欧州の排外主義から見る参政党 研究者が注目した「防衛」という発想

聞き手 編集委員・塩倉裕

 参院選で躍進した参政党の政策は排外主義なのか、議論になっている。欧州と日本の排外主義の実態に詳しい社会学者の樋口直人さんはどう見るのか――。「ポイントは外国人を脅威とみなすかどうかだ」と樋口さんは語り始めた。どういうことか。

排外主義とは何か

 ――そもそも、排外主義とは何でしょう。

 「排外主義とは、外国から来る人やものを自国にとっての脅威であるとみなす考え方のことです」

 ――参院選で躍進した参政党の政策に、排外主義的だとの批判が寄せられていますが、神谷宗幣代表は否定しています。参政党の政策は排外主義でしょうか。

 「何をもって排外主義とするかという定義には、世界の研究者の間でも一定の幅がありますが、参政党の主張は、研究で使われているいかなる定義に照らしても排外主義としか言いようがありません」

 ――具体的には?

 「参政党のホームページで政策を見ると、『日本国内への外国からの静かなる浸透(サイレント・インベージョン)を止める』との目標を掲げたうえで、『外国人の受入れ数に制限をかける』『帰化及び永住権の要件の厳格化』などの施策を列挙しています」

 「『日本人ファースト』というキャッチフレーズも、二つの意味で排外主義的です。日本人ではない人々が優先されているとのイメージを喚起することで『優遇される外国人』という脅威を実質的に作り出していることと、日本人を優先することによって外国人への差別的待遇を正当化していることです」

 「反移民の性格を明確に打ち出した、排外主義という言葉のあてはまる政治勢力が日本に現れ、選挙戦でそれを主要な争点として掲げながら存在感を示した。日本では初めてのことだと言っていいと思います」

参政党の政策の「新しさ」とは

 ――これまでにも日本には様々な排外主義運動がありましたが、参政党の持つ新しさのうちで樋口さんが注目する点はどこですか。

 「『外国文化や価値観の強要を禁ずる』という政策を打ち出している点です。欧州の極右政党のレトリックに似てきたという意味での『先進性』がうかがえます。ポイントは、日本の外国人政策に『防衛』という発想が持ち込まれたことです」

 「これまでの日本の外国人政策は、権利を認めず放置しておけば結果として日本国籍への同化が進むだろうと期待する『放置』志向の保守と、『共生』志向のリベラルの二本柱が基本でした。そこへ参政党が『防衛』を持ち込んだ形です」

 「侵略や侵入の意味も持つインベージョンという言葉まで掲げながら、外国人の脅威に対応しなければ社会を防衛できないと訴えている。欧州の極右政党の間で広がった脅威のレトリックを、日本でも公の政党が体系的政策として整理するに至った。予想より早く時計の針が進んだ感があります」

欧州で広がる「洗練」されたレトリック

 ――欧州ではどのような形で防衛のレトリックが使われているのでしょう。

 「『外国文化や価値観の強要を禁ずる』というレトリックは、欧州極右の研究者には聞きなじみのあるものです。たとえばフランスの極右は『私たちは多文化主義は大事だと思う』と言ったうえで『アラブ系の移民の人々の文化は大事だが、フランスの文化も大事だ』との話法を使います」

 「『わざわざフランスに来てあなたたちの文化を広める必要はないから、あなたたちの国に帰ってその文化を大事にしてください。私たちもフランスの文化を大事にしますから』という一見ソフトにも聞こえる言い方で、排外主義を実現しようとするのです」

 「そのような、ある意味では『洗練された』とも言えるレトリックが今回、日本に本格的に持ち込まれた。参政党自体が今後どうなっていくかということとは別に、もっと警戒感を働かせた方がいいと思います」

過去の日本の排外運動との違い

 ――日本の過去の排外主義勢力と参政党との違いは、どこにあるのでしょう。

 「日本で排外主義が注目された例としては、2010年代に社会問題化した『在日特権を許さない市民の会』(在特会)があります。在日コリアンの人たちが不当な特権を得ていると訴えかける運動でした」

 「参政党の特徴は、在日コリアンを主対象とするのではなく、ニューカマーを含めた『外国人』と呼ばれる人たち一般を対象としていることです。両者の違いが何に由来するか、今の段階では確たることは言えませんが、推測として浮かぶのは『出自の違い』です」

 「日本の右派が、東アジア諸国との国際関係の中で1990年代以降に歴史修正主義へ傾いていく。その過程で右派の一変種として登場したのが、在日コリアンへの排外主義運動でした」

 「他方、参政党はそこを出発点とはしておらず、反ワクチンや陰謀論などをルーツにしているとみられます。欧州では実はそれらに由来する政治運動が大きな勢力になっているのですが、そうした『他の国々で見られるもの』を根っこにしているところが、これまでの排外主義勢力と異なる点だと思います」

「極右」を使うべきなのか

 ――樋口さんは「極右」という言葉を使っておられますが、日本には、極右を使うのは負のレッテル貼りになるからやめた方がいいとの意見もあります。

 「私は使った方がいいと考えます。政策の分析をしたり社会的に対策を講じたりしていくためには、現象を正確な用語で記述する作業がまず必要だからです」

 「極右は単なるレッテルではなく、社会科学的に確立された、十分な強度を持つ概念です。極右とは、様々な争点について主流の保守よりも強硬な右の立場をとる政治勢力のこと。具体的な主張は様々ですが、現代の欧州の極右政党に見られる共通項は、ナショナリズムと排外主義です」

