カイオーガ(擬人化)を拾って、性癖が捻じ曲がったトレーナーの話


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作:擬人化カイオーガちゃんはいいぞ
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1:伝説のポケモン(ひとのすがた)に見初められた日



カイオーガ(擬人化)で貴方の癖も破壊したい。私のように(みちずれ)。

そんな願いを込めた1発ネタです。

擬人化イメージは、某pixivにある神様のような方のカイオーガちゃんです。知っている方は知っているはず(名前とかは勝手に出しちゃまずいと思うので、気になる方は探してみてください。最高ですよ)。





 

 

 

 

さむい。

 

あつい。

 

つめたい。

 

いたい。

 

まっくらで、なにもみえない。

 

 

 彼女に【性別】があるかどうかは、一度置いておき。

 外見的特徴からヒトの少女にみえる存在が、今の姿になる直前に感じたのは、なんとまぁ酷いものだった。

 

 彼女/カ◽️オー◽️が元の姿から今になる際に失った記憶。それは神話の戦いによるもの。

 

 己と対になる大地の存在との永きに渡る戦い。海溝の底へと落ちていく直前。

 

 同族が存在しない彼女が、深い深い海の闇へと眠りに落ちていく瞬間に感じていたのは孤独。

 

 果たして伝説と謳われる存在がそんな感情を持つかと問われれば、疑問が浮かんでしまう人々もいるだろう。

 

 けれど。

 この存在はソレを覚え、酷い寂しさを覚えたまま意識を落としたのだ。

 

 きっとこのまま。

 誰にも見つけられず、海の深い深い闇の底でずっとひとりぼっち。最後には忘れられてしまう。

 

 そして。

 人からすれば永遠とも言える時間を眠り……ふと、唐突に目が覚める。

 

 海の化身。

 

 海そのものを生み出したとされ、尊き神とも呼ばれる存在が、無垢となって意識を取り戻した次の瞬間に見たのは。

 

 

「オレのポケモン(意味深)が爆発するわ!!!」

 

 

 全身びしょ濡れ、顔には傷だらけ。

 明らかに正気では無い表情で頭を抱えながら、とんでもない事を叫び散らかす10〜12歳ほどの少年。

 

 あまりにも酷い初対面。

 けれど、そんな少年を見た彼女/◽️イ◽️◽️ガに浮かんだ言葉は。

 

 

「————」

わたしをみつけてくれたあなたは、だれ?

 

 

 無垢と幼さ、それから大きな大きな知らない感情……喜びが混じり合った彼女の心に浮かんだのは疑問。

 

 これから彼女が、たくさんの感情で振り回されることになる彼に対する最初の質問は『あなたはだれ?』という、声無き疑問だったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホウエン地方のキナギタウン。

 

 本土の南に位置し、珊瑚礁と桟橋で構成された海上の街であるここは、とにかく何も無い。

 

 いや、それは言い過ぎかもだ。

 

 綺麗な海の上で優雅に生活できる田舎というのは、中々に見ないだろうし、人によっては羨ましいと思うかもしれない。

 

 ……でもな?

 

 

「ひま、ひまだ……」

 

 

 遊びたがり、冒険心満タン、元気ハツラツな今年で10歳のオレにはなんとも退屈。

 

 キャモメやペリッパーが、気の抜けた鳴き声を上げながら飛んでいく太陽さんさんの青空を見上げなら。

 

 ボロの釣竿でコイキングを爆釣しているオレには、ほとんど変わらないこの街の日常には飽き飽きしているのだ。

 

 

「はぁ〜〜〜」

 

 

 クソデカため息とともに頬に手をついて、またぼーっと釣りを再開したタイミングで。

 

 

「カイトー! あんた、明日には出発なのに準備出来てるのー!?」

 

 

 バカデカボイスで名前を呼ばれれば、ついびっくりして海に落ちかけるというもの。

 

 ひっくり返しそうになったバケツを慌てて押さえて、バランスを崩した体を浅橋の方に戻し、ほっと一息をついたあとで振り返れば。

 

