ラウールさん演じる青年は「リアル」 発達性ディスレクシアの苦悩
「今まで、100万回以上ばかって言われてきたから」――。 木村文乃さんが主演を務めるドラマ「愛の、がっこう。」(フジテレビ系、木曜午後10時)で、「Snow Man」のラウールさんが、生まれつき読み書きが困難な学習障害の一つ「発達性ディスレクシア」(発達性読み書き障害)のある青年を演じている。 【写真特集】「頑張ってもできない…」苦しんだ子ども時代 「とてもリアルに描かれていると思います。ドラマを機に障害について知ってもらえたらうれしい」 こう語るのは、自身も当事者で、ドラマ制作に協力した関口裕昭さん(30)。ラウールさんとのやり取りや、「頑張ってもできない」と苦しんだ自身の経験について聞いた。【大平明日香】 ◇ばかにされ心に傷 ラウールさん演じるカヲルは、新宿・歌舞伎町で働くホスト。木村さん演じる女子高の国語教師、愛実は、生徒がホストクラブに出入りしている問題を機に、カヲルと出会う。 字の読み書きが困難であると知った愛実はカヲルに「個人授業」することになり、やがて互いに恋愛感情を抱いていくというラブストーリーだ。 「小学校の時、生まれつき字を覚えにくいって言われた」 発達性ディスレクシアとみられるカヲル。小学生の頃の回想シーンでは、国語の授業で音読がつっかえて読めず、ノートも真っ白。同級生にばかにされたり、漢字が書けず母親に「どうしてこんなにばかなのよ」とあきれられる様子が描かれる。カヲルは結局、小中学校にはほとんど通わず、複雑な家庭環境もあって心に傷を持っている。 SNS(交流サイト)では「ドラマを見てディスレクシアを初めて知った」「うちの子もそうなので、少しでも興味持ってくれたらうれしい」などと反響が相次いでいる。 ◇トム・クルーズやスピルバーグも 発達性ディスレクシアとは、知的発達に遅れがないにもかかわらず、読んだり書いたりすることに困難がある特性。発達障害の一つである学習障害(LD)に分類される。NPO法人「LD・Dyslexiaセンター」によると、大脳の一部に働きの弱い部位があることに起因しているとみられ、育て方は関係ないという。 ドラマで障害の監修を務めているLD・Dyslexiaセンター前理事長の宇野彰さんらの研究によると、障害を持つ割合は約8%と推測され、40人学級に2、3人いる計算となる。俳優のトム・クルーズさんや映画監督のスティーブン・スピルバーグさんなど、障害を公表している著名人もいる。 ◇「自分は努力不足」と必死で丸暗記 「鬱(うつ)や薔薇(ばら)を漢字で書いてください、と言われて即座にすらすら書けますか? それがひらがなや、簡単な漢字レベルでも起きていると想像してください」 関口さんは自身の特性についてこのように例えた。文字と音の結びつきが弱く、文字を見て音に変換する、逆に音から文字を想起するのに時間がかかるという。ひらがな▽カタカナ▽漢字や英語――の順で困難さは増す。 読み書きに違和感を抱き始めたのは、小学1年の時。国語の授業で音読しても時間がかかったり、間違えたりしてしまう。すらすらと読むクラスメートを見て「みんなは何回家で音読の練習をしているんだろう」「自分は努力が足りない」と思い込んだ。 一方、自身は真面目で明るく、学級委員も積極的にやる「優等生タイプ」。勉強ができないと思われたくない一心で、音読はいつ指されてもいいよう必死に教科書の内容を丸暗記し、漢字も「絵のように形を丸暗記」してテストに臨んだ。 中学になると英語でさらに読み書きに困難さを感じ、定期テスト前は「なんで頑張ってもできないんだ」といつも家で号泣していたという。 ◇診断受けて心が楽に 高校に入ると、いよいよ学習量が膨大となり、丸暗記だけではついていけなくなった。「周囲にばかだと思われているのではないか」。次第に心を閉ざし、学校も休みがちになった。 高校1年で初めて病院を受診。さまざまなところで検査を受け、発達性ディスレクシアと診断されたのは高2だった。読み書きは「小学校低学年レベル」とされた。 「めちゃくちゃうれしかったです。努力不足じゃなかったんだって」 治療方法がないという現実は重かったが、言語聴覚士(ST)になるという夢を見つけて前を向いた。面接と得意な数学のみで試験するAO入試(現・総合型選抜)で、STを養成する大学に入学した。 ◇自身の体験かてに言語聴覚士に 大学では面接時から障害を明らかにし、先生や友人から読み書きの配慮を受けながら学校生活を乗り切った。 STの国家試験は、短文の問題で五つの選択肢から解答を選ぶ方式。分厚いテキストが破れるまで「何ページのどこに何が書いてあるかまで覚えるレベル」で読み込んで丸暗記し、無事資格を取得した。「長文読解や記述だったら無理でしたね」 現在は、言語発達に遅れのある子どもを支援するSTとして東京都内で働く。 当事者として障害に理解を深めてもらおうと各地で講演活動もしている。3年前には長男が誕生。「自分の子どものことになると、いろんなことが途端に不安になる。親の気持ちがよく分かるようになりました」。支援する子の親には「無理をしないで。自分を追い詰めないで」と伝えることを大事にしている。 ◇ラウールさんの演技は「リアル」 ドラマの制作側から協力依頼を受け、実際にラウールさんに自身の体験を語った。「何度も真剣に質問してくれて、理解しようというまっすぐな思いが伝わってきました」。目の前で実際に文字を書いてみたり、読んでみたりもしたという。 ドラマについては「きちんと障害の特性が描かれていると思います」と評価する。第5話のカヲルが弟に絵本を読む場面では、たどたどしく読んだ後、「やっぱ、いいや」と本を閉じる。 関口さんは「詰まったり、言い直したりする読み方や、読むのを避ける演技を見て、すごくリアルだなと思いました」。ボールペンだと緊張してしまうため、愛実がカヲルにシャープペンシルを贈るエピソードも「僕もボールペンが嫌なんで、全く同じですね」と共感する。 「とても有名な俳優さんが、ドラマで読み書き障害のある人を演じてくれているのはとても良いことだと思っています。ドラマで興味を持ち、調べてくれる方も増えているようでありがたいです」 ◇ICTの活用で生きやすく 関口さんは現在、家族や職場など周囲から配慮を受けつつ、ICT(情報通信技術)を活用して生活している。 例えば、記者はメールで取材を依頼したが、受け取ったメールは読み上げ機能を使って内容を理解し、返信は人工知能(AI)が作成。内容を確認して多少の手直しをし、返信したという。音声入力も駆使している。 教育現場でも、障害者差別解消法に基づき「合理的配慮」が義務づけられている。学校の授業や入試の際、漢字にルビを振る▽授業の板書のカメラ撮影を許可する▽タブレット端末の読み上げ機能を使う――などの配慮例があるが、「配慮されなかった」「門前払いされた」などと苦しむ当事者もまだまだ多い。 関口さんは「他の生徒に『ずるい』と言われることを心配する声もありますが、特別扱いというわけではありません。眼鏡がずるくないのと同じように、障害を持っている子にとっては同じスタートラインに立つ行為だということを理解してほしいですね」と強調。 一方で、「学校側の知識が不足していることや、人手不足などの事情もある。テクノロジーが発達して先生たちの負担が軽減され、配慮がもっと進んでいってほしいです」と期待し、今後も啓発活動に力を入れていくという。