(時時刻刻)孤立、退陣時期示さず 辞任ドミノ、「あなたもか」うめく
自民党四役全員が参院選大敗の責任を取って辞任の意向を石破茂首相(党総裁)に伝えたことで、唯一続投の意向を示した首相は孤立状態へと陥った。首相は事実上のリコールにあたる総裁選の前倒しを阻止しようと躍起だが、勢いに乗る「石破おろし」の動きは党内に広がりつつある。▼1面参照
両院議員総会の終盤、森山裕幹事長が居並ぶ議員らを前にこう宣言した。「幹事長の職を退任させて頂きたい。進退は任命権者である石破総裁にお預けする」
総会後、鈴木俊一総務会長も「幹事長だけではなく、我々にも責任があります」と首相に辞意を伝えた。小野寺五典政調会長、木原誠二選挙対策委員長も相次いで辞表を提出。党四役の一人によると、首相は「あなたもか」とうめき、いずれも進退を預かったという。
「森山氏が辞任を表明したら、もちろん慰留する」。首相は周囲にこんな決意を語っていた。森山氏は首相を全面的に支えてきた政権の屋台骨だ。政権幹部によると、首相は8月31日夜、衆院議員宿舎で森山氏と会談。森山氏の慰留に努めたという。
だが、首相が最も恐れていた党幹部が相次いで辞意を表明する「辞任ドミノ」まで起きた。ただでさえ党内基盤が弱い首相が、退陣要求を突きつけられる中で後任人事をやり遂げるのは至難の業で、政権運営が行き詰まるリスクは高まった。
首相は森山氏ら党四役の進退を預かったが、辞意表明の事実は重い。続投を表明した首相の孤立が浮き彫りになった。
首相が今回の総会前に立てた作戦は、総裁選前倒しに向けて必要な過半数の要求を集める動きを弱めることにあった。首相は冒頭、参院選大敗について「ひとえに私の責任」と初めて自身の責任に言及し、深く頭を下げた。「地位に恋々とするものでは全くない」と語ったうえで、「責任から逃れず、しかるべきときにきちんとした決断をする」と強調した。将来的な退陣の可能性を示唆することで、まだ様子見の多数の議員たちの理解を得ようとした。
ただ、政権のレームダック(死に体)化を避けるため、具体的な退陣時期を示さないことは絶対的防衛ラインでもあった。首相は総会で「やらねばならないこと」として、物価上昇を上回る賃金上昇、コメ増産を含む農政、防衛力強化など長期的な課題を列挙。「自民党としての道筋を示す。それが私の責任だ」と語り、続投に強い意欲を示した。総会後、記者団から「しかるべきとき」がいつかを問われても、「それはしかるべき時期」と明言を避けた。
それでも首相は周囲に「過半数に届くか届かないか、読めない」と悩みを漏らす。首相や周辺には局面打開のために衆院解散・総選挙に打って出る案が浮上。首相の腹心は中堅議員らに「郵政解散の時に雰囲気が似ているから気を付けた方が良い」と牽制(けんせい)するが、実際は「大義がない」(首相周辺)と実現は厳しい情勢だ。官邸内では今回の総会で首相が危機を乗り切ったと見る向きはなく、むしろ「一気に総裁選前倒しに雪崩を打つかもしれない」(幹部)と危惧する声が強まる。(森岡航平、田嶋慶彦、小木雄太)
■勢いづく「総裁選前倒し」
参院選の総括をまとめた両院議員総会は、2時間の予定を1時間ほど超過し、35人が発言した。
出席議員によると、閣僚経験者の一人は「総理の冒頭発言に違和感を覚える。総裁としての責任のあり方を再考してほしい」と述べて、退く時期を示さない首相に不満をぶつけた。
有村治子両院議員総会長は「続投をすべきだという人と、けじめをつけるべきだという意見があった」と紹介した。だが首相の退陣を求めている青山繁晴参院議員は記者団に「やめるべきではないという声は2、3人しかいない。あとは、やめるべきだという意見だった」と述べた。
自ら退く姿勢を一切見せない首相に対し、反発する議員は、8日に決まる総裁選前倒しの行方を見据えて動き始めた。
総会で参院選の総括が了承されたことを受け、党総裁選管理委員会は総裁選前倒しの賛否を問う意思確認の手続きを開始した。前倒しを求める議員は8日に、署名・押印した書面を党に提出することになる。党則に基づき、党所属国会議員と都道府県連代表の過半数(172人)が求めれば、党内からの事実上の「不信任」となる臨時の総裁選の実施が決まる。
「ポスト石破」候補は前倒しを求めていく構えだ。高市早苗前経済安全保障相は総会後、記者団から書面を提出するかを問われ「意思表示はさせていただく」と明言。2日夜には、昨年の総裁選で高市氏を支持した議員約10人と都内で会合を開いた。小林鷹之元経済安保相も「署名をさせていただく」と述べた。
前倒しを求める声は、政府内からも上がる。