 

「もぅ! 聞いてるの!?」

 

「あー、うん……終わってるよ」

 

 

 私はとっても心配です。

 言われずとも察してしまうほどに眉を顰めて、不安げな表情をした自分の母親が腰に手を当てて立っていた。

 

 

「ほんとしっかりしなさいよ、カイト。あんたはもう10歳。明日はミシロタウンに行って、ポケモンをもらうんでしょ」

 

「わかってるよぉ……はぁ……」

 

 

 そう、そうなのだ。確かにこの街で過ごすのは暇で仕方がない。

 

 けれどオレは10歳になってしまった。この年になってしまったということは、つまりはトレーナーとしてポケモンたちと冒険をしなければいけない。

 

 つまり、明日は自分にとっての大きなスタートの日。晴れ舞台とも言えるパートナーと出会う日なのだ。

 

 

「わかってるのに、なんでそんな憂鬱そうなのよ。ポケナビもカバンに入れてなかったみたいだし……買ってあげたモンスターボールとか忘れちゃったら母さん泣くよ?」

 

「だいじょーぶだって……というか、オレが憂鬱な理由は母さんもわかってるでしょ」

 

「それは、そうだけど……でも……」

 

 

 言い淀む母さんを見て、ついついジトッとした目になってしまった。

 

 ここで少しだけオレこと、カイトというガキンチョの話をしよう。短い10年間の記憶と経験とともに。

 

 始めに結論から。

 オレはとにかく運が悪い。そして、特定のポケモン以外にまっっっったく好かれない。

 

 運がない、という部分から簡単に話すと。例えば初めての旅行のとき。

 

 天気予報は100%の晴れ、絶好のお出かけ日和だった。もちろんオレも初めて行く本土にワクワクで前日は眠れないほど。

 

 そんなウキウキの気分で早起きしてみれば。

 

 

『……あらぁ』

 

『ママ、これ……』

 

 

 これまでに例を見ないほどの大雨で船は欠航。数週間ずっと楽しみにしていた旅行はぽしゃん。

 

 これが一回きりだったら、まだたまたま運が悪かったくらいで済んだのに。

 

 日帰り旅行やスクールでの遠足、山登りその他もろもろ。

 

 オレが楽しみにしている、それか大事なことがある日は必ず雨が降るのだ。しかも土砂降りで。

 

 一番やばい時には名も思い出せない山で遭難して、ひとり夜を明かしたこともあるほど。トラウマになっているのか、当時の記憶はほぼないけど、大事になったな、くらいはなんとなく覚えている。

 

 んで、いつのまにか“カイトくんの特性なの?”なんて言われてからかわれるくらいに。しかも気になってた女の子からだぞ、泣くわ。

 

 つまり、どうせ明日は酷い土砂降りでどうせ船はでないから、パートナーポケモンも図鑑ももらえない。

 

 で、次にポケモンの問題。

 これもなんでかは知らないけど、オレはみずタイプ以外のポケモンにほとんど好かれない。

 

 初めてテレビで見たヒトカゲに会いたい!とワガママを言って、いつも通り雨の中でなんとか出掛けてふれあいに行ったときは。

 

 

『カゲゲ……!』

 

『あ、え……』

 

『あらあら?』

 

 

 対応してくれたお姉さんが困惑するくらいに威嚇されてしまい、つい泣きべそをかいたのは苦い記憶。

 

 みずタイプ以外、特にじめんタイプのポケモンとはとことん相性が悪いようで、サンドなんてオレを見ただけで逃げ出す始末だ。

 

 

「そんなオレが明日に期待できると思う……?」

 

「で、でも、ほら! きっと平気よ!」

 

 

 必死に大丈夫! と言ってくれる母さんを尻目に気分は落ち込むばかり。

 

 だってトレーナーとしての一歩目の日だぞ? そんなの、とんでもない大雨が降って、気分もろとも落ち込むに決まっている。というかどうせ行けやしない。

 

