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子ども2人目は欲しいけれど… 家が狭いから諦める!?

「家賃高すぎ。もう少し安くないと、2人目の子どもは考えられない…」
「都心は家賃が高いから、広さを諦めたし、2人目も諦めた」

結婚して子どもが生まれたら、マイホームを購入したり、広い家に住み替えたりする…。かつて多くの人が当たり前のように思い描いていたことが、いま非常に難しくなっています。

去年生まれた子どもの数は速報値で72万人あまりと過去最少。少子化が進む要因は、若い世代の減少や経済的な不安などさまざまですが、その中に「住宅の狭さ」が関係しているという指摘があります。その現状を追いました。

(社会部記者 勝又千重子)

本当は子どもは3人欲しい だけど…

泉琴李さん(写真右)

都内で、3歳の娘を育てている泉琴李さん、33歳です。

公園で子育て世帯に話を聞く中で出会った泉さん。「ちょうど先週、夫と広い部屋への引っ越しを考えて話をしたところです」と取材に応じてくれました。

現在、住んでいるのは1LDK・38平方メートルの住宅。家賃は管理費などを含めておよそ10万円です。

リビングの隣にある1部屋を家族の寝室と娘の遊び場にしています。

ただ、布団をしまうスペースがない上、おもちゃや絵本などを収納する場所も限られることが悩みだと言います。

娘の成長とともに家が手狭になり、2人目の出産も考えるようになり、今より1部屋多い2LDKのマンションに引っ越すことを検討したといいます。

しかし、周辺で探すと、家賃は月に4万円から6万円ほど上がります。

泉さん夫婦の年収は合わせて600万円ほど。引っ越すと、娘の教育費など将来への貯蓄ができなくなる心配があるといいます。

家賃が比較的低い郊外に住むことも検討しましたが、泉さんも夫も、基本的に在宅勤務が難しい仕事のため、今の場所から遠く離れるわけにはいきませんでした。

泉さんは、もともと子どもは3人欲しいと考えていましたが、今のままでは2人目の出産も難しくなるのではないかと考え始めています。

泉さん
「私自身が3人きょうだいで、とても楽しかったので、娘にきょうだいを作ってあげたい気持ちがあります。ただ、手取りが増えない中で家賃が上がれば、どこか削る必要が出てきますが、そう簡単にはいきません。子どもが増えたら、家やお金のことを考えなければならず不安も大きいので、今の時点では、2人目はなかなか難しいと思っています」

住宅の狭さも少子化の要因に

住まいが原因で泉さんのように考える子育て世帯は少なくありません。

国立社会保障・人口問題研究所が2021年に行った調査では、
35歳未満の若い世代で、理想の子どもの数を持たない人に理由をたずねました。

その結果がこちらです。

「子育てや教育に、お金がかかりすぎるから」が最も多く77.8%

「これ以上、育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから」23.1%と続きましたが、

▼3番目に多かったのが「家が狭いから」21.4%

前回、2015年の調査で家が狭いからと答えた人は約18%だったので、徐々に拡大していることがわかります。

マンションの専有面積は縮小

実際、都市部では住宅面積は縮小する傾向にあります。

調査会社の不動産経済研究所によりますと、首都圏の新築マンションの専有面積は
2000年には平均で74.76平方メートルでしたが、
去年は66.42平方メートルと、20年余りで11%減少しています。

住宅の狭さは子どもの人数に影響?

子育て世帯が訴える家の狭さ。具体的にどんな影響が出るのか、分析した研究もあります。

財務総合政策研究所が2021年に公表した調査です。

「第2子を望む夫婦では、住居の延べ床面積が1平方メートル大きくなれば第2子が生まれる確率が3%高くなる」

広さを求める場合、郊外に引っ越すことも考えられますが、懸念されるのが通勤時間。調査では通勤時間の長さと第2子が生まれる確率の関係も分析されています。

「東京23区と政令指定都市の場合、夫の通勤時間が10分増えると第2子が生まれる確率が4%減る」

広い家に住むためにはより郊外に引っ越す必要がありますが、
今度は通勤時間が長くなり、子育てをしづらくなるという難しい実情が見えてきます。

『空き家』活用 子育て世帯に提供も

子育て世帯が、もっと広い家に住むにはどうすれば良いのか。

なかなか難しい問題で、簡単に解決策が見つかるとは思えませんが、私たちは何かヒントになることはないか取材を続けました。

すると、「空き家」を活用する取り組みがあると聞き、都内のある家族を訪ねてみました。

東京・練馬区に住む、河原知子さん。夫と共働きで1歳の息子を育てています。

河原知子さんと家族

以前は月の家賃が13万円の1LDK・45平方メートルのマンションに暮らしていましたが、今は家賃が18万5000円で、広さ4LDK・103平方メートルの戸建てに住んでいます。

