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ネクストパンデミックに備えて コロナワクチンとデータ検証

※2025年8月29日「ザ・ライフ」にて放送
  • 2025年9月2日

8月29日(金)午後7時30分~ 【NHK総合・九州沖縄】 放送
いまネクストパンデミックに備えて、さまざまな取り組みが始まる中、約4億3千万回接種された新型コロナワクチンの検証を求める動きが広がっている。市民の間では、ワクチンの安全性を確かめようと全国1700のうち400の自治体に対して、接種データの開示請求が相次ぐ。自治体が管理する接種回数、死亡日などの記録から、何が見えてくるのか。一方、国の対応は…検証には何が必要なのか、専門家らと分析する。

番組HPはこちら(放送後2週間 NHKプラスで見逃し配信)

自治体が保管する130万人のワクチン接種歴を専門家と分析

今回、新型コロナワクチンの接種歴と死亡について、NHKが情報開示請求を行ったのは、人口約80万の静岡県浜松市と、人口約50万の千葉県松戸市の2つの自治体です。
浜松市からは、一度も接種していない人を含めた全市民について、個人が特定されないように匿名化したうえで、一人一人のワクチン接種歴と死亡に関するデータが開示されました。具体的には、名前や住所の代わりに1人ずつ個人の識別番号が付与され、その人の性別と、年齢の情報については生年月日の代わりに、20歳~24歳、65歳~69歳といった5年ごとの年齢階級のデータが示されていました。ワクチンの接種歴については、接種した回数ごとの日付、そのワクチンを製造した製薬会社、製造番号、さらに、死亡した人については死亡した日付のデータが開示され、接種場所や死因については開示の対象にはなっていませんでした。
松戸市にも全市民のワクチン接種歴と死亡についてのデータの開示を求めたところ、浜松市と同じ項目のデータが開示されました。データの集計と分析は、医療経済学が専門の東京大学大学院経済学研究科の岩本康志教授らに依頼しました。

【分析を依頼した専門家】
岩本康志(いわもと・やすし)さん                               
東京大学大学院経済学研究科 教授
専門は、公共経済学、マクロ経済学。統計分析を用いるなどして財政政策の課題を研究。
日本学術会議会員、国立国会図書館専門調査員、日本経済学会理事、日本財政学会常任理事、医療経済学会理事、同会長などを歴任。

堀内有加里(ほりうち・ゆかり)さん                              
博士(臨床薬学)
東京理科大学薬学部客員研究員
専門は薬剤疫学、医薬品情報学。市販後の医薬品の有効性・安全性について調査・研究。 

〈分析結果の検証〉
掛谷英紀(かけや・ひでき)さん                               
筑波大学システム情報系 准教授
専門はメディア工学。三次元画像工学、人工知能、バイオ情報学などを研究。情報処理学会、日本リスク学会、日本ウイルス学会会員

観察期間は、医療従事者向けの先行接種が始まった2021年2月から、ワクチン接種の努力義務がなくなる2024年3月までの、およそ3年間です。なお、死亡率の計算には、人年法を用いています。

番組で解説したデータについて

➀非接種群と接種群で死亡率を比較
1度もワクチンを接種していない「非接種群」は、25万3千人。
1度でもワクチンを接種した「接種群」は、105万8千人です。
まず、それぞれの死亡率(10万人年当たりの死亡数)を集計しました。すると、「ワクチンを接種した人の方が、接種していない人よりも死亡率が高い」という結果になりました(図1)。
グラフの棒の上部にある黒い線は、誤差の範囲(95%信頼区間)を表しています。

(図1)
分析 東京大学大学院経済学研究科 岩本康志教授 臨床薬学 堀内有加里博士

死因に関する情報は、浜松市、松戸市のいずれからも開示されていないため、新型コロナウイルス感染症だけでなく、がんや心臓病などを含め、約3年の観察期間に亡くなったすべての人数を集計しています。
これだけを見ると、ワクチンが何らかの健康被害をもたらし、死亡率を引き上げたようにも見えます。
しかし、統計結果からワクチンの影響を調べるには、比較するグループ同士で条件を揃える必要があります。接種群と非接種群で死亡率に差が出たとしても、その原因がワクチン以外のものである可能性があるためです。特に今回のワクチンは、より高齢者に接種が推奨されましたから、接種した人のグループは、非接種の人たちに比べて年齢が高い可能性があります。
そこで、それぞれのグループの年齢構成を調べてみました。