 そんなオレの心情を読み取ったのか、母さんが悲しそうな顔をするもんで、ついバツの悪い顔になってしまう。

 

 

「楽しみじゃないの……? カイトの気持ちはわかるんだけど、でも……」

 

「楽しみじゃないわけないじゃんか。でも期待すると悪いことになるから、こーしてるの」

 

「そう……? なら、うーん……よくはないけど……」

 

 

 なんとも難しい母さんから視線を外して、やたら釣れるコイキングの山に目を移す。

 

 幼い頃からみずタイプのポケモンとは縁があるようで、やたら好かれるし、なんならゲットしてないのに着いてくることも多々あった。

 

 この目の前のコイキングたちも釣られたくせに、気のせいでなければ嬉しそうな顔でピチピチと跳ねながらオレを見ている気もする。

 

 

「とりあえず、ちゃんと準備はしておくよ」

 

「……うん。母さん、カイトのことずっと応援してるし、味方だからね?」

 

「ん……ありがと」

 

 

 なんて会話をして、陽が落ちてから家に戻り、ご飯などを済ませて終えば、もうベッドの上。

 

 ポケナビで天気を確認すれば晴天。けれど信用はならないとしかめ面になりながら、本心ではドキドキしている気持ちを落ち着けつつ、目を閉じる。

 

 

「……どんなポケモンに会えるんだろうなぁ」

 

 

 きっと、好かれるのはみずタイプだけ。でもたくさんの出会いはあるはず。そこにはオレに懐いてくれる子もいるはず。

 

 そんな期待を胸の奥の方に仕舞い込んで、意識を落としていく。

 

 まだ見ぬ……それこそ、誰も知らないようなポケモンと出会えるかもしれないなんて淡い夢を見て、眠りにつく。

 

 その日に見たユメは、たまに見る静かで暗い海の底で揺蕩うようなものだった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おきて! ほら、カイト!」

 

「ぅん……?」

 

 

 深く落ちた意識が浮上するのと同時に目をゆっくりと開ける。

 

 陽の光で眩しく白やけする視界に映ったのは、やたらとご機嫌な母さんの笑顔で、“なにごと?”となりかけて気づく。

 

 朝日で目が覚めている自分に。

 

 

「すっごくいいお天気よ! 今日は1日快晴ですって!」

 

「ほ、ほんとに……?」

 

「ええ!」

 

 

 ニコニコと笑う母さんから窓の外に視線を移す。そこには雲ひとつない青空が広がっていた。

 

 よかったわね、なんて言葉が聞こえるが。実感が無さすぎてポカンとしていたオレは、母さんの手によってあれよあれよと準備を進められてしまい。

 

 

「ちゃんと連絡してね? 何かあったらいつでも!」

 

「う、うん」

 

「電話でもメールでもいいのよ。それからポケモンちゃんを選んだら——」

 

 元トレーナーである母さんからのアドバイスを船を待っている間に聞きつつ、いよいよ出発に。

 

 オレが乗り込む船は大型のもので、ミナモシティから出発している。すでに船の中には多くの同世代の子どもが、期待を宿した表情で乗り込んでいた。

 

 本当に無事に、行ける? そんなふわふわの状態のオレに母さんがしっかりしなさいと肩を叩き。

 

「それじゃあ、いってらっしゃい!」

 

「あ……うん。いってきます」

 

 

 応援と鼓舞を込めた見送りの言葉をくれた。

 

 そこでようやく実感が湧いてきて、胸の鼓動が大きくなり出す。母さんからもらったポケナビとまだ何も入っていないモンスターボールをポケットに入れて、船の方へと足を踏み出した。

 

 

「……」

 

 

 いよいよ、自分の旅が。ポケモントレーナーとしての道が始まるんだ。と、出発してから1時間くらいは喜んでいたんだ。

 

 不穏な空気が漂い出したのは、船のデッキで外を眺めていた時。この大型の船に乗っている名前も知らない子たちが。

 

