僕は給食会社の営業部長だ。唐突だが病院は給食会社の営業対象だ。病院の給食というと、患者給食のイメージが強いが、病院内のレストランと売店(コンビニ)も営業対象である。そして、病院の売店(コンビニ)は、給食以外の業種、たとえばコンビニチェーンの法人担当営業も狙っている。
病院内レストランの選定コンペでは、レストランと売店(コンビニ)を合わせての運営が条件になることが多い。コンビニチェーンは、病院レストランの運営ノウハウを持っていないため、ウチのような給食会社に協力を求めてくることがある。売店(コンビニ)部分の商品とノウハウを提供し、運営を給食会社に任せるという形だ。給食会社からみれば、コンビニチェーンのノウハウと知名度を利用して運営ができる。協力するメリットはあるのだ。
先日、大手コンビニチェーンの法人担当営業がやってきた。隣県(S県)にある某病院内レストラン案件を紹介された。仕様を確認すると、レストランと売店(コンビニ)の運営がセットになっていた。大手コンビニチェーン担当者は、コンペに参加したいが残念ながら当社ではレストラン運営ができない、コンビニ部分のサポートはバッチリやるので協力してエントリーしませんかと申し入れてきた。レストランと売店(コンビニ)を運営するのは当社になる。大手コンビニチェーンはノウハウと商品を提供するフランチャイズ的な形で運営に参加する形になる。
病院内レストランの運営は厳しい。一般的に病院側からの補助金がないため、単価は高くなり、病院外の外食との競争に負けて売上が伸びない。ほぼ年中無休で営業時間は昼から夕方までと長いため、労務費がかかり、人材の確保に苦労する。患者給食を受託して、そちらで収益を確保しなければ運営するのが厳しいケースが多いのだ。僕が勤めている会社も数年前まで病院レストランを受託していたが、収益が悪くて撤退している。だから、今回の案件にも飛びつかず「検討させてください」と保留した。
二日後、コンビニチェーンの法人担当者から連絡があった。仕様と現地調査をふまえて試算をしたら、コンビニ部分は赤字確定だと言う。「良かった。この話はなくなる」と安堵していたらコンビニ担当者は信じられないことを言った。「コンビニ部分の赤字をカバーするようレストランの方で頑張るしかないですね」。ちょっと待て。病院内レストラン運営は厳しいという話をしたよね?忘れちゃった?
それに赤字確定コンビニを運営するのは当社である。コンビニチェーンは看板とノウハウを貸すだけで、売り上げは確実に上がるので痛みはない。痛むのは当社だけだ。コンビニチェーン担当者は「赤字といっても額は小さいですから企業努力でレストランの売上を伸ばせば大丈夫ですよ」と言った。「企業努力」を他者に押し付けるなよ。そもそも病院レストランは収益を出しにくいと再三説明しているのに、スタート地点からマイナスでは話にならない。コンビニチェーンは名前とノウハウを貸して、痛みを負わず、確実に売上と利益をあげられる(額は少ないかもだが)。フランチャイズ制度は、多くのリスクを現場に負担させ、本体が収益を上げていくディフェンス能力最強のスタイルだ。
コンビニチェーンの法人担当者は病院レストランのノウハウがないと嘆いていたが、グループ内で外食レストランを持っているのだから出来ないことはない。おかしい。断るしかない。「どうしますか」と聞かれたので、コンビニ部分の赤字補填とコンビニ部分のスタッフ派遣をしてもらえれば検討してもいいと回答した。「無理ですね。そういうモデルはないので」とあっさり断られた。他者に企業努力を求めるなら、己も企業努力をしろよ。なぜベストを尽くさないのか。
暗算でざっくり試算してみた。年中無休/平日200食・土日50食/営業時間11時から18時/客単価1000円として、売上額は(平日)200,000円 × 20日間= 4,000,000円、(土日)50,000円× 10日間= 500,000円 合計450万円(月)。
経費 労務費 調理師社員3人体制300,000円× 3人 = 900,000円、法定福利入れて大体1,400,000円。パートスタッフが時給1200円として、1200円×8時間× 5人× 30日= 1,440,000円で法定福利費等を足してだいたい1,720,000円。合計312万円(月)。
食材費は販売価格の35パーセントとして1,575,000円 その他諸経費で200,000円(光熱費は病院負担)、テナント料を病院と交渉して0円として経費合計177万円(月)。労務費312万円、経費177万円を足すと489万円。月売上が450万なので月に39万円の赤字が見込まれた。おめでとうございます!
労務費や経費を削減しても黒字化は難しい。ここにコンビニ部分の赤字が最初から見込まれるのだ。絶対無理。契約したら地獄が待っている。この概算を法人担当者に伝えると、「有名な病院なので、お互いにそこから事業展開できる可能性はありますよ。投資案件と思ってやりませんか」と言ってくる。しぶとい。あのさー。「投資というかリスクを負担するのは当社だけなんですど不公平すぎませんか」と文句を言って商談は終了。
コンビニチェーンが伸びているのは、リスクを他者に押し付けて徹底的においしいところを取っているからなのである。「病院レストランは利益でないんですよねー」と担当者は笑っていたので僕の疑念は確信に変わった。コンビニチェーンが病院内レストランのノウハウを持たないのは戦略だ。なぜなら儲からないから。おいしいところばかり取ってムカつくけど、採算の取れないビジネスはやらずに、利益を追い求めるという姿勢は給食会社も見習うべきだ。あと、商談で「企業努力」「投資案件」というワードが出てきたらだいたい地獄。以上。(所要時間30分)給食営業マンが書籍になります。9月18日発売です。