。インフレ率が上昇し、名目GDP成長率が膨らむ局面においては、通常、中央銀行が中立ないしは引き締め的な政策を採用するため、長期金利は名目GDP成長率に近い値となるはずだが、現在の日本では、日銀が利上げに慎重な姿勢を堅持していることに加え、大量の国債をバランスシートに抱えているため、長期金利が低位に抑制されている。こうした金融緩和的な環境で日本株のPBRが高まるのは理に適っているように思える。

  • 名目GDP成長率と10年金利の差を国際比較してみると、2025年4-6月期時点で日本は+2.7ポイントとグラフ中の主要国で最も大きい。これは最も金融緩和的であると換言できるだろう。ドイツ(±0.0ポイント)とフランス(▲0.9ポイント)は、ECBの利下げに一巡感が出てきたところに財政収支の拡大観測が広がり、長期金利が上昇し、差は縮小方向にある。米国(+0.2ポイント)と韓国(+0.6ポイント)は金融引き締め的な状況が長期化する下で差は縮小傾向にある。英国(+1.4ポイント)は利下げ観測の後退により長期金利に上昇圧力がかかっている。

  • こうした点において、日本株市場は世界的にみても「おいしい」環境にあるように思える。名目GDP成長率と長期金利の差が直ちに縮小するとしたら、日銀が急速なペースで利上げを講じたり、保有国債を減らしたりすることが考えられるが、現時点でそうした動きは想像しにくい。

藤代 宏一


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