 

「あれ、曇り出したね」

 

「ほんどだ」

 

 

 という呟きをしたあたりで、渋い顔になったのはしょうがないと思う。

 

 今オレが乗っている船はミシロタウンに向かっているわけだが、ホウエン地方の形の都合で、少し遠回りする形で進んでいる。

 

 具体的には128番すいどうろの方へとぐるっとまわり、バトルリゾートの方から障害物のない海に出るわけだが。

 

 いまはまだ128番すいどうろで、旅は始まったばかり。そう、始まったばかりなのだ。

 

 

「……すぅ。ふぅ……」

 

 

 1度目を閉じてから空を見上げれば、先ほどまできゅーきゅーと鳴きながら飛んでいたキャモメたちはいなくなり、空は真っ暗な雲で覆われていた。

 

 脳裏に浮かぶぬか喜びの文字。でもまだ雨が降っているわけではない、なんて現実逃避をし始めたタイミングで。

 

 

「つめたっ……」

 

 

 ぽつ、ぽつと水の雫が頬やおでこに当たり始める。

 

 結局こうなっちゃうのかぁと、諦めつつも出発はできている安心からそこまで気にしなかったのだが、今思えば自分の不幸さを侮っていたとしか言えない。

 

 ゴロゴロという雷の音が鳴ったかと思えば、一気に暗くなる空模様。

 

 小雨だったはずの雨は大粒になり、痛みすら感じるほどの強さで頬やおでこを打ちつけてくる。

 

 異常な速度で天気が悪くなって波は高くなり、海は荒れ始める。

 

 

「きゃあ!!」

 

「うわぁ!!」

 

「キュキュゥ〜!」

 

【天候が急変し、非常に危険です。中央デッキにいるお客様は直ちに船内へと退避ください】

 

 

 緊急時のアナウンスが流れ始めて、背中に冷や汗がで始める。すぐさまにでも船の中に行かないと不味いとはわかっているけれど。

 

 

「く、ぅ……この揺れじゃ……!」

 

 

 上下左右に激しく暴れるように揺れる船の上で急いで歩くのは難しく、ほかの子たちも膝をついたりして、少しずつ船内の方へと移動している。

 

 だが天候はどんどんと、それこそこの状況を嘲笑うかのように悪くなり、波は船を煽って海水が顔にかかるほど。

 

 けれど一歩ずつ着実に移動をしていたオレは、あと数メートルで扉付近に着く、と心のどこかで安堵の息を吐いていた。

 

 瞬間、船中央のあたりから小さくも絶望を感じさせる女の子の悲鳴が聞こえた。

 

 

「ぁ……! マリル!!」

 

 

 反射的にそちらを向けば、きっと抱きかかえていたであろうマリルが手から離れて、空中に投げ出されているのが目に入ってしまう。

 

 

「プ、ププゥ〜!!」

 

 

 バタバタと手足をばたつかせて、荒れた海面の方へと投げ出されていくマリルの姿がスローモーションのように目に映る。

 

 泣き出しそうな女の子と、その子について来たであろうマリル。

 

 それを脳でしっかりと把握する前に、身体が反射的に飛び出していた。

 

 

「ッ……!!」

 

 

 木で出来た足場を揺れる中で思い切り蹴り、ジャンプの形で投げ出されかけたマリルに手を伸ばす。

 

 小さな手をなんとか掴み、体をぐんっと回転させる要領で海側ではなく、船の内側へ……持ち主である女の子のほうにマリルを投げ渡す。

 

 

「え、あ……まっ……きゃっ!」

 

「プルッ!?」

 

 

 雑に投げてしまって申し訳ないと思いつつ、しっかりとマリルをキャッチした女の子を見て、ほっとした。

 

 あとはオレが手すりに背中を打ちつけて、海に放り出されないようにすれば。

 

 そんな考えで動いたわけなんだが、なんだ。ホントに自分の不幸ってのは底が知れないわけでな。

 

 

「っ、あ!?」

 

