埼玉県に住む、20代の男性は後悔していることがあります。
去年、歯の痛みを感じ、治療を受けることにしました。
そこで調べたのがクチコミです。
地図アプリ「グーグルマップ」で近所の歯科医院の評判を確認したところ、「こちらの意向を無視して勝手に処置が始まる」などと書き込まれていました。
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そのクチコミ信じますか? 混乱する医療の現場
私たちが飲食店などの様々な施設を選ぶ際に、欠かせない存在となっている地図アプリ。クチコミで評判を知ることができ、参考にしている人も多いのではないでしょうか。
今では、病院や診療所を選ぶ時に、利用する人も増えています。
でも、そのクチコミに悪い評判が書いてあった場合、皆さんはどこまで信じますか?
(社会部記者 勝又千重子・おはよう日本ディレクター 田村進也)
クチコミを信じたために…
20代 男性
「自分の希望の診察はしてもらえないのかなと。他の歯科医も探しましたが、そもそもクチコミが書いていなかったり、マイナスなことが多く書き込まれていたりして、どこに行けばよいのか分からなくなってしまって…」
結局、1か月以上悩んでいる間に虫歯が悪化。
痛みが我慢できなくなり、最初にクチコミを調べた歯科医院を受診したところ、悪く書かれていたようなことは全く感じなかったといいます。
20代 男性
「あまりクチコミに振り回されていないで早く受診していれば、もっと早く治療が終わって、痛みからも解放されたんじゃないかと思います」
医療機関のクチコミ 手軽で便利な一方で…
今、医療機関を選ぶ際に、クチコミを参考にする人は増えています。
しかしその一方で、医療機関からは「事実と異なるクチコミを書かれた」という訴えが相次いでいます。
こちらのグラフは、医療情報サイトの運営会社が、ことし4月に1200人あまりの医療関係者にアンケートを行った結果です。
開業医の約7割・歯科医の約6割が「クチコミでひぼう中傷を書き込まれたことがある」と回答しました。
その具体的な体験談です。
開業医
「『効かない薬を大量に出された』『こいつはダメです』『ほかの病院へ行きましょう』と書かれた。感想を書くならまだしも、悪意を一方的にぶつけてくる」
歯科医師
「治療中に胸を触ったなどと書かれ、弁護士を通じて削除申請をして認められた」
クチコミのトラブルが急増
こうしたクチコミ被害の訴えが相次ぐ中、医師を対象にした講習会も全国各地で開かれています。
11月に沖縄で開かれた講習会では、40年以上、医療機関からの患者とのトラブル相談に応じてきた尾内康彦さんが講師を務めました。
尾内康彦さん
「クチコミのトラブルはこの10年の間に一気に増えてきた。事実と違うクチコミを書かれるリスクからは逃れられない。対応も難しく、医療の現場は大混乱です」
尾内さんは、クチコミで患者が減り、経営に大きな影響が出た事例もあり、医療機関がクチコミを無視できない時代になったと感じています。
尾内康彦さん
「これまでは、患者と医療機関のトラブルは対面が中心でしたが、それがインターネット上にシフトしています。ネットでは投稿している相手が誰か分からないケースもあり、どう対応すればよいのか分からず、こちらに相談を寄せてくる医師も多い」
講習会では、事実と異なるクチコミを書かれた時の対処法として、まず返信機能を使って医院の治療方針や事実と違う点を丁寧に書き込み、弁護士に相談していることを明記した上で、投稿者に削除を依頼するなどの対応を紹介していました。
トラブル対応に何年も 労力で疲弊
実際、医療機関はどんな被害を受けているのか。
私たちは、事実と違うクチコミを書き込まれたという医師に、詳しく話しを聞くことが出来ました。
兵庫県で眼科医院を経営する遠谷茂医師です。
遠谷医師は、レーシック手術や白内障手術で不具合のあった患者を受け入れ「やり直し手術」を行ってきました。
しかし3年前、グーグルマップに、あるクチコミが書かれているのを発見しました。
“レーシック手術は左目だけで勝手に右目はレンズを入れられた”
“何も症状もないのにまた勝手に一重まぶたにされた”
“他の眼科へ行くことをお勧めします”
それは遠谷さんにとって、まったく身に覚えのない内容でした。
医学的にはありえない内容のため、はじめは無視することも考えましたが、投稿に複数の「いいね」マークがついているのを見て、考えが変わりました。
遠谷茂さん
「一般の人は信じちゃうんじゃないかと思いました。うそを信じて間違った選択をしてしまう患者さんというのが出てくる可能性もあり、非常に危険だなと」
クチコミを見て、治療のチャンスを逃す患者がいるかもしれないと考え、投稿の削除を求めて訴えを起こすことにしました。
しかし遠谷さんは、クチコミを削除するための高いハードルを思い知らされました。
投稿を削除するためには、まず投稿者を特定しなければなりませんでした。その情報開示を、アプリの運営会社に求めるには、投稿が事実ではないことを証明する必要がありました。
その後、裁判で投稿者の情報開示が認められると、今度は、その投稿者を相手に記事の削除などを求める裁判を起こす必要がありました。
そしてことし5月、裁判所は「勝手な医療行為をするという印象を与え、社会的評価を低下させた」などとして、投稿者に記事の削除と損害賠償の支払いを命じました。
クチコミを見つけて削除するまでに3年の月日がたっていました。
遠谷茂さん
「投稿が事実ではないと証明するのは非常に難しい。何も生み出さないし、無駄な労力をこちらがしなければならない」
クチコミ 誰が書き込んでいる?
