FCNTが8月28日に発売する「arrows Alpha(NTTドコモ版:arrows Alpha F-51F)」は、同社にとって4~5年ぶりのハイエンドモデルだ。実売9万円以下に価格を抑え、「手が届くハイエンド」を掲げる。2025年4月に代表取締役社長に就任した桑山泰明氏をはじめ、開発陣に新生FCNTの戦略と、arrows Alphaに込めた思いを聞いた。
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2023年10月にレノボグループ傘下で再スタートを切ったFCNTは、事実上2年目を迎えた。副社長から社長に就任した桑山泰明氏は「変わらない」ことの重要性を強調する。
「arrowsで言えば堅牢性、安心して使っていただける信頼性。これは絶対に変えてはいけない、ずっと守り続けていかなければいけないところだ」(桑山氏)
一方で、レノボの調達力やグローバルスケールの活用は明らかに変わった部分だ。統合マーケティング戦略本部本部長の外谷一磨氏は「レノボのシナジー、リソースを使って、だからこそできるFCNTらしい商品」と表現する。この変化が最も現れたのが、今回のarrows Alphaだった。
ハイスペックスマホの高価格化が進む中で、arrows Alphaは9万円を切る価格を目指した。一例として、NTTドコモ版のarrows Alpha F-51Fのドコモオンラインショップでの販売価格は8万9540円となっている。
arrows Alphaの開発は、FCNTがハイエンド市場に再挑戦する意義を問うところから始まった。外谷氏と桑山氏は日々議論を重ね、このカテゴリーでAIなどの最新技術を体験できるのが「ウルトラハイエンド」と呼ばれる高価な製品だけという状況に着目した。
市場調査を重ねた結果、10万円以下という価格帯がキーワードとして浮上した。より詳細に分析すると9万円以下が消費者の購買判断の境目だと判明した。
「実売で9万円以下を設定した上で、どういう体験を作るのがいいのか。日本のお客様がハイエンドに求めているイメージや体験、この先に享受してほしいバランスを一つ一つ見ていった」(外谷氏)
この価格帯は他の日本メーカーが手を出していない空白地帯でもあった。20万円前後からのウルトラハイエンドには多くのメーカーが参入しているが、FCNTは「手が届くハイエンド」というコンセプトで、新たな需要を掘り起こすことを狙った。レノボのリソースを活用することで、この戦略的価格を実現できたのだ。
チップセット選定は、レノボグループのグローバル幹部も交えた早い段階での議論から始まった。クアルコムかMediaTekか――最終的にMediaTekのミッドハイクラスのチップセットDimensity 8350-Extremeを選定した。
選んだ理由は3つあった。
第一にオンデバイスAIの実行性能、第二に日本市場が求める省電力性能、第三に高いGPUパフォーマンスだ。グローバルモデルが最高パフォーマンスを持続させることを重視するのに対し、日本では「2日持ち」という安心感が優先される。日本市場のニーズに最適化したチューニングに協力する体制が整っていたのがMediaTekを採用した決め手だった。
プロダクト事業部第一開発部シニアプロフェッショナルの春藤和義氏によると、具体的なチューニングは極めて複雑だ。8コアCPUは3種類に分かれ、それぞれのコアとGPUを、ゲームなどのシーンごとに最適制御する。「処理が重くなった時、クロックを上げるのではなくコア数を増やすという判断も含め、きめ細かなシナリオを設定している」(春藤氏)
さらに温度制御との両立も重要だ。CPUとGPUの効率を追求しても、温度上昇による制限がかかれば意味がない。このトレードオフを解決するため、温度パラメーターも含めた総合的な制御を実現した。
その熱制御を支えるのが、筐体サイズ比で世界最大級のベイパーチャンバーだ。通常は基板下のみに配置されるが、arrows Alphaでは液晶下まで広がる巨大な放熱機構を実現した。
「少なくともこの筐体サイズでは世界一だと思う」と外谷氏は強調する。春藤氏も「私もびっくりした」と、その規模の大きさに驚きを隠さない。