 

 ザバーン、と大きな波が反対方向の手すりから見えたと思えば視界中にある船が文字通り、斜めに傾いた。

 

 ここまでで1番の揺れがこのタイミングで起きた、ということ。つまり、目論見であった自分の着地先である手すりは。

 

 

「うーわ、ほんと最悪」

 

 

 荒れ狂う波が背後に見えて、他人事のような感想が乾いた笑いと共に出てしまう。

 

 実際の時間としてはほんの数秒。体感時間だとかなりの長時間に感じる海に呑まれるまでのタイムリミット。

 

 旅が始まる前に終わりとか、ホント神様はオレのこと嫌いだなぁ!!

 

 なんて、この状況では絶対に適していない恨み言を心の中で吐き出してから。

 

 

「ご、ぽぉ……がぁ……」

 

 

 真っ暗な海に身体を打ち付けられて、大きな波に自分の全てを食べられるように覆われて。

 

 意識を手放す直前に見た光景は、たまに見るあの夢の光景に似てるな、なんて呑気な思考と共に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぴちゃん……ぴちゃん……。

 

 小さな水音が耳に入ってくる。それと固くて冷たい感触を全身いっぱいに感じる。

 

 

「……ん、ぁ……?」

 

 

 仰向けでびしゃびしゃのまま倒れている自分の体を起き上がらせれば、下半身は海の中で体温を奪われていることに気づく。

 

 重い身体を匍匐前進で引きずりながら、ゴツゴツとした岩の陸地まで登って、辺りを見回す。

 

 

「いつつ……。え、と……」

 

 

 ほんのり照らされているだけで、真っ暗な洞窟。

 

 自分が先ほどまで使っていた湖のようところを視線だけで確認すれば、遥か下の方は繋がっているようで、頬についた雫から海水だと察する。

 

 身体は小石などで傷ついたのか血は流れているものの、大きな怪我はないが、びしょびしょ。

 

 なぜ自分はこんなところに、と考えた瞬間に意識を失う直前のことを思い出して、頭を抱える。

 

 

「もうホント、最悪だぁ……!」

 

 

 ここがどこかなんてわからないが、たぶん最悪な目に遭ってるのは間違いない。

 

 あまりの不幸さと心細さで足を抱えてうずくまる。なんでこんな目に遭ってるんだ、どうして自分ばかりと思う一方で、生きていることに安心してしまい、目頭に熱いものが溜まっていく。

 

 数分ほど、そうやって自分の特大の不幸さと生き残った喜びを噛み締めていると、ぽちゃんという水音が聞こえて肩が大きく跳ねる。

 

 

「す、ぅ……」

 

 

 喉から勝手に空気が漏れるほどの恐怖と緊張。ガチガチに固まった体温を奪われた体を無理やり動かして、後の方向を恐る恐る確認すれば。

 

 

「ホエ〜ン」

 

 

 海水の溜まりからひょっこりと顔だけを出して、オレを見つめるホエルコの姿があった。

 

 心なしかその目は心配そうで“大丈夫?”と聞かれているような気もする。

 

 野生のポケモンのはずなんだけど、不思議と怖さがなく、今の不安な状況と“もしかして“が合わさり、声をかけてしまう。

 

 

「お、お前が助けてくれたのか……?」

 

「ホ〜エン!」

 

「ぁ……そ、か。ありがとう」

 

 

 小さなヒラをパタパタと動かして、嬉しそうな鳴き声を出すホエルコ。詳しくはわからないけど、海に落ちたオレを助けてここまで運んでくれたのは、この子なのだろう。

 

 ぷかぷかと水面で浮かび続けるホエルコをそっと撫でれば、嬉しそうに鳴いてから水の中に帰っていく。

 

 ぽかんとした顔のままホエルコを見送った後に、ハッとした。

 

 

「え、あ、ちょ! まって!! ここじゃなくて元の場所に帰りたいんだけど!!!」

 

 

