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ハイウェイ・デッドヒート ④

≪―――鳥獣(F)・GIGA!!≫


「ふぅ、やっとカセット一式が手元に戻ったか。 鳥獣(F)・GIGAは古くより続くレーシングゲームのタイトルだよ、ちなみにFはファルコンの略称で……」


「長くなりそうな御託はいいんだヨ、それよりこんな玩具みたいな車体で大丈夫なのカナ?」


ドクターの杖から鳴り響く電子音と共に、足元に召喚されたのはジェット機を思わせるデザインのレーシングカーだった。

ただし通常の軽自動車に比べるとサイズはかなり小さい、まるで遊園地に置いてあるゴーカートのようだ。


「大丈夫だ、見た目は魔法少女規格にリサイズされているが出力はフォーミュラを軽く超える。 速度だけで言えばドレッドハートのそれと遜色ない」


「なるほどネ、ちなみに私達は当然運転できないけど運転は誰が務めるのカナ?」


「何言っている、ゲームだぞ? 当然ながら操作権はボクにある」


ドクターが振って見せるゲーム機の画面には、車体内部から見えているであろう景色が映っている。

どうやらゴーカートのようなものと思っていたが違うらしい、これはドクターが操縦するラジコンカーだ。


「……今から入れる保険はあるカナ」


「何、医者がすぐそばにいるんだから安心したまえ。 それにそろそろラピリス達と……奴が来るぞ」


不意に、ツンとした腐臭が鼻を刺す。

否、これは魔力の臭いだ。 奴の身体から発せられる淀んだ魔力がこの距離でも感じ取れる。

そしてアスファルトの路面を揺らす地鳴りと共に直線路の彼方から現れたのは、件の魔人である人馬一体の首なし巨人だ。


「踏みつぶされるなよ、それと……」


「OK、それじゃ通行料は貰っていこうカナ!」


テディの腹から引き抜き、両手いっぱいに抱えたロケットランチャーたちを矢継ぎ早に放って行く。

照準を絞らずともわざわざ向こうからやって来る的だ、煙を吐きながら飛んで行った弾丸はすべて吸い込まれるように命中した。

着弾、爆発、発煙――――しかしその煙幕を突き破り、無傷の魔人が速度すら落とさず疾駆を続ける。


「やはりこちらの攻撃は通用しないネ、無駄な散財だヨ」


「流石に堅いだけでは説明がつかないな、何らかの攻撃無効手段があるはずだ。 検証も進めたいが……これではねっ!」


着弾した際にはまだ距離があったはずの巨体が、あっという間に目と鼻の先まで距離を詰めている。

ドクターと共に道路端まで飛び退いて突進を回避、3mを超える巨躯からは考えられない速度だ。 

ただ走るだけでも十分驚異的な威力となる、少しでも回避が遅れたら轢かれたカエルのようになるだろう。


「また周回を続ける気か、今の所はこちらへの殺意がないことが救いだが……ゴルドロス、気づいているかい?」


「もちろん、あいつが走るたびに()()()()()()()()()()()()()()ヨ!」


ほんの少し、意識すれば気づかないほどではあるが、あの魔人がこの一帯を通過するたびに大気中の魔力が濃くなっている。

デュラハンと仮称するあの魔人の目的は分からない、だがこのまま爆走を続けられればこの街を囲む交通網が致死量の魔力で汚染されてしまう。


「サムライガールはまだ来ないのカナ、連絡は?」


「数分前にアラートを鳴らした、彼女の速度ならそろそろ……」


「――――遅れてすみませんっ! 状況は!?」


「は、速すぎるっすー……!」


と、そこへ青い流星と化した話題の人物が目を回したライナを抱えてかっとんで来た。

アスファルトを削りながら着地し、素早く刀を抜き放つが既に問題の魔人は遥か彼方まで走り去っている。

やはり、私たちの中で最速のサムライガールでもあのデュラハンに比べれば速度が劣る。


「デュラハンはボクらを完全に無視しながら暴走を続けている。 予定通り奴の気を引くぞ、乗り込んでくれ」


「はい……えっと、これですよね?」


「サムライガール、不安な気持ちは分かるけど他に選択肢はないヨ」


ドクターが差しているのは、先ほど召喚したゴーカートだ。

検証はまだだが、デュラハンは“自分と速度を競おうとするもの”を襲う習性があると見られている。

故に用意されたのがこの車体だ、本来ならドレッドハートを呼ぶ予定だったが……背に腹は代えられない。


「作戦の確認だ。 ゴルドロスとライナの2人が搭乗、ラピリスが並走しながらデュラハンを追跡、理想はそのまま3人の連携で撃破だ」


「了解だけどサ、ドクターは一緒に乗らないのカナ?」


「非常に残念な事に定員オーバーだ、戦闘は2人に任せるほかない」


「……あれ、そのゲーム鳥獣(F)・GIGAっすか? 対戦モードがあるはずっすよね、2台目(2P)も出せるんじゃ」


「あいたたた、魔女事変の傷が疼いてきたな、今何か言ったかい?」


「お前ー!! 帰ってきたら覚えてろヨ!!」


「その元気が残っていると良いな。 ……ラピリス、ブルームスターは?」


「……魔法局で待機していますよ、必要なら呼びますが」


「いや、それでいい。 今回の作戦に彼女は使わない。 どうにかしてボクらだけで解決するぞ」



――――――――…………

――――……

――…


「…………」


一人残された会議室、腰かけた椅子が軋む音だけが部屋に響く。

そろそろラピリスとライナが現場に到着したころだろうか、戦況が気になる。


《……倒せますかね、件のデュラハン》


「どうだかな、アオの話だとそううまくはいかないようだが」


魔法局を立つ直前、アオが俺へ話したことを思い出す。

話の内容ははデュラハンの初出現時、逃げるネロが吐き捨てた捨て台詞だ。

曰く、あの人馬一体の魔人は俺以外には倒せないだとか。


《ドクターちゃんはこれを罠を判断し、あえてマスターを戦場から遠ざけた……と、どうします?》


「どうしますってなんだよ、反応が軽いな……」


《だってマスターは止めてって言っても聞かないじゃないですか、そりゃ私だって絶対に許さない一線はありますが……賢者の石に関することとか》


……賢者の石。 ネロやスノーフレイクが語る、俺の中に宿った異質な力。

俺以外に魔人が倒せない、という話もこの石が関係しているのだろうか。 だとすれば、ネロの目的は俺に石の力を引き出させることとなる。


《…………正直、マスターが向かえば絶対に良くないことが起きるという予感があります。 けど、同時にこのまま指を咥えていると取り返しのつかない事態になる予感もします》


「行くも地獄、退くも地獄か。 困ったもんだ」


きっとハクの予感は当たっている、二択のどちらを選ぼうと待っているのはろくでもない未来だ。

……ただ、それなら俺は後悔しない選択肢を選びたい。


《で、どうしますかマスター?》


「分かって聞いてんだろ、相棒」


俺の選ぶ道は変わらない、たとえ罠だとしても踏み抜かきゃならない時もある。

待っているのがどちらも地獄なら、一歩でも進んでから死のうじゃないか。

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[気になる点] 自分より遅い相手からダメージを受けないとかかな?
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