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たった一人の冴えないやり方 ②

自分でも馬鹿な事を言ってしまったと思う。

私はこいつらに手を貸す理由なんてない、それどころかむしろ敵対しているはずだ。

それなのになぜこんなことになってしまったのか。


「ったく、覚えてなさいよあのおっぺけぺ……!」


ドリルであけた穴から降りると、そこは埃臭いロビーだった。

床には酷く風化した血だまりの痕跡、ところどころに見えるのは元人間だったものだろう。

内部に照明などはもちろんない、私は暗視が効くが機械も使えないこの環境ではあのおっぺけぺにはどの道無理な任務だったか。


「だからって私が代行する理由もないんだけどね……あーもう……」


痛む頭を押さえ、手のひらに収まる箱型装置を転がす。

おっぺけぺから預かったこれは、上部のスイッチを押すことで対象物を内部に収納する魔法具らしい。

あいつから引き継いだ役割はこの道具を使い、目的のものを回収することだ。


「……別に真面目に従う必要もないんだけどね」


それでも適当な仕事は完璧なワイズマンである私の理念に反してしまう。

……我ながら酷い矛盾だ、わざわざ創造主に牙を剥くような真似を働こうだなんて。

だがこれこそが私の存在義だ。 ……それに、今は何も考えずに気を紛らわす時間が欲しい。


「さ、終わらせるわよ。 遅くなっておっぺけぺが死にましたじゃ洒落にならないし」


目が慣れたところでロビーを抜け、奥へ奥へと歩を進める。

硬い床に反響する足音はどこまでも響く、どうやら先は長いようだ。

この先に本当にあるのだろうか? おっぺけぺが探しているという“部屋”は。


――――――――…………

――――……

――…



私はお兄ちゃんほど質のいい賢者の石を抱えていない、熟達を度外視すれば実力は劣る。

満足に使えるのは七篠 月夜としての魔法、そこから派生する賢者の基本機能である”万物の魔力化”だけだ。

驕りではないが、正直これだけでも並の魔物なら瞬殺できる。 だが今回は相手が悪かった。


「…………チッ」


『――――――……』


頬を伝う汗を拭い、乱れた呼吸を整える。 辺りは冷気で満たされているが頭はちっとも冷えてはくれない。

対する武者鎧の魔人は息一つ乱さず、銅像のように居合の構えで固まったままだ。

かれこれこの硬直が続いて時間はどれほど過ぎただろう、お兄ちゃん達は無事だろうか。


『―――――――』


「ああもう、また――――ッ!!」


金属質な音を掻き鳴らし、鈍い衝撃に頭が揺すられる。

何度目か数えるのも馬鹿らしくなってきた居合切りが直撃したのだ、なんとか防御こそ間に合っているがその太刀筋は未だ見切ることができない。

なぜなら相手の太刀が文字通り()()()()のだから。


「厄……介だなぁ、本当に……!」


私がフラついている間にも武者は再び太刀を鞘に納め、居合の構えを取っている。

その鯉口から僅かに覗く刀身は透き通って刃紋すら確認できない、しかし容易く人を斬り裂く刃が確かにそこにあるのだ。

異次元の抜刀速度と見えない刀身、2つが組み合わさると目視してからじゃ防御も間に合わない。


常に後手の対処を押し付けられる中では防御に回す魔力量も多くなってしまう。

賢者の石から絶えぬ供給があるため魔力切れの心配はないが、懸念すべきは周囲への汚染だ。


「……ああ、そっか。 魔力の消費が目的か」


戦いが長引くたび、相手の攻撃を喰らうたびに私の体からは魔力が放出されてしまう。

相手の狙いはこの放出だろう、私に防戦を強いる事でこの世界の魔力量を増やそうとしているのだ。


『――――――……』


無表情だった武者の佇まいに、僅かな感情の揺らぎが見えた。

図星を突かれて動揺したのか、それとも自分の役割を軽んじられたことへの怒りだろうか。

どちらだろうと私には関係のない話だ、相手の目的が分かった以上は付き合う道理もない。


「正直ね、その太刀捌きはすごいよ。 ほとんど絡繰が分からなかった、素直に称賛する」


何度も受けてなお解明できない太刀の謎、気にならないと言えば嘘になるが今は付き合う時間がない。

相手はただの時間稼ぎの捨て駒、これ以上の隠し芸がないのならこちらも手札を惜しむ理由が無くなった。


「ごめんね、これ以上お兄ちゃんを心配させたくないんだ。 ……あなたには今から惨たらしく死んでもらう」

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