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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
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895 クマさん、カガリさんの話を聞く

 夕食を食べ終わり、サクラとのんびりしているとカガリさんがやってきた。


「疲れた。サクラ、飯はあるか?」


 まるで会社から帰ってきた夫のように言うカガリさん。


「すぐに用意します」

「残り物でもいいぞ」


 こんな遅くにやってきてご飯の催促なんて流石だ。


「ユナも戻って来ていたのじゃな」


 カガリさんに会ってしまったからには森に逃げ込んだ男について伝えないといけない。


「カガリさん、ごめん。逃しちゃった」

「ああ、城で聞いた」


 わたしが謝罪をすると、気にした様子もなく、淡々と答える。


「まあ、仕方あるまい。妖刀が飛ぶとは誰も思わん」


 そう言ってくれると助かる。


「信じてくれるの?」

「妖刀じゃ。なにが起きても不思議じゃない」

「今度は逃さないよ」


 二度、同じことはさせない。


「それと、サクラと一緒に妖刀のことを調べていたんだけど、いくつか分かったことがあるよ」


 わたしは妖刀馬鉄と妖刀赤桜について話す。


「ユナ、申し訳ないが、妖刀馬鉄は妾が回収した」


 カガリさんは妖刀馬鉄を回収した経緯を話してくれる。


「流石、カガリさんだね」


 まさか、別れたあとに妖刀を回収するなんて。


「運が良かっただけじゃ」

「でも、妖刀を斬るって凄いね」

「持ち手が三流、さらには当時は名刀と言われても骨董品じゃ」

「骨董品って」

「材質、打ち方、鍛冶職人の腕も日々成長している。それだけのことじゃよ」


 確かに、料理だって、日々進化している。

 スポーツだって、そうだ。

 スポーツ選手の筋肉を数値化できるようになったり、食事の効果、どの部分を鍛えればいいか、科学的に研究されている。

 昔は、そんなものはなかった。


「それじゃ、他の妖刀も大丈夫そうだね」

「それは分からん」

「どうして?」

「一般的に使われていない素材を使っている可能性もある。例えば、お主が持っている氷竜の角とかのう。今回の妖刀馬鉄に関してはそうだっただけじゃ。他の妖刀がそうとは限らない。妖刀の力は未知数じゃ。だから、気を抜くんじゃないぞ」