この徹底した熱制御により、長時間のゲームプレイでも発熱を抑え、パフォーマンスの低下を防ぐ。発表会後、多くのレビュアーが「ゲームをガンガンやっても熱くならない」と評価しているという。
確かにチップセットはミッドハイクラスだが、外谷氏は「AnTuTuの性能だけで"ハイエンドじゃない"って言われてほしくない」と述べ、ベンチマークスコアよりも実使用時の持続性能を重視していることを強調した。トップスピードでは引けを取るとしても、長時間安定して動作することを目指して作り込んだという。
arrows Alphaのカメラ開発は、FCNTにとって大きな挑戦だった。約5030万画素のメインカメラには、1/1.56インチサイズのソニー製「LYTIA LYT-700C」センサーを採用。超広角とインカメラも約4990万画素と、全方位で高画素化を実現した。
しかし、真の勝負どころは画質チューニングにあった。レノボが持つ世界規模の開発リソースを活用しつつ、FCNTの開発チームがさらに作り込んでいくという体制になったのだ。
最大の課題は、日本とグローバルの「美しい写真」に対する感覚の違いだった。「グローバルの開発チームが持っている『綺麗で映える写真』と、日本人が『これが撮れたらいい』と思う写真は違う。空の青も、パキッと青いのではなく自然な色味。夜景もニュアンスを感じるモダンな感じ。けんけんがくがく喧嘩しながら、これがいいんだという話を1つ1つやった」(外谷氏)
AIによる画質補正も本格的に導入した。単純な色補正にとどまらず、様々なシーンでの補正の組み合わせやノイズリダクション、撮影後の色味のばらつき防止まで、開発範囲は多岐に及ぶ。結果として「ライカやハッセルブラッドとコラボしている他社とベンチマークしても負けていない」レベルに到達したという。
電池持ちは日本市場での最重要ポイントだ。外谷氏は「競合他社よりも電池が持つようにしなければダメだ」という明確なKPIを設定し、開発チームにプレッシャーをかけたという。
5000mAhの大容量バッテリーは、動画視聴200分、音楽ストリーミング150分、SNS閲覧160分、ゲーム90分という計10時間の利用でも2日間持続する設計だ。同梱の90W充電器により、約35分での超急速充電も可能にした。
プロダクトビジネス本部プロダクトマーケティング統括部副統括部長の正能由紀氏によると、単に長時間持てばいいのではなく、実際の利用シーンでの電池持ちを重視している。「本来の使い方をしたときに、ちゃんと長く持っているように感じられるよう追求している」
さらに独自の充電制御技術により、5年後でも初期容量の80%を維持する長寿命設計を実現。これは1.5日に1回の充放電サイクルを1250回繰り返すシミュレーションで実証された数値だ。
arrows Alphaは新機能だけでなく、従来のarrowsユーザーから支持されてきた独自機能も継承している。
「FASTフィンガーランチャーとかExliderとか、Super ATOKもそうですよね。かなり根強く、これしか使えないからarrowsにするっていうお客様と、絶対になくさないでくれっていうご要望が強いところ、お客様がこれはなくなったら困るというところに関しては、継続してAlphaにも載っけている」(外谷氏)
具体的には、指紋センサーを使った「Exlider」は、センサー上で指をスライドすることで画面のスクロールやズームが可能。片手操作時に画面を隠さずに操作できる。「FASTフィンガーランチャー」は、指紋認証と同時に最大5つまでの指にそれぞれ異なるアプリを割り当て、ロック解除と同時に起動できる。決済アプリをレジ前で素早く起動するといった使い方が可能だ。
「FAST Appドライブ」と組み合わせれば、登録したアプリの読み込み時間を短縮し、より高速な起動を実現する。日本語入力には「Super ATOK ULTIAS」を搭載。AI変換による文脈理解で、より自然な日本語入力を実現している。
画面端からスワイプして呼び出せる「スライドインランチャー」や、ロック画面から素早くメモを取れる「FASTメモ」も搭載。arrows We2 Plusから継承された「自律神経測定機能」では、背面の光学式脈拍センサーで自律神経のバランスを測定し、健康管理に活用できる。