 情けなく上擦った声でそう叫ぶも、ホエルコは仕事は終えたとばかりにもういない。無駄に広い謎の洞窟で虚しく響くのは自分の声。

 

 

「……………」

 

 

 あれ、別にこれ助かってなくない? そんな疑問。むむ? さてはまだピンチだな、これ。そんな確信。

 

 なんだか一周回って冷静になり始めて、とりあえずは持ち物の確認をすれば、ポケナビを始めほとんどの物が海水でやられてしまってはいるが、懐中電灯は動いて少し安心する。

 

 あと動くのはモンスターボールくらいだが、そもそも手持ちがない自分ではどうしようもなく。野生のポケモンが生息するであろうこの洞窟を、ひとりで動かなければいけないと言うのは。

 

 

「……めっちゃ怖い、な」

 

 

 怖い、確かに怖いのだが……アレだな、いま変なドーパミンみたいなのが出ている気がする。なぜかって?

 

 

「ははは、はははは!」

 

 

 なんか上がってきているからだ。こう、もうどうしようもなんないや! どうとでもなれ! って。

 

 

「はぁ〜あ!」

 

 

 立ち上がり、軽く体に痛みがないかを確認した後であらためてグルリとこの洞窟を見渡す。

 

 それから少し耳が痛いことに気づいて、気圧の変化によるものとわかり、この洞窟が海の底とかにある物なのでは、と頭に過ぎる。

 

 

「……うーん」

 

 

 くるりと水辺から反対に向き直れば、そこにはこれ見よがしに奥へ続きそうな入り口があるわけだ。

 

 今の自分に取れる選択肢はいくつかあるが、その中で一番マシに思えたのは……もしかしたらあるかもしれない出口を探すこと。

 

 

「よし」

 

 

 どうせこのままでは飢え死ぬか、寒さで終わり。ならばわずかな可能性にかけて動くのがいいはず。

 

 歩けば多少は体温も上がるし、気も紛れるだろうと開き直り、ライトを片手に洞窟の奥へと歩き出した。

 

 これも今思えば、危機的な状況でおかしくなっていたのだろうと思うが、変に腐って座り込むよりよっぽど良い選択だろう。

 

 

「いくかー」

 

 

 それに推定で未知の海底洞窟を探検とか非日常だし、ワクワクする。これは決して現実逃避とか、無理やりテンションを上げているとかではない。

 

 うん、決してそうではないが、若干震える手を隠すために無駄に声を出して。

 

 

「うおおおお!!!」

 

 

 なんて叫びながら小走りで洞窟奥へと進んだのは、ちょっと間違いだった。

 

 だって、野生のズバットやゴルバットたちから襲われる原因を自分で作ったわけだからな!

 

 

「ズバッ!!」

 

「ゴバァッ!!」

 

「ぎゃあー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……おぇ……」

 

 

 自分が撒いたタネによってゴルバットたちに散々追いかけ回されたあと。

 

 たぶん時間にすると30〜40分くらい走っていたオレは、体力は持って行かれたものの、寒さは消えてちょっと熱いくらいになっていた。

 

 ただ、闇雲に走りまくった結果、元の場所に戻るのは難しくなっていて、壁に手をつきながらわずかな光のみで探索をすることになっている。

 

 

「はぁ、ほんと、マジで……」

 

 

 ゆえに口から溢れるのは愚痴と愚痴、それからオマケにもう一個愚痴。

 

 やはり海水で多少はやられていたのか、もうライトの光もわずかでだんだんと暗闇に目が慣れ始めているくらい。

 

 不幸中の幸いは、わずかながらこの洞窟には光源があるようで完全な暗闇にはなっていない点だ。

 

 だからこうして僅かな希望と無理やり上げたテンションで、死の匂いを無視しながら歩き続けられるのだ。

 

 

「………?」

 

 

 ここでふと気づく。あれ、先ほどまであんなに襲ってきたり、そこら辺にいた野生のポケモンが一切いなくなっていることに。

 

 

「ん、あれ?」

 

