『マリオカート ワールド』が発売当初に思ったよりもずっと革新的な作品である理由

フリーランは本当に「巨大なロビー」にすぎないのか?

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『マリオカート ワールド』が Switch2のローンチタイトルとしてリリースされてから早3カ月。リリース当初の評価は、賛否両論に見えた。しかし筆者の周囲では、「マリカワールド最高すぎ」、「どんどん面白くなってきた」、「もう『8』には戻れない」といった意見が増えてきているように思える。

「マリオカート8」のファンを自認していた筆者も、序盤こそ本作の魅力を掴みきれなかったが、プレイ時間が50時間を越えるころ、自己内評価がすっかり反転しているのを感じた。本作は幼少期に夢見た「理想のゲーム」の顕現かもしれない。このコラムではその理由について考察してみたい。

フリーランは「世界の統合」を支える

『マリオカート ワールド』をプレイしていると、「レースをしている」という感覚が少しずつ薄れていく。その代わりに立ち上がってくるのは、任天堂ならではのオープンワールドの思想に包まれた新しいマリオカート体験だ。


一般的にオープンワールドは、マップの広さやシームレスな移動によって語られる。しかし本作で任天堂が提案しているオープンワールドは、コース外側に広がる世界・外縁、風景に溶け込んだギミック(壁やレール)がプレイヤーの「移動を拡張する」設計であり、それらが遊びにおけるプレイヤー主体の自由なプレイフィール、ゲームのルールや競技性を包みこむような新しい解放感をもたらしているように思う。そして、そんな解放感を下支えしているのが「フリーラン」なのではないだろうか。

本作がリリースしたとき、フリーランへの評価は割れた。確かにゆったりとした移動やコイン収集、Pスイッチによるシンプルなミニゲームといった要素は、これまで「マリオカート」の売りであった賑やかで派手なレースと比べれば地味で、即時的な快感も薄い。


しかしこの「薄さ」が積み重なることで、「世界の一部としてのコースを身体化する」という、これまでの「マリオカート」にはなかった体験を生み出す。巨大な世界を自分のペースで走り回れる時間と空間が生まれたからこそ、レースやサバイバルモードでの舞台が「単なるコース」ではなく、「世界の一部」として存在することを、プレイヤーは能動的に実感できる。

フリーランで感じた空間感覚は、レースやサバイバルに挑むときも武器になる。「ここは前に寄り道で通ったから知っている」、「このコースとあのコースは繋がっているんだ」といった発見が、本作のレースを連続したロード・トリップに変える。あてどないドライブ・撮影・ショートカットの予習——フリーランでの体験すべてが、『マリオカート ワールド』全体への知見に繋がっていく。もしフリーランが存在しなかったら、本作はコース間がシームレスに繋がっただけのマリオカートに留まっていただろう。

フリーランに感じられる「淡さ」は、本作のBGMにもしっかりと息づいているように思う。最初こそ「マリオカート8」のように口ずさめる主旋律が減り、音量もBPMも抑えめに感じられて物足りなさを覚えた。しかし、今作でのジャジーで薄いレイヤーの楽曲は風景に溶け込み、移動中の「呼吸」を生成していく。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が環境音(アンビエント)化して世界の解像度を上げたように、本作の比較的低音でスローなBGMは、広大な『マリオカート ワールド』における「ちっぽけで自由な存在」という体験の通奏低音となっているように思う。

競技性の新たな進化——「サバイバル」という新たな戦場

そして「競技レースとしてのマリオカート」も大きく変化・進化していることも見逃せない。

本作で初登場した「サバイバル」はマリオカート史上、最も白熱する舞台を提供している。24人+ノックアウト形式になったバトルロイヤル的なこのモードは、本作における競技性の受け皿となっているばかりか、「マリオカート」のオンラインレースにおけるひとつの到達点でもあると感じる(実際、トップ4に残ってからの緊張感・中毒性は過去レースの中でも群を抜いている)。「最後まで生き残る」が勝利条件となったことで、立ち回りや心理戦にこれまでとは異なる、新しい戦場を生み出した「サバイバル」のあまりの面白さによるものだろう。通常の「レース」が、現在のところ明らかに過疎状態であることは象徴的だ。

新アクション「チャージジャンプ」が生む拡張性

さらに注目したいのは、本作で追加されたアクション「チャージジャンプ」。この一見些細なアクションこそ、ウォールラン(壁走行)、ノーアイテムショートカット(アイテムを使わないショートカット)、レール走行(細い手すりを走るテクニック)といった、トリッキーなアクションを媒介にしてコースを拡張する、本作を象徴するアクションである。

チャージジャンプを意識することで、本作のプレイフィールは激変する。思いも寄らない場所に進入角の導線があり、走れるとは思っていなかったレールや壁がコースとなる。
初代『スーパーマリオカート』から「マリオカート8」までのコースが「線」だとすれば、本作のコースが「面」、「網」となったことが、チャージジャンプによって体感できる。あまり使っていないプレイヤーは、フリーランやタイムアタックで、あらゆる場所をチャージジャンプで積極的に開拓してみてほしい。その経験はレースやタイムアタックでも必ず活きてくるはずだ。ただ、チャージジャンプはドリフトと同じ操作であるため、誤発を避けるため、慣れないうちは使用に対して消極的になってしまうのが少し痛いが……。

『マリオカートワールド』が果たした変革とは

本作に物足りなさを感じていたプレイヤーも、フリーランとサバイバルモードを繰り返しプレイしているうちに、気付くはずだ。「8」からの減速感、フリーランに感じた退屈さ、BGMの地味さといった、プレイをはじめてまもない頃には違和感としか思えなかった要素が、ことごとく美点へと反転していることに。本作の主役が、レースではなく、広大で立体的な『マリオカート ワールド』を移動することそのものとなったことに。

「フォームの外側まで拡張したゲーム」の最新形——それが『マリオカート ワールド』である。SFCでの登場以降長らく「線的な進化」を重ねてきた「マリオカート」は、本作でついに大きな飛躍——『スーパーマリオ64』や『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に並ぶような世代交代級の進化——を遂げたように思う。
リリース時は「巨大なロビー」と揶揄されたフリーラン、新アクション「チャージジャンプ」でマリオカートの世界を統合・拡張し、スリリングなレース性を「サバイバル」へと見事に昇華させた本作は、現時点におけるマリオカート最高傑作であるだろう。

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マリオカート ワールド

Nintendo Entertainment Analysis & Development 2025年6月5日
  • Platform / Topic
  • Nintendo Switch 2
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