この家は、以前は「空き家」でした。住宅のリノベーションを手がける工務店が、築30年以上の空き家を借り上げて改修し、賃貸で提供したものです。

これまで置き場所に困っていた子どものおもちゃや衣服を保管する場所もでき、十分な広さのある家に住めたことで、2人目の出産も考え始めているといいます。

河原さん
「家の広さは心の余裕に直結すると感じています。以前は子どもが走ったりジャンプしたりして、よく注意していましたが、一軒家なので伸び伸びさせられます。今までは2人目の子どもの寝る所や衣服などを収納する場所も無かったので、子どもを増やすことは考えられませんでしたが、この広さがあればよいかなと思えます」

改修を手がけた工務店

改修を手がけた工務店です。これまで、空き家は改修費がネックとなり、活用が進んできませんでしたが、この会社では、改修費用を自分たちで負担しています。数年間運用した後に所有者に返す仕組みで、これまでに100件ほどの物件を手がけています。

空き家は、2023年に全国で約900万戸と過去最多に上っています。そのうち東京都は最も多く、約89万戸と全体の1割程度を占めています。

こうした空き家の活用は行政も支援していて、この会社では、東京都の補助金を活用して、子育て世帯向けに空き家の改修も行っています。

ルーヴィス 小井沼修司 取締役
「もともと賃貸住宅は、広い家の数が少ない。空き家を有効活用して、子育てに適した住宅を提供していきたい」

住宅手当・通勤手当で社員支援の企業も

また取材を進めると、社員がライフスタイルに合わせて、住む場所を選びやすくする取り組みを進めている企業にも話を聞くことが出来ました。

千葉市に本社がある大手ファッション通販サイトを運営する企業です。

おととし、福利厚生を見直し、住宅手当と通勤交通費を拡充しました。これまでは、拠点がある千葉市や茨城県つくば市などに限っていた住宅手当の対象を、全社員に拡大。一律で5万円を支給することにしました。

同時に、通勤交通費の支給額の上限を、5万円から15万円に引き上げ、飛行機や新幹線を使った通勤も認めました。

38歳の男性社員

9歳と4歳の2人の子どもを育てる男性社員は、実家のある静岡県富士市に自宅を構え、新幹線で通勤しています。

会社では、週に3日リモートワークができる制度も導入されたため、出勤は週に2回。子育てに十分参加できているといいます。

男性社員
「経済的な面で負担が減るのは大きいです。子育ても充実し、安心して働き続けられます」

会社は制度を導入したことで、離職防止や入社希望者の増加などにも効果があったとして、今後も必要に応じて充実させていきたいとしています。

ZOZO人自戦略部 三原正久 ディレクター
「子育てをしながら働くことは、とても大変なことなので、住みたい場所に住むことができれば、精神的にも体力的にも安定して仕事や育児に取り組むことにつながると思います」

国の住宅支援制度 拡充が必要

専門家は、企業だけでなく国による支援も必要だと指摘しています。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 藤森克彦 主席研究員
「日本はこれまで子育て支援についての財源が乏しく、若い人たちに負荷がかかってしまっている。外国では“家は生活の基盤”という考えのもとで、借家に住む人たちの支援を充実させている国もある。日本は社会保障制度の中で住宅にもっと目を向けて、家賃補助制度の充実などを考えていく必要がある」

取材後記

国は「2030年までが、少子化を反転できるラストチャンス」として、対策を急いでいますが、流れが変わる兆しは、なかなか見えてきません。

結婚や出産を望む人たちが、当たり前のように叶えられる環境を整えるには、何が必要なのか。今後も取材を続けたいと思います。

(2月27日 ニュース7などで放送)

社会部記者
勝又千重子
2010年入局
山口局、仙台局を経て現所属
人口減少や子どもに関する取材をしています

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