AI機能では、Google Geminiと独自の「arrows AI」をダブル搭載した。電源キーの長押しでGeminiを起動する他社と異なり、専用のアクションキーを用意。短押しでGemini、長押しでarrows AIと、自然な操作で使い分けられる設計にした。
arrows AIが発売当初から持つ機能はシンプルだ。端末内の機能や設定を自然言語で検索できるというものだ。例えば「文字を大きく」と入力すると設定アプリのフォントサイズの拡大を提案してくれる。
これは一見地味だが、設定や機能の正確な名称を知らないユーザーの「分からないことが分からない」というストレスを解消する機能だ。自然な言葉から推測して適切な設定へ導く、メーカーだからこそ提供できる価値だという。
「探しているもののキーワードが分かっていればたどり着くのは簡単だが、分からない。近しいものを想像して当てはめて、答えを示してあげるのは、非常にかゆいところに手が届く、arrowsらしい機能だ」(外谷氏)
秋冬にはさらなる機能拡充を予定している。正能氏によると「端末の中にいろいろ通知が来たときに、その通知を要約して教えてくれるような機能、画像を生成できるような機能」が追加される。外谷氏は「いわゆる皆さんがAIっぽいと思うような機能も、おそらく入ってくる」と期待を持たせる。
「買って終わりじゃないんで、これから進化してきますので」と外谷氏。「慣れてきた頃に新しいのがポッとでてくるみたいな、そういうリズムでいければいい」
FCNTの品質基準は、グローバル基準を大きく上回る。米国国防総省が定める耐久性規格、いわゆるMIL規格に23項目準拠している。さらに1.5mの高さからコンクリートに26方向落としても画面が割れない独自試験を実施していたり、ハンドソープで洗える防水性能を検証したりもしている。防水・防塵性能では最高水準のIP68/IPX9に準拠している。
この高い品質基準は「レノボのグローバルチームからは"クレイジー"と言われる」(外谷氏)という。新商品企画のたびに基準緩和の提案も出るが、FCNTは決して譲らない。
「日本市場の特徴でもあるが、それをさらに突き詰めている。ダブルでハードルが上がっている」と桑山氏は説明する。
サイズへのこだわりも日本市場ならではだ。幅72mmという数値は、何パターンものサンプルを作り、日本人の手に最もフィットするサイズを追求した結果だ。小型化は高密度実装という技術的困難を伴うが、これも妥協しなかった。
将来的な製品展開として、折りたたみスマホも視野に入れている。ただし、FCNTが製品化するには明確な意味づけが必要だという。
同じレノボグループのモトローラ・モビリティは縦折り型のスマートフォンrazrシリーズを展開しており、グループ内のアセットを活用すれば縦折り型の方が技術的には実現しやすい。
しかし、折りたたみ機構とarrows基準の堅牢性を両立することは技術的に困難で、「頑丈」という核となるアイデンティティを諦めるわけにもいかない。FCNTらしさを表現する別の切り口を模索している段階だ。
「FCNTが、arrowsがやる意味のある商品でなければ製品化しない。頑丈な折りたたみと言ったら、多分一生できなくなる。開発しやすいからそれをやるということでもない。あらゆる可能性は検討したい」(桑山氏)
4~5年ぶりのハイエンド開発を終えた春藤氏は、「ローエンドでいかに性能を維持するかという制約から解放され、やれることが増えた」と達成感を語る。
外谷氏は、新生FCNTになって技術陣のモチベーションが変わったと指摘する。「技術のメンバーが、今までやりたくてもできなかったところが、新生FCNTに向けてやれることが増えた。逆にエンジニアチームが言い訳できない環境が作られた」
レノボグループの調達力・技術力と、FCNTの日本市場理解・品質へのこだわりが融合したarrows Alpha。4~5年ぶりにハイエンドへ挑戦したFCNTの技術陣の自信作が本日発売となった。
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