総会では出席議員の一人が、閣僚ら政務三役が前倒しを求める場合に「辞任する必要があるのか」と質問。首相は「自由に意思表明をしていただいて結構だ」と答えたという。総会後、小林史明環境副大臣は記者団に「総裁選の前倒しが必要だ」と述べ、書面を提出する考えを示した。
森山氏ら党四役が一斉に辞意を表明したことを受けて、ベテラン議員は「流れは一気にできる」と強調。総裁選の前倒しを求める「石破おろし」が加速すると指摘した。
総会後には、当選期数別の会合が相次いで開かれた。2012年に初当選した5期の衆院議員約30人は、国会内に集まり、旧派閥単位で働きかけていくことを議論した。参加者の一人は「危機感を持って集まっている。みんな(前倒しの)署名をするだろう」と述べた。(高橋杏璃、宮脇稜平)
■派閥裏金・少数与党・失言…敗因総括
自民党が取りまとめた参院選総括では、敗因について「一言で言えば、『国民に寄り添い、暮らしの安心を確実に届けることができなかった』ことだ」「国民との意識の乖離(かいり)を起こしてしまった」と分析した。首相ら執行部の責任への言及は一切なく、「解党的出直し」のための具体策も乏しい内容にとどまった。
石破首相は総括について「虚心坦懐(きょしんたんかい)によく読んで、これからの糧にしていかなければならない」と語った。
総括では「自民党離れ」を招いた九つの要因のうち第1、2項目に、苦しい生活を送る国民の閉塞(へいそく)感や不安に応えられなかったことを挙げた。物価高対策として自民は現金給付を、野党各党は消費税などの減税を訴えたことに触れ、「野党の分かりやすい主張に対し、十分に対抗できなかった」「論戦で防戦に回ってしまった点は痛恨だ」と振り返った。
第3項目は派閥の裏金問題で、「自民党に対する不信の底流となっていることを厳しく自覚し、猛省をしなければならない」と記した。しかし、政治資金パーティー収入の議員への還流の開始・再開をめぐる実態解明や、先送りしている企業・団体献金の見直しの具体策は示さなかった。内閣支持率低下につながった首相自身の商品券配布問題への言及もなかった。
また、鶴保庸介参院議員の「運のいいことに能登で地震があった」との問題発言を「決定的な打撃」と位置づけ、「優勢であった多数の1人区が劣勢となり、苦戦ムードがさらに高まる結果となった」と分析した。
参政党や国民民主党の伸長にも言及。「国民の鬱積(うっせき)した閉塞感に対して、既存政党は十分な解決策を提示できなかった」とし、「わが党への期待は失望へ、さらには拒否・忌避へと悪化」したと指摘。「日本人ファースト」を訴えた参政や、「手取りを増やす」を掲げた国民民主が有権者の関心を引きつけ、「批判票の受け皿となった」との見方を示した。
敗因分析での主語は「わが党」「我々」との言い回しがちりばめられ、責任の所在はあいまいなままだ。
衆参で少数与党となった自民は、多党化のなかで厳しい政権運営を迫られる。党の再生に向けた取り組みとしては「SNS発信をサポートする体制の検討」「国民が直感的に理解できるキャッチフレーズ」などの運動論が目立つ。「新たな時代に相応(ふさわ)しい国家ビジョン」の策定加速を掲げるが、国民の信頼回復や暮らしの安心につながる具体的な政策には踏み込んでいない。(安倍龍太郎)
■参院選総括(骨子)
【敗因】
◆内閣支持率低迷で党の基礎体力が低下
◆物価高対策、争点も不発
◆「政治とカネ」で信頼を喪失
◆少数与党で独自性を示せず
◆選挙中の不用意な発言で劣勢に
◆若年層、現役世代と保守層の支持離れ
◆閉塞(へいそく)感を持つ国民にビジョンを示せず
◆発信力が弱く、デジタル対応で遅れ
【党再生の誓い】
◆解党的出直しで、真の国民政党に
「デジタル版を試してみたい!」
というお客様にまずは1カ月間無料体験
注目ニュースが1分でわかる
ニュースの要点へトップニュース
トップページへ戻るピックアップ
今年のサンマ、太って立派 でも10月以降は……「早めがおすすめ」
サイズも装備も“ちょうどいい”コンパクトバンコン
&M〈新連載〉「大人の有機ラムレーズン」誕生秘話
&wあなたは整理型?スマホのホーム画面、30人分見比べ気づいた多様性 「市松模様」配置にも理由があった
Re:Ron万博で人気「現代サーカス」の魅力とは
&TRAVEL「奇跡の1本」20年後も国境超えて 映画「リンダ リンダ リンダ」4K修復上映、米・韓でも
嬉しかった心遣い 永瀬正敏が撮ったマレーシア
&TRAVEL入院が転機!インド食文化通・小林真樹さんの素顔
&M最高品質EXダウン×防水透湿ジャケット
アエラスタイルマガジンめんたい、だし巻き卵……小倉を盛り上げる演出力
&w