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杞憂に非ず ④

≪On your mark――――?≫


「――――Lady」


既に魔法少女として変身していたンロギが紫色の炎に包まれる。

本人の視界を塞ぐほどに燃え盛る火柱は大きな隙となるが、それ以上に膨大な魔力の圧が暴風となって近づくことができない。


「ハク、中がどうなってるかわかるか!?」


《ま、魔力がすさまじい勢いで上昇してます! 今まで以上に強くなるってことですか!?》


雰囲気としては俺が黒衣を着重ねる際のものと似ている、だが増大する魔力の桁が段違いだ。

ワイズマンの力をもってしても読み解けない、だが未来視などを使わなくてもこのまま放置するのはまずいと嫌でもわかる。


「お兄ちゃん、道は作る! 本体を叩いて!!」


「ああ、分かった!!」


スノーフレイクの言葉を信じ、手に持つ武器を投げ捨て新たに羽箒を生成する。

そして箒を構えたその瞬間……目も開けられないほどの暴風が凪ぎ、一瞬の静寂が訪れた。

スノーフレイクの魔法による空間凍結だ。 俺とンロギを繋ぐ直線状の風が全て凍てつき、道を切り開いている。


「2秒も持たない、突っ込んで……!」


「任せろ、ぶっ貫くッ!!」



ワイズマンの持つ魔力をありったけ変換した推進力が、音を超える速度となってンロギへと襲い掛かる。

2秒もいらない、この距離を埋めて奴の身体を貫くまで1秒あれば十二分だ。

回避の余地も与えない一撃が火柱を突き破り、中に隠れた本体へ命中――――するはずが、その攻撃はンロギの掌によって止められる。


「ぐっ――――なんだ!?」


急制動の慣性によって俺の身体はンロギを超え、地面の上を転がる。

だがそんな事はどうだっていい。 ンロギは何の魔法も使っていないはずだ、少なくとも自分にはそう見えた。

ただ箒の進路を遮るように掌を添えただけで、触れた瞬間に音速を超えていたはずの羽箒が制止した。


「温いなぁ、そんなもんかよ魔法少女?」


「お前、一体何をした……!?」


紫色の炎が振り払われ、変身を終えたンロギの全貌が露わとなった。


全体的なシルエットはそこまで大きく変わっていないが、まず薄汚れていた灰白色のローブは雪のように白く染め上がっていた。

また、錆ついていたはずの金属装飾は束なって帯となり腰のあたりまで伸び、磨き上がった金色が衣装を豪奢に彩っている。

そして額には王冠のようなとげとげしいティアラが輝き、溢れる魔力が炎となって氷点下の世界に舞い散っていた。


「型の古いワイズマン、そして不完全な出来損ない……お前ら二人と僕の違いがこれだよ、生物としての格が違う」


《……はったりじゃないですよマスター、何というか魔力の気配がすごくイヤな感じです》


「ハクでも分からないか、だが足踏みしちゃいられない……!」


こうしている間に3人分の賢者の石から溢れる魔力が汚染を続けている、躊躇えばその時間だけ傷が広がって行くため、こちらは攻めるしかない。

羽箒の突撃を止めた仕掛けは分からない、だがその正体を見極めるためにもやはり何らかのきっかけが必要だ。


「へぇ、まだ抵抗する気かよ。 いいね、せいぜい無駄に努力してくれ」


「無駄かどうかわかんねえだろうが―――よッ!!」


≪BURNING STAKE!!≫


愚直な正面からの特攻……と見せて間合いまで踏み込んだ瞬間に短距離ワープで死角となる背後に回り込む。

このまま頭を蹴り潰せば再生まで動きは止められる、しかしンロギは最初から防御も回避も考えていないのかその場で棒立ちのままだ。

罠の可能性が過るが怖気づいてもいられない、迷いを払って振り下ろした蹴りは――――纏う魔力が霧散し、情けない音を立ててンロギの後頭部を撫でた。


「な、に……!?」


「なんだよ、痒いなぁ?」


「お兄ちゃん!!」


再びワープで距離を取るよりも早く、俺の視界が赤く染まる。

それが自分の眼球を燃やす炎だと気づいた瞬間、遅れてやってきた激痛が脳髄を掻きむしった。


《マス……っ!!》


「ッ゛―――――!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!??」


「ハッハッハハハハハハ!!! 学習しないな石ころはさぁ、何考えて突っ込んで来てんだよバァーカ!!」


ンロギの腕が俺の喉輪を鷲掴み、軽々と持ち上げる。

抵抗しようにも魔力が纏まらない、箒を作ろうと練り上げた魔力が傍から霧散していく。

激痛による集中力の低下だけが原因ではない、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「お、前゛……! これは、ネロの、力か……!?」


「ちげぇよ作った僕の才能だよ! クソみたいなお前らの脳みそでもわかりやすいように言うなら、賢者の石が放つ魔力波形の逆位相をぶつけてるようなものさ」


万力のような力で俺の首を絞める腕を振り解くことができない、プラズマに分解された眼球も再生できないままだ。

明らかにブルームスターの力が弱体化している、羽箒も蹴りも効かない理由がこれで分かった。

ただ、もしネロの持つ力が予想通りのものならば……


「賢者の石に対する()()、お前らみたいな刃向かう石ころを想定して作った次世代機のワイズマンだ。 その身でよぉく噛み締めてから死ねよ」


……俺たちは、ンロギに勝てないことになる。

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