(耕論)排外主義を考える サンドラ・ヘフェリンさん、樋口直人さん、宮下萌さん

 夏の参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進し、極右が台頭する欧州の排外主義の波が日本にも及んできたとの見方もある。この現象をどう考えるべきなのだろう。

 ■ずっと「日本人ファースト」 サンドラ・ヘフェリンさん(随筆家

 参院選のさなかにあふれた「日本人ファースト」という言葉に違和感を覚えました。「日本人」を強調したいのなら、「日本人第一」では、と。私のような外国にもルーツのある人たちに居心地の悪さを強いる言葉の重さに比べ、発信する側の軽さを感じました。

 私の父はドイツ人、母は日本人ですが、ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢いを増しています。排外主義の動きは先進国で広く見られ、移民や難民流入の不満など様々な要因が指摘されています。しかし、難民の受け入れ数なども桁違いに少ない日本でなぜ、排外的な動きが起こるのか、よくわかりません。日本はずっと日本国内においては「日本人ファースト」だったのではないでしょうか。

 日本の国籍法は、外国の国籍を取得すると日本の国籍を失う、としています。明治時代に定められ、今も11条1項として残っています。これは研究者など海外で仕事をする日本人や、国際結婚などにより外国に住む日本人にとって理不尽な規定です。

 日本の社会は、人を「見た目」で「日本人」と「外国人」に分類しがちです。数年前に口座を作ろうと地元の信用金庫を訪ねた時のこと。日本のパスポートや印鑑を窓口で示し、手続きをしたのですが、窓口の職員は「地元にもっと近い信用金庫があるのでは」とライバル店の名を挙げ、口座を開設しようとしません。口座は作れたものの時間がかかったのは、私の見た目が「外国人ふうの顔」だったからかもしれません。

 「踏み絵」を迫られることもしばしば。「あなたのアイデンティティーは」と尋ねてきた人に、「自分は日本人で同時にドイツ人」と答えてけげんな顔をされました。アイデンティティーは一つでどちらかを選ぶべきでは、と言いたげでした。

 SNSに「外国人出ていけ」といった投稿をする人がいます。外国人との接点があるのでしょうか。どんな暮らしを送っているか知っているのでしょうか。よく知らず、自分の境遇への不満のはけ口として攻撃をしてはいないでしょうか。ヘイトを生む土壌には「無知」があります。

 どんな属性だとかレッテルを貼るのではなく、相手を人として理解しようとする心が大切です。理解し、対話ができれば、自分も、相手も生きやすい。だれかを排除するのではなく、包摂する社会を作る努力がいま求められています。(聞き手 編集委員・豊秀一)

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 ドイツ出身。著書に「ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる」、共著に「国籍のゆらぎ、たしかなわたし」など。

 ■持ち込まれた防衛の発想 樋口直人さん(社会学者)

 排外主義とは、外国から来る人やものを自国にとっての脅威であるとみなす考え方のことです。

 参政党の政策に排外主義との批判が出ている問題をどう見るか、ですか? 神谷宗幣代表は否定していますが、参政党の主張は、研究で使われるいかなる定義に照らしても排外主義としか言いようがありません。

 参政党のホームページで政策を見ると、「日本国内への外国からの静かなる浸透(サイレント・インベージョン)を止める」との目標を掲げたうえで、「外国人の受入れ数に制限をかける」「帰化及び永住権の要件の厳格化」などの施策を列挙しています。

 反移民の性格を明確に打ち出した、排外主義という言葉のあてはまる政治勢力が日本に現れ、選挙戦でそれを主要な争点として掲げながら存在感を示した。日本では初めてのことだと言っていいと思います。

 中でも「外国文化や価値観の強要を禁ずる」という参政党の政策には、欧州の極右のレトリックに似てきたという意味での「先進性」がうかがえます。ポイントは、日本の外国人政策議論に「防衛」という発想が持ち込まれたことです。