➁非接種群と接種群で、年齢分布を見てみる

(図2)
分析 東京大学大学院経済学研究科 岩本康志教授 臨床薬学 堀内有加里博士

非接種群と接種群で、年齢構成が異なることがわかります(図2)。非接種群では全体の7割以上が49歳までの比較的若い人たちであるのに対し、接種群は50歳以上が半分以上を占め、70歳以上の高齢者も3割近く含まれています。観察期間の3年のうちに死亡する確率は、若者と高齢者で大きく異なることを考えると、接種群の死亡率の方が高くなっている背景に、年齢構成の違いが関係している可能性は十分にあります。
そこで、年齢による影響をなくすため、10歳ごとの年齢階層に分け、その中で死亡率を比較しました。


➂10歳ごとの年齢階層に分けて比較してみる
10歳ごとに分けて死亡率を比較すると、ほとんどの年齢層で「ワクチン接種群の方が、死亡率が低い」という結果になりました(図3)。若年層では、誤差の範囲(95%信頼区間)を表すグラフの棒の中の黒い線が長くなっています。若い人ほど亡くなる人の数が少ないため、1人亡くなると死亡率が大きく変わり、誤差が出やすくなるのです。

(図3)
分析 東京大学大学院経済学研究科 岩本康志教授 臨床薬学 堀内有加里博士

生まれたばかりの0歳児は、もともと死亡率が高いことがわかっています。また0歳児は接種率も低いため、0歳から9歳の非接種群の死亡率を引き上げていることが考えられます。90歳以上の高齢者の場合は、接種の有無にかかわらず3年以内に亡くなる確率が高いので、ほとんど差が見られなかった可能性があります。
それ以外の年代を見てみると、10歳から19歳の年齢層を除いたほとんどの年代で接種群の死亡率の方が低く、ワクチンを打って死亡率が下がったように見えます。しかし、そう簡単にワクチンの効果と結論付けることはできません。
今回のワクチンは、比較的強い副反応が出ることがわかっていました。健康状態が非常に悪い人が、副反応を嫌い、ワクチン接種を回避した可能性も考えられます。もともと短期間のうちに死亡するリスクが高い人は接種しなかったと仮定すると、接種群には健康状態が悪い人たちが少なかったために死亡率が低く出たとも考えられます。
一方で、今回のワクチンは、基礎疾患のある人に対して接種が強く推奨されました。ですから、死亡リスクが高い人はむしろ接種群の方に多く含まれるとも考えられます。つまり、基礎疾患の有無や、疾患の重症度などを含め、ワクチンを接種するにあたって、どういう人がどんな選択をしたのかという情報に基づいて考えないと、ワクチンの影響を正確に見定めることはできないのです。
若い人の場合、亡くなる人の数が少なく、特に何度も接種している人自体が少ないために、誤差が大きくなってしまいます。そこで、20代から40代をまとめて、より詳しく分析を進めてみました。

➃20~49歳の青年・壮年層の接種と死亡率
20~49歳の青年・壮年層においては、5回以上接種で、死亡率の上昇がみられます(図4)。 

(図4)
分析 東京大学大学院経済学研究科 岩本康志教授 臨床薬学 堀内有加里博士

この年代で接種を繰り返す人は、基礎疾患がある人が多いという可能性もあり、そのため死亡率が上がっているのではないかとも考えられます。しかし、分析した専門家によると、多方面からさらに詳しく検討・解析した結果、ワクチンが原因で死亡率が上昇している可能性も否定できないということでした。
 
番組内でもお断りしていますが、今回の分析で見えてきた傾向や結果はワクチンの安全性や有用性の可否を断定するものではありません。ワクチンの接種と健康被害・死亡との医学的関連について、より詳細に分析するためには、国が全国規模の詳しい臨床データをもとに信頼性と正確性の高い解析を行える体制を整える必要があると思います。

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