数日後、「紛争」の眷属がオクヘイマを襲った。
その防衛戦において、ゼノスは最前線に立って剣を振るった。
「お、おいアンタ!そんな血まみれで、大丈夫か?」
「問題ない、全て塞がった傷だ」
いくら瞬時に回復するといっても、それが幾度も重なれば血は流れる。
しかし、彼はそうして流れた血を気にすることなく自らを他の戦士の盾として、矢を刺されようとも剣に切り裂かれようとも止まることなく剣を振り続けた。
この日、彼が新たなオクヘイマの英雄として叙事詩に刻まれた。これはその最初の一頁である。
「ダメです、しっかりと診させてください!触診だけでも大丈夫ですから!」
「もう塞がっていると言ってるだろう?俺には不要だ、他の怪我人を優先させるといい」
「あなたが盾になったので、他の怪我人の方はほとんどが軽傷でした。あとはあなただけですよ!」
防衛戦が終わったオクヘイマで、ゼノスは昏光の庭の医師であるヒアンシーに腕を掴まれ、臨時の医務室へと引っ張られていた。
しかし、ゼノスは傷は塞がっていると主張し、ヒアンシーはそれだけの流血で傷が一切ないなどあり得ないとお互い一歩も譲らない。
「あなたも見ただろう?キャストリスの手が招く死でさえ俺には届かないんだ」
「……たしかに、それは見ました。けれど、あなたの体の傷が塞がる様子は一度も見ていません!」
「まぁまぁ、アンタはすげえ戦いぶりだったが、あんだけ攻撃を受けてたんだから正直に治療を受けたらどうだ?」
一人の戦士がゼノスを宥めようと近寄る。
すると彼は
「ちょうど良かった。そこの戦士殿、剣でもなんでも切れるものを貸してくれないか?」
「お、おう」
戦士が腰の短剣を差し出すと、ゼノスは
「少し嫌な思いをするかもしれないが、見ていてくれ」
そう言ってヒアンシーの目の前で自らの腕に一文字に切り傷をつけた。
驚いて目を塞ぎそうになったヒアンシーだったが、彼の要望通り目を開けていると、ヒアンシーの見ている前で彼の傷が瞬く間に消え去った。
「こういうことだ。俺に治療は必要ない」
「ここまで見たのに、治療を強要はできませんね。ですが、私に何か出来ることがあればなんでもお聞かせくださいね」
「同じ黄金裔として、俺も同じ心持ちだ。これからよろしく」
「はい、よろしくお願いしますね!ゼノたん!」
「ゼノ……たん?」
「あ、嫌でしたか……?」
「いや、珍しい呼ばれ方をしたなと思っただけだ」
それじゃあ、と言って踵を返したゼノスの背を見てヒアンシーは彼を呼び止めた。
「そのお背中に刺さった矢は……、抜かなくて良いんですか?」
それからしばらく経って……
(ゼノスさんが医務室にいるなんて、珍しいですね)
キャストリスは彼がヒアンシーの世話になってると聞き、見舞いへと訪れていた。
「…ゼノスさん、いますか?」
「あっ、キャスたん、いいところに!手伝ってください!」
「……なにを、ですか?」
「これを抜いてあげたいのですが、中々おっきくて……んんっ!」
突然聞こえた力むような声と、中から聞こえてくる息遣いにキャストリスの体が強張る。
「な、なにをしているんですか!?」
「さっき言った通りなんですけど、抜いてあげるのが大変で!」
キャストリスが中へ駆け込むと、そこには椅子に座ったゼノスと、その背中に刺さった矢を引っ張るヒアンシーの姿があった。
「……えっ?」
「ゼノたんの背中に矢が食い込んじゃってて……」
「な、何か手伝えることは──」
ゼノスの脅威的な再生能力は、矢が刺さったまま傷口を塞いでしまったらしく、想定とは別の意味で大変な状態のゼノスにキャストリスは困惑気味に手伝いを申し出た。
「キャスたん、そこにロープがありますから、矢に結んで引っ張ってください」
「は、はい!」
結局、二人の努力の甲斐もあって矢は抜けた。
「……次からは、傷が塞がる前に抜いてくださいね」
「私のところに来てくだされば、何度でも抜きますよ!」
「それなら、毎回世話になりそうだ」
「だ、ダメです!……ヒアンシー様は忙しいですから、私がやります」
キャストリスは咄嗟に少し大きめの声を出してしまった自分に驚きつつも、恥ずかしくなってゼノスを半ば引きずりながら臨時の医務室を離れた。