 これまでの日本の外国人政策は、権利を認めず放置しておけば結果として日本国籍への同化が進むだろうと期待する「放置」志向の保守と、「共生」志向のリベラルの二本柱が基本でした。そこへ参政党が「防衛」を持ち込んだ形です。

 侵略や侵入の意味も持つインベージョンという言葉まで掲げながら、この脅威に対応しなければ社会を防衛できないと訴えている。欧州の極右政党の間で広がった脅威のレトリックを、日本でも公の政党が体系的政策として整理するに至った。予想より早く時計の針が進んだ感があります。

 排外主義が広がる背景には人々の生きづらさや閉塞(へいそく)感があるという議論には注意が必要です。欧州各国で極右への支持がいつ伸びたかを調べた大規模な実証調査では、伸びたのは経済的な不況時ではなかったなどとする結果も出ているからです。ネットへの接触度合いの違いが支持に影響していないかどうかなども含め、幅広く調査を積み重ねていくべきです。

 日本ではまだ、市民の反移民感情が他国より高いわけではありません。「まだ本格的に始まっていない」段階での排外主義の台頭を、今後に向けた練習の機会にしていく。そんな意識で取り組むべきでしょう。(聞き手 編集委員・塩倉裕)

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 ひぐちなおと 1969年生まれ。早稲田大学教授。専門は移民研究。日本や欧州などでの排外主義の問題に詳しい。著書に「日本型排外主義」など。

 ■差別許さぬ、政府が発信を 宮下萌さん(弁護士)

 参院選で躍進した参政党が掲げた「日本人ファースト」が、政治的に焦点化しています。ただ、この言葉の何が問題なのかが整理しきれていない気がします。ヘイトスピーチ解消法でいう「不当な差別的言動」にあたるかといえば、そうではないように思えます。

 しかし「日本人ファースト」という言説の問題は、これが一部の人々の感情に訴える「犬笛」となり、SNSのコメント欄などをヘイトスピーチの温床にしていることです。SNSには、「外国人は帰れ」といった典型的なヘイトスピーチが蔓延(まんえん)しています。

 自分たちの生活が苦しいのに、外国人が優遇されている。そう感じている人にとって、「日本人ファースト」は、差別ではなく日本人を優遇する「当たり前」の政策に映る。「普通の人」が抱く漠然とした不安に刺さったのではないでしょうか。

 しかし、「ファースト」があるということは、「セカンド」やそれ以下があるということです。外国人という仮想敵を作り出し、支持を得ようとするやり方に危うさを感じます。

 歴史が教えるのは、差別は人を殺すということです。日本では、関東大震災のときの朝鮮人虐殺の背景に差別がありますし、ナチスの人種差別主義はユダヤ人ホロコーストを生みました。差別の芽は早くから摘む必要があり、差別禁止法の制定や被害救済のための国内人権機関の設置が求められています。

 もっとも、こうした法的な対応だけでは足りません。外国人という仮想敵を作っても、「自分たちの生活が苦しい」という問題は解決しません。人々の不安の背景に日々の経済苦があるとすれば、外国人をスケープゴートとして差別をあおるような政策を打ち出すよりも、経済対策を急ぐべきです。そして「差別は許されない」というメッセージを政府や政治家たちが毅然(きぜん)と発するべきです。

 歴史が教えてくれないこともあります。インターネットやAI(人工知能)が登場したことで、オンライン上のヘイトスピーチや「AIによる差別」などが出てきて、「新しいテクノロジーの時代に差別をなくすためにはどうしたらよいか」という課題が生まれています。「正論」を言ってもだめだと言われることがあります。しかし、良識や常識が通用する健全な言論空間を作ることもあきらめるわけにはいきません。(聞き手 編集委員・豊秀一)

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 みやしたもえ 1992年生まれ。ヘイトスピーチなど差別の問題に詳しい。編著に「テクノロジーと差別」「レイシャル・プロファイリング」など。

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