ACE研究を専門とする、大阪大学大学院の三谷はるよ准教授。著書に『ACEサバイバー──子ども期の逆境に苦しむ人々』(写真:本人提供)
ACE研究を専門とする、大阪大学大学院の三谷はるよ准教授。著書に『ACEサバイバー──子ども期の逆境に苦しむ人々』(写真:本人提供)
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 幼少期の虐待など逆境体験は「ACE(エース)」と呼ばれ、注目が高まっている。その苦しみは、「社会の怠慢の産物」だと専門家は指摘する。「ACEサバイバー」が生きやすい社会を実現するには、何が必要か。AERA 2025年9月8日号より。

【画像】ACE(逆境的小児期体験)スコア「4以上」の人の各種リスク

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 子ども時代に負った心の傷のため、大人になっても苦しみ続ける──。こうした思いを抱える人たちがいる。18歳までの子ども期に経験した虐待やネグレクトなどの逆境体験は「ACE(エース)」と呼ばれ、いま注目されている。Adverse Childhood Experiencesの略で、「逆境的小児期体験」と訳される。1990年代に米国で研究が始まり、国際的な広がりを見せている。ACEの過去を抱えながら生きている人たちは、「ACEサバイバー」だ。

 7月、俳優の遠野なぎこさんが自宅で亡くなった。享年45。彼女は自伝の中で、幼少期から思春期にかけ母親から身体的、精神的虐待を受けていたと告白。15歳で摂食障害となり、性的逸脱を繰り返した。亡くなる前には、うつ病と診断されたと明かしていた。彼女も、典型的なACEサバイバーだったと見られている。

「子ども期に、より多くのACEを経験した人ほど、その後の人生において病気や社会経済的問題のリスクが高まることがわかっています」

 そう話すのは、ACE研究の専門家、大阪大学大学院の三谷はるよ准教授だ。ACEは主に10種類ある。

(1)身体的虐待、(2)心理的虐待、(3)性的虐待、(4)身体的ネグレクト、(5)心理的ネグレクト、(6)親との別離、(7)DVの目撃、(8)家族のアルコール・薬物乱用、(9)家族の精神疾患、(10)家族の服役。

 三谷准教授によれば、特にACEスコア(該当数)が「4以上」の人は、「0」の人に比べ様々な影響を受けやすいという。例えば、健康面では「脳卒中」は2.4倍、「うつ病」は4.6倍、「自殺未遂」は12.2倍、「50人以上の性的パートナー」は3.2倍。社会経済面では「高校中退」と「失業」は2.3倍。「貧困」は1.6倍なりやすい。さらにACEスコアが「6以上」の人は「0」の人より、平均で約20年早く死亡する知見も報告されている。

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