あっけらかんとくたばって ⑥
「……どうして」
疑問が口からとめどなく零れる、目の前の光景が理解できない。
デュラハンの時より数段落ちるとはいえ、周囲に満ちる魔力は濃い。 魔法少女ならまだしも、常人ならば耐えられるはずがない。
それなのになぜ、お兄さんがこの場にいるのか。 なぜ、今まで姿を隠していたのか。 なぜ、魔物を殺しているのか。
――――なぜ、ブルームスターと同じ白い衣装を纏っているのか。
「なにか言ったらどうなんだヨ……おにーさんを慕ってる子がこんな顔してるんだヨ」
「……悪い、俺から話せる事は何もない」
「おにーさんには無くてもこっちはたんまりあるんだヨ! 今までどこに隠れてたのサ、何をしてたのサ、なんでその格好で現れたのサ!!」
混乱し、言葉が出てこない私に代わってゴルドロスが激昂する。
それでもお兄さんの表情は動かない、諦観にも似た落ち着きを見せたままだ。
「それ以上近づかないでくれ、俺もこの魔力は抑えきれないんだ。 お前たちを傷つけたくない」
「いやだネ、そこまで拒むなら力づくで――――っ!?」
お兄さんに近づこうと、一歩踏み出したゴルドロスの足が凍り付く。
氷は足の表面を覆っているだけに見えるが、魔法的な作用が働いているのか、それ以上ゴルドロスの足が進む事はない。
「クッ、なんだヨこれ……! ちょっと、レディーの美脚になにするのサ!」
「お兄さん、なんで……どうして拒絶するんですか!? 何か考えがあるなら話してください、納得できなければ引き下がれません!!」
「警告はした、頼むからこれ以上俺に関わらないでくれ。 じきに全てを終わらせる」
こちらに背を向けて、お兄さんが立ち去ろうとする。 だがその背を追う事は出来ない。
もし一歩でも踏み出せばゴルドロスと同じように凍るだけだ。
……いや、違う。 私はただ、追いかけてなお拒絶されてしまうことが怖かったんだ。
「魔法少女はもう戦わなくていい、魔法はもうすぐ醒めるんだ」
今拒まれてしまえば、二度と追いかけられないような気がした。
この足が、本当の意味で進めなくなるような気がした。
「――――ブルームスターが、全部解決するさ」
どうして、お兄さんの背中が……ブルームスターの背中と重なって見えるのだろうか。
「……お、にい……さんは……」
駄目だ、いけない、聞くな。 聞いてしまえば、絶対に後悔する。
馬鹿な考えだ、そんなはずがない。 きっと私の勘違いで恥を掻くだけだ。
「おにいさん、は……ブルームスター、なのですか……?」
「―――――…………」
……ああ、だから後悔すると言ったのに。
――――――――…………
――――……
――…
「……それで、彼を取り逃して戻って来たという訳かね」
「責めないでヨ局長、サムライガールもかなり参っているんだからサ」
「せ、責めている訳ではないのだがね?! ……ただ、まあ……何と声を掛ければよいのかわからんものだが」
おにーさんの手により魔物は既に討伐されていた、つまり仕事が無くなった私達は手ぶらでのうのうと魔法局に戻ることになった。
戦果こそなかったが死傷者は0、魔力汚染も範囲も狭く、半月程度で晴れる見込みだ。
リザルトで言えば花丸……だというのに、部屋に流れる空気は通夜のようだ。
「……おほんっ! えー、お茶でも用意しようか……今日は特別だよ、最高級の茶葉をご馳走しよう」
うまいこと理由を作り、局長が一足先に部屋から逃げる。
恐らく本当に最高の茶葉とお菓子は用意されるのだろうが、この空気を沸かす駄賃としては不相応だ。
「まったく、局長も世渡り上手だよネー。 AHAHA……」
「………………」
……サムライガールの反応はない。 先ほどからカーペットが敷かれた床に倒れたままだ。
もはや死んでいるんじゃないかと思えるほどに生体反応が観測できない、ただ脈拍と温もりは測れるので生きてはいるようだが。
「……局長に言わなくてよかったのカナ。 おにーさんがブルームスターだって」
「言った所で……信用してもらえませんよ……絶対に……」
そう、おにーさんは最後の最後に大きな爆弾を残して行った。
自身の正体の暴露、あろうことかサムライガールの問いかけに対して真面目に答えて去って行ったのだ。
「コルト……私はどうしたらいいんでしょうか……頭の中がぐちゃぐちゃで、何も出来ません……」
「どうしようネ、私も分からないや……」
サムライガールほど打ちひしがれてはいないが、私もかなりいっぱいいっぱいだ。
情報の整理が追いつかない、おにーさんは魔法少女はもう戦う必要がないとは言っていたがその意図は一体なんだ?
嫌な予感が鳴りやまない。 考えろ、最悪は何か、おにーさんが考えるような手段とは何かを。
あの人は……一体何を犠牲にしようとしているのか。