最初は「きょうから本気を出そう」と意気込んでいたのに、結局は続かなかった――。

そんなことがあると気持ちも落ち込んでくるものですが、『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科』(堀田秀吾 著、SBクリエイティブ)の著者によればそれは“自然なこと”なのだとか。

なぜなら私たちの脳や心は、もともと“変化を嫌う”仕組みになっているから。新しいことを始める際にやる気が出なかったり、始めても続かなかったり飽きてしまったりするのは、心理学や行動科学、脳科学の世界ではよくある話だというのです。

心理学や脳科学の世界では、私たちの脳は「現状維持を好む」という性質をもっていることがよく知られています。新しい行動をはじめるのが億劫だったり、続かなくなったりするのは、意志の弱さではなく、脳の初期設定。(「まえがき」より)

ところが世の中は、がんばりや気合いの重要性ばかりを強調するメッセージであふれています。しかし、それでは余計に疲れてしまって当然。そこで本書では、気合いや精神論を一切排除しています。

代わりに、世界中の心理学、行動経済学、脳科学などの研究をベースに、「もっとラクに、もっと自然に、習慣化できる方法」をご紹介していきます。(「まえがき」より)

特徴的なのは、仕事、勉強、コミュニケーション、メンタル、健康、くらしなど、さまざまな分野で役立つ100以上の習慣化テクニックが集められている点。きょうはCHAPTER1「科学的に証明された『仕事の効率化』習慣」のなかから、2つをピックアップしてみたいと思います。

時計の針を速める

集中しているときには、時間の経過が早く感じられることがあるもの。このことについて著者は、以下のように説明しています。

千葉大学の研究によると、感じている時間というのは、体験した出来事の数ではなく、出来事を「体験した」と認識するために必要な脳のエネルギーや集中力を使えば使うほど長く感じられる――(24ページより)

つまり、「いまやっていること」にどれだけ頭を使っているかによって、体感時間は変わるということが示されたわけです。

一方、東京大学には「時計の針の動きを速めると、作業の量的・質的効率が向上する」という研究があるのだそうです。実験では下記の3条件を用意し、キーボードを見ずにタイピングすることができる21〜24歳の被験者6人に、30分間の文章入力作業などをそれぞれの条件のもとで行ってもらったのだといいます。

[条件1]時計の運針速度を遅らせて2/3倍速にする

[条件2]時計の運針速度を変えない

[条件3]時計の運針速度を1.5倍にする

(24ページより)

その結果わかったのは、入力文字数が[条件3]>[条件2]>[条件1]の順で多く、それぞれ約8パーセント(約400字)の作業量の変化があったこと。時計の運針速度と作業速度に、正の相関が見られたわけです。

ちなみに運針速度にかかわらず、質にはそれほど差がなかったようです。また、時計の運針速度の変化に気づいても気づかなくても、作業効率や疲労度、リラックス度にも変化はなかったそう。運針速度を変えるだけで、クオリティを下げずに作業が速くなることが明らかになったわけです。

同じ時間にもかかわらず作業量が増えているということは、それだけ集中しているとも言えます。集中すると主観的には負荷を感じにくくなりますから、相乗するように効率が上がっていきます。そのため、集中しているときは仕事がはかどるとも言えるのです。(25ページより)

適度に休憩をはさみつつ、“針の動きが見え、コントロールできる時計”をとり入れてみれば、集中して仕事や作業を効率的に行えるのです。(24ページより)

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先延ばしグセをなくす

多くの人を悩ませる“先延ばしグセ”について、スウェーデン・ストックホルム大学のローゼンタールとカールブリングは、研究の結果、改善策を次のようにまとめているそうです。

① すぐに得られる喜びや報酬があること

② ほかの行動の選択肢を減らすこと

③ 失敗への不安をとり除くこと

(26ページより)

たとえば「明日中に資料を完成させなければならない」という課題があった場合、ダラダラとスタートさせる前に①②③をとり入れてみるのです。

まず①は、「資料を完成させたら、夕食時に好きなお酒を飲む」などの報酬を設定すること。これは脳の報酬系を働かせ、やる気を引き出す方法だといえます。

次に②は、「資料にとりかかる」という状況のみをつくり出すために、「ワーキングスペースに移動する」「スマホの電源を切る」など“集中せざるを得ない環境”をつくり出すこと。

最後の③は、「上司に怒られたらイヤだな」といった不安によってあとまわしになっているような状況を緩和させる方法を事前に用意すること。

つまり、“先延ばしグセ”の改善策は、「そうしたくなる」あるいは「そうせざるを得ない」という状況や環境をいかにしてつくり出すことができるかがポイントというわけです。(27ページより)

もし「明日やればいいや」と思ってしまった場合には、この①②③を試してみればいいかもしれません。(26ページより)


完璧でなくてもいいので、できる日だけ、できる範囲で。そうした習慣が、自分自身を予想以上に遠くまで運んでくれるはずだと著者は述べています。習慣化したいことがうまくいかずに悩んでいる方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。

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著者紹介:印南敦史

作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X

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Source: SBクリエイティブ

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