相次ぐトラブル。
クチコミに詳しい弁護士は、無関係の人物でも書き込めるシステムが問題を拡大させているとも指摘しています。
中澤佑一さん
「投稿者の開示請求をすると、一度も受診した記録の無い人や、遠く離れた地域に住んでいる人もいて、なぜ書き込んだのだろう?という事例も出てきています。また、近隣の同業者がクチコミを書き込んでいるケースも見られました。営業を妨害するためではないかという事例もありました」
一方、地図アプリを運営する「グーグル」は、サイト上で「投稿や編集の内容は、実際の体験や情報に基づくものでなければならない」と明記しています。
NHKの取材に対し、個別の案件にはコメントできないとした上で、次のようにコメントしています。
グーグル
「不正確な内容や誤解を招く内容を減らすよう努めています。人間のオペレーターと機械を組み合わせて24時間体制で企業プロフィールを保護し、不正なレビューを削除しています」
クチコミ “患者の不利益につながる可能性も”
クチコミで混乱する医療の現場。
クチコミの問題に詳しい専門家は、事実と異なるクチコミが放置されると、医療機関だけでなく、患者の不利益にもつながりかねないと指摘しています。
国際大学 山口真一 准教授
「本当はすごく良い医療をしている所でも、嘘のクチコミが書かれると、患者が避けてしまう。そうすれば、本来受けられる良い医療が受けられなくなってしまいます。また、医療機関もクチコミで悪く書かれたら嫌だということで、患者の求め通りに薬を出したり治療を行ったりすることも考えられます。本来は薬が必要ない、あるいは薬を出さない方が良い患者に対してそのような対応をすると、医療の質にも影響を及ぼしてしまいます」
信頼できるクチコミ どう見分ける?
とはいえ、便利で知りたくなるのがクチコミ。
山口さんは、クチコミにはバイアスや偏りもあり得ることを踏まえて「すべてをうのみにしないこと」が大切だと指摘。
その上で3つのチェックポイントを教えてくれました。
▼投稿者の他のクチコミに不自然な点がないか。
▼同じ時期に極端な投稿が集中していないか。
▼主観的な意見だけでなく事実が書いてあるか。
国際大学 山口真一 准教授
「クチコミを書く人というのは、その施設が『すごく良かった』と思う人と、『ものすごく嫌だった』と思う人が、それを広く訴えるために書く傾向があるので、すごく偏っている場合もあり得ることを踏まえて、利用することが大事。まずは感情的な部分と、実際に起こった事実を区別して、参照するとよいと思います」
取材後記
行ったことが無い病院のクチコミに悪い情報が書き込まれていれば、避けたくなるのが患者の心理だと思います。
一方で、医師の中には、対応の仕方が分からなかったり、多忙のため対処する時間がなかったりして、そのままにせざるを得ないという医師もいます。
事実ではないクチコミを、速やかに削除できる仕組みを、今後も検討していく必要がありますし、私たち患者側も、すべての情報をうのみにせず、振り回されることがない姿勢が求められているのだと思います。
あなたはそのクチコミ、どのぐらい信じますか?
(11月18日「おはよう日本」で放送)
情報はニュースポストまで
私たちは、このクチコミのトラブルについて引き続き取材します。
ぜひみなさんからの情報をこちらまでお寄せください。
ニュースポスト
勝又千重子
2010年入局
山口局、仙台局を経て現所属
少子化や健康施策について取材
子どものかかりつけ医はグーグルマップで探しました
田村進也
2020年入局
大阪局を経て現所属
最近クチコミをチェックする頻度が増えました