〈ネットと中傷〉
兵庫県議会の丸尾牧県議(60)に辞職を強く求める運動をしていたX(旧ツイッター)のアカウント名「躍動を止めない会」氏(31)=以下、躍動氏=が、丸尾県議と7月に初めて面会し、謝罪した。
ネットで執拗(しつよう)な中傷やデマを投稿した「加害者」が自らの過ちを認め、公の場に姿を見せた。なぜ謝罪に至ったのか。(望月衣塑子)
◆兵庫県政を揺るがす騒動へ発展した抗議活動
躍動氏は当初、兵庫県の内部告発問題で批判が集まっていた斎藤元彦知事を支持していた。SNS(交流サイト)や署名サイトで「丸尾県議は議員辞職すべきだ」と訴え、市民の会を立ち上げ、抗議活動の中心となった。
「兵庫県の内部告発問題」について読む
2024年3月に、兵庫県職員へのパワハラ問題について内部告発された斎藤元彦知事が、告発したのは元西播磨県民局長(故人)だと特定し、懲戒処分などをした一連の問題。
県の第三者調査委員会は2025年3月、告発者を特定した県の対応を公益通報者保護法違反と認定した。告発文書の作成配布を懲戒処分の理由の一つとしたことも同法違反で無効と指摘。職員へのパワハラ10件も合わせて認定した。
斎藤知事はパワハラを認めたが、告発文書は「誹謗(ひぼう)中傷性の高い文書」だとし「県の対応は適切だった」「違法性については、最終的には司法の場で判断されるべきとも指摘される」と主張する。
元県民局長の私的情報が外部に漏れた問題を調べた別の第三者調査委は、知事の側近だった前総務部長が県議に漏らしたと認定し、「知事の指示があった可能性が高い」と指摘。知事は指示を否定した。
拡散されたのは「丸尾県議がアンケートに500万円もの税金を使った」「知事がスキーウエアを業者におねだりしたとの疑惑をねつ造した」などのウソの情報だ。
署名には7000人以上が名を連ね、県政を揺るがす騒動へと発展した。
だがその実態は、アンケートは百条委員会の調査費用と丸尾県議個人を混同した誤解で、知事のスキーウエアおねだり疑惑をねつ造したというのも根拠を欠いた作り話だった。
躍動氏はこう振り返る。「Xのアルゴリズムに流され、同じような投稿ばかりを見て信じてしまった」
背景には、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏ら影響力のある人物らによる扇動的な発信があった。彼らの言葉を疑うことなく受け入れ、批判を積み重ねていった。
◆直接謝ることを決意するまで
「これは間違っている」
転機は今年3月の百条委員会報告や記者会見を自ら見直したことだった。
躍動氏は「改めて確認すると、丸尾県議が不正をした事実はなかった。自分が信じてきたものは虚構だった」と気づく。
以後、署名サイトに寄せられた誤情報の訂正を求められるたびに悩み、最終的に署名活動そのものを閉鎖した。
さらに斎藤知事側の記者会見で、亡くなった方への無神経な発言を目にしたことが決定打になった。
「斎藤知事こそがおかしい」
立場を逆転させた躍動氏は、SNS上で謝罪の言葉を投稿し、丸尾県議への直接の謝罪を決意した。
◆「攻撃」は想定していたが
謝罪の書き込みを行った直後から、かつての仲間から「裏切り者」との集中砲火を浴びるようになった。
想定していたとはいえ、「相当な攻撃が続いた」と語る。ネット空間では、一度旗色を変えると猛烈なバッシングにさらされるのが常だ。
それでも「正しいと思ったことを貫かないといけない」との信念から後戻りはしなかった。
丸尾県議も「間違いに気づき謝罪する勇気を示したことは評価したい。個人を恨む気持ちはない」と応じ、社会全体の課題に目を向けるよう呼びかけた。
◆「執拗な攻撃」に人生を変えられた
しかしその後、躍動氏に襲いかかったのは、立花氏の熱心な支持者たちからの執拗な攻撃だった。
SNSでの罵倒にとどまらず、嫌...
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