 「欧州で極右という言葉が使われる際には『民主主義にとっての脅威だ』との含意もあります。排外主義は抑制された方がよいものであり、だからこそ参政党の神谷代表も自分たちが排外主義政党ではないと訴えざるを得ない。支持者たちをまるごと極右と断定するような言い方がよいかは別としても、政策や運動を吟味する文脈では、警鐘を鳴らすためにも使った方がいい」

「生きづらさや閉塞感が背景」には注意を

 ――なぜ排外主義が広がっているのかという背景にも関心が高まっています。

 「排外主義が広がる背景には人々の生きづらさや閉塞(へいそく)感がある、という議論には注意が必要です。欧州各国で極右への支持がいつ伸びたかを調べた大規模な実証調査では、伸びたのは経済的な不況時ではなかったなどとする結果も出ているからです。ネットへの接触度合いの違いが支持に影響していないかどうかなども含め、幅広く調査を積み重ねていくべきです」

 ――参政党が今後さらに伸びていくのかどうかにも注目が集まっています。

 「それを予想することは困難です。まず、今回は勝ち過ぎだったのであって今後の選挙でも同じように勝利の条件がそろい続けるとは限らない、との見方を持っておくことは必要でしょう。他方で、欧州の極右政党と比べて当初から組織作りにまじめに取り組んできたとみられる点では、伸びる余地も見えます」

 「勝ち馬に乗ろうとする地方議員が今後各地に現れ、それが組織のさらなる強化につながっていく可能性はあるでしょう」

 ――反移民の言説が広がったことで、欧州の社会はどう変わったのでしょう。

 「西欧の極右研究から見えてくるのは、反移民の言説が実際の移民抑制にはつながらず、移民へのネガティブな印象だけが残っていく傾向です。労働力への需要から現実に流入し続ける移民を、ただ社会的に周縁化するだけの結果になってしまっているのです」

 ――排外主義の台頭という現象に、どう向き合えばよいのでしょうか。

 「様々な研究に見られる通り、日本ではまだ市民の反移民感情が他国と比べて高いわけではありません。『まだ本格的に始まっていない』段階での排外主義の台頭を、今後に向けた練習の機会にしていく。そんな意識で取り組むべきでしょう」

樋口直人さん

 ひぐち・なおと 1969年生まれ。早稲田大学教授。専門は移民研究。日本や欧州などでの排外主義の問題に詳しい。著書に「日本型排外主義」など。

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この記事を書いた人
塩倉裕
編集委員|論壇・オピニオン担当
専門・関心分野
論壇、オピニオン、調査報道
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    安田菜津紀
    (フォトジャーナリスト・D4P副代表)
    2025年9月3日11時34分 投稿
    【視点】

    参院選の際、英フィナンシャル・タイムズ紙が参政党を「極右」と表現したことが日本で「ニュース」になりましたが、日本のメディアでその言葉が避けられていた、ということでもあるでしょう。しかし樋口さんが指摘するように、実態を的確に表現するために、そして排外主義が民主主義の脅威であることが明確になるよう、言葉を選んでいかなければならないはずです。 排外主義の広がりの理由が生活苦と結びつけられることが多くありますが、たとえば『ネット右翼とは何か』(青弓社 2019年)で共著者の永吉希久子さんが、調査を元に下記のように指摘しています。 「雇用形態との関連はネット右翼=社会経済的地位の低い人という見方とは一致せず、ネット右翼やオンライン排外主義者の割合は非正規雇用層では低く、経営者・自営業者や正規雇用で高い傾向にあった」 「ネット右翼やオンライン排外主義者は客観的に社会経済的地位が低いわけではないが、主観的には自分を低く位置づけている可能性がある」 新聞紙面では、参政党の支持者が物価高による生活苦と外国人排斥の主張をセットで語る「街の声」が紹介されることがありますが、こうした「実感」だけではなく、実態を踏まえた伝え方が不可欠でしょう。

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    木下ちがや
    (政治社会学者)
    2025年9月3日22時47分 投稿
    【解説】

    わが先輩樋口さんのインタビューのなかで、その主張がはっきりとでているのはこの個所である。 「排外主義が広がる背景には人々の生きづらさや閉塞(へいそく)感がある、という議論には注意が必要です。欧州各国で極右への支持がいつ伸びたかを調べた大規模な実証調査では、伸びたのは経済的な不況時ではなかったなどとする結果も出ているからです。ネットへの接触度合いの違いが支持に影響していないかどうかなども含め、幅広く調査を積み重ねていくべきです」  樋口さんは、日本の排外主義について、欧州のように移民が増大することの構造的な反動ではなく、政治的に構築されていると論じてきた。「生きづらさ」「閉塞」が排外主義と短絡的に結び付けられがちだが、「日本ではまだ市民の反移民感情が他国と比べて高いわけ」ではなく、『まだ本格的に始まっていない』からだ。参政党は在日コリアンに対する排外主義運動とは別回路であり、「欧米の流行りを取り入れる」という実にアリガチな日本政治のパターンを踏襲している。  このことは、参政党に対して穏健保守やリベラルが政治的に競い合うことで勝ち抜けるという展望を示している。排外主義については、この樋口フレームを踏まえることが今後とても大切になってくると思う。

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