「うん」


 妖刀回収はそう甘くはないみたいだ。


「でも、カガリさんの刀に反応したってことは、凄い刀なの?」


 カガリさんの腰にぶら下がっている刀を見る。


「まあ、それなりの名刀じゃのう」

「それなのに、あんなところに放置していたの? 名刀が可哀想だよ」

「使わなければ同じじゃろう」


 確かに使わないからどっちも放置は同じだ。

 やらなくなったゲームソフトが目の前にあるのと、押し入れにしまってあるのとの違いを問われても難しい。

 放置してあるってことは同じだ。


「そうだけど」


 でも、目に届く範囲にあるってことは、忘れずにいるってことだ。


「飾られている絵だって、倉庫にしまってあるよりは人に見てもらったほうがいいでしょう」

「刀は武器じゃ。飾るものじゃない」


 そう言われると、なにも言い返せない。

 わたしの住んでいた平和な世界だと武器を飾ったりしたり、博物館に飾られることもあった。

 場所によっては戦闘機や戦車だって。

 この世界の住人にとっては武器は武器でしかないのかもしれない。

 サタケさんの部屋にも刀は飾ってなかった。

 それに、よくよく考えたらゲームでも名剣、伝説の剣を手に入れても倉庫に眠っている人は多いはずだ。

 少しでも強い武器が手に入れば、誰かに譲ることもなく、売ることもせず、倉庫で眠る。

 きっとわたしだけじゃない。

 ゲームをやっている人なら誰しもが経験していることだ。

 そもそも、わたしがやっていたゲームには武器や防具、道具を飾るってシステムはなかった。


 わたしも今後ガザルさんが作ってくれたナイフよりよいナイフを手に入れたら、ガザルさんが作ってくれたナイフは倉庫行きの可能性もある。

 用途が違うなら使うこともあるけど、使う用途が同じなら性能がいいほうを使う。

 そういうことを考えると、あまりカガリさんを責められない。


「でも、他に武器がないなら、近くに置いておけば?」


 ゲームの場合は武器が徐々に強くなっていくから、しかたないことだ。でも、カガリさんの場合は他の武器を持っていない。だから、わざわざ島まで回収しに行った。


「確かにアイテム袋に入れておいても邪魔にならんからのう」


 そう言って、刀に優しく触る。


「他にも必要なものがあったら、あの家に置いていいからね」

「そうじゃのう。妾が使った酒樽が祀られても困るから、回収しておくかのう」


 確かにそれは嫌だ。

 それから、カガリさんが遅い夕食を食べながら、わたしたちは情報交換をした。


「そんなわけじゃ、スオウやサタケだけではなく、冒険者ギルドからも連絡が来ると思うから、頼む」

「分かりました。任せてください」


 サクラは仕事が増えたのに、嬉しそうにする。


「わたしは戦うことができません。でも、皆さんのお役に立てて嬉しいです」


 サクラは嘘偽りもない表情で言う。

 わたしたちの役に立てることが本当に嬉しいみたいだ。


「でも、サタケさんにカガリさんのことを教えたんだね」

「面倒じゃからのう」


 その気持ちは分かる。

 わたしも何度クマのことを話そうと思ったことか。


「契約魔法を使う?」

「不要じゃ。スオウの命令なら従うじゃろう。それに、誰かに話したとしても、信じる者はおらん」


 確かに、そうだけど。


「それに、あのような者に疑われると面倒になるって相場が決まっておる」


 わたしも試合を申し込まれた。

 スオウ王は止めてくれなかった。


「でも、カガリさんのこと、サタケさんに話すかどうか悩んでいたからよかったよ」

「そうなのか?」


 わたしは妖刀を持っていた男をサタケさんに引き渡したときのことを話す。

 妖刀のことをどこで仕入れた情報なのか聞かれたので、サクラの知り合いから聞いたと答えたってことを話す。


「実際問題、カガリさんのことを知っている人って、どれだけいるの?」

「知らん」


 自分のことなのに即答するカガリさん。


「スオウの奴が誰にどこまで話しているか、妾は把握しておらん。元の姿の妾のことを知っている者は多かったかも知れぬが、この姿のことを知っている者は、少ないじゃろう」


 カガリさんのことは説明が難しいからね。こればかりはしかたない。

 まあ、どっちにしてもサタケさんにカガリさんの説明をせずに済んだのは助かる。

 カガリさんの言葉じゃないけど、面倒だからね。

 サクラも「少し悩んでいたのでよかったです」と言っていた。


「そういえば、冒険者ギルドから連絡があるって言っていたけど」

「ギルマスには、今日話した」

「そうなのですか?」

「情報を集めるには、それが一番じゃったからのう。それにあやつのことは昔から知っておる。言いふらす奴ではない」

 


 顔見知りってことか。

 それじゃ、カガリさんの昔のことも知っているんだ。

 少し、聞いてみたいかも。


「そういえば、シノブの奴は戻ってきていないのか?」

「ないですね」

「無事ならよいが」


 わたしやカガリさんと違って、城の中か、城下町のどこかにシノブの家があるだろうし。

 その日の夜は、シノブは帰ってこなかった。


 翌朝、朝食を食べながら、これからのことを話す。


「カガリさんは、今日はどうするの?」

「妾たちが捕まえた男たちから情報は得られないじゃろう。情報が入るのを待つか、街の中を歩くかになるが」


 逃げた刀がわたしのことを恨んでいるなら、街の中を歩けば、あっちからやってくるかな?

 でも、クマの格好で和の国を歩くのは目立つんだよね。

 それはどこでもだけど


「オークションとか闘技場とかないのかな?」

「オークション?」

「闘技場ですか?」


 わたしの呟きにカガリさんとサクラが反応する。


「拾った妖刀が売りに出されるとか。戦いの場を求めて闘技場に現れるとか」


 漫画だと定番だ。


「オークションは難しいじゃろう。妖刀は持ち主から離れんじゃろう。離れるときは自分に相応しい持ち主が現れたときじゃろう」


 そうだよね。

 妖刀は簡単に手放せるものじゃない。

 売りますと言って、売れるものじゃない。


「封印がされていれば別じゃが」

「それって」

「封印されている状態で持ち出されていれば、可能ってことじゃよ。そうなると、オークションは別として、刀を買い取っている店も調べたほうがいいかもしれぬな」


 確かに封印されている状態なら、売られてもおかしくない。


「闘技場ってあるの?」

「妾は興味がないから知らぬな」

「わたしもです」


 サクラが闘技場に興味があったら、それはそれで困る。


「その手の情報はシノブが詳しいじゃろう」


 サクラとカガリさんと話をしていると、サクラ宛に手紙が届く。


「城と冒険者ギルドからみたいです」

「昨日の件じゃのう」


 カガリさんの言う通りに、昨日捕まえた男の情報だった。

 男たちが拾った経緯が書かれていた。

 あとは妖刀を握ったときの感情。


「封印が解かれていたら、売るのは不可能じゃのう」


 妖刀に取り込まれたら、そのために動かないといけない感情になると書かれていた。

 妖刀馬鉄を拾った人も、強い武器と戦いたい感情が生まれ、逃げた妖刀を手にした男も、自分が持つ最強の武器を証明したい感情が湧き上がってきたと言う。

 わたしと戦った人、その感情に負けず森に逃げたんだから、やっぱり凄い。


 それから城から妖刀を拾った場所の経路を重点的に調べているので、分かり次第報告すると書かれていた。


 そして、手紙が届いたばかりなのに、再度手紙が城から届いた。

 手紙を読んだわたしたちは一文に驚く。


『サタケ、行方不明』の文字に。



カガリさん、再度合流。


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※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

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※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


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書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)

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コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)

文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
日本刀のピークは鎌倉時代とか それなら現代の技術で洗練されてるであろう軍用ナイフと比較するとどっちが優秀なのかと思いました 日本刀と拳銃対決は某テレビ番組でありましたね
サタケは本気でヨナと闘いたい 妖刀に操られたならいけんじゃない? の脳筋の可能性ありだな
ユナのナイフは魔力を込めて使うので、倉庫行きの可能性はないのでは? ある意味で“成長する武器”なのだし、これより性能がいいものを作ろうとすれば、魔力伝導性能が高く、強度も一定以上のものが要求されるので…
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