 

 また、自分が進んでいる方向にほんのり……わずかながらの淡い水色の光が漏れていることにも気づけた。これが、死ぬ直前の目の錯覚でなければ、だが。

 

 

「もしかして、外……?」

 

 

 突然降ってきた希望の光に、自分の中で多少折れかけていた心が元に戻っていくのが感じられる。

 

 ゴクリ、と生唾を飲み込み、カラカラの喉に少しの痛みを感じながら足を進める。

 

 自然と大きくなる歩幅と速度、そしてもうほとんど光っていないライトを握りしめる手に力がこもる。

 

 そして、進んだ先にあったのは……淡い光を放つ神秘的で美しい水海。

 

 

「……ぉぉ」

 

 

 決してそんなことを思うような状況ではない、それなのに口からは感嘆の声が漏れ出てしまうような光景。

 

 海水で出来ているであろう光を放つ湖の周りには、サファイアのような宝石があちらこちらに存在していて、それぞれが光源となっている。

 

 まるで惹かれるように中央の大きな水溜まりに足を運べば、そこはまさに絶景で……?

 

 

「……ぇ、は?」

 

 

 大きな、それは大きな海水の溜まり場所。ほんのりと蒼色で脈動するように光を放つソコの中心に、ダレかがいた。

 

 

「ひ、と……?」

 

 

 遠巻きでハッキリとは見えないけれど、もしアレが人ならという希望。けれどそれ以上に、何かが気になって勝手に足が進んでいく。

 

 せっかく乾いたズボンのまま、海水の中への入れば酷く冷たいことが肌で感じられる。

 

 それはまるで何かを止めるような、封じ込めるのような死の冷たさ。

 

 けれど、そんなことはどうでもいいと思考が塗り替えられていく恐怖に苛まれながら、目の前の存在の元へと一歩一歩、足を進めていく。

 

 そして、そのナニカの輪郭がハッキリと自分の視界に入ったとき。

 

 ————ドックン、と短い人生で感じたことがないほど大きな鼓動が胸の内で響いた。

 

 

「————この、子は」

 

 

 背を丸めて両手をキュッと抱え込み、胎児のように眠る少女。

 

 薄い水色の長い髪、蒼色の不思議な服? に全身に走る赤い線。

 

 頭には青い長方形上の機械にも見える身体の一部? が付いており、手足は大きなヒレのようなものが存在感を放っている。

 

 顔は目を閉じているが、その状態でもまるで精巧に出来た人形のような、人ならざるものの美しさを感じてしまう。

 

 肌は雪のように白く、生命の鼓動を感じられないが、僅かに動くお腹で生きていることはわかる。

 

 けれど、目の前の存在が同じヒトであるとは思えない。只人ではないことが直感的に伝わってくる。

 

 起こしてはいけない、これはここで眠らせたまま、ただ静かに終わりの時までそっとしておくべきだと、生存本能が告げてくるのだ。

 

 なのに、それなのに。オレは。

 

 

「……………ぁ」

 

 

 気づけば、目の前の大いなる存在の……矮小な人間が触れてはいけない神秘の具現に、触れてしまっていた。

 

 脳が身体に信号を送る前に、そうなるべきだ、そうするべきだと吸い寄せられた。

 

 オレの右手は、名も知れぬ少女の頬へと触ってしまったのだ。

 

 瞬間、ぐらりとこの洞窟自体が揺れた気がした。

 

 

「ッ!!」

 

 

 そこでようやく正気に戻るが、すでにしてしまったことの代償は重く。

 

 血色がなかった肌はだんだんと人の色へと戻り、僅かだった呼吸と腹の動きはよく見ずともわかるほどに。

 

 ざぶん、という音が聞こえる。それは、オレ自身の腰が抜けて彼女の目の前、わずか数センチの先で座り込んでしまった音。

 

 でも、それは恐怖でなく。

 

 

「————」

 

 

 眠っていた少女の目が、黄色の輝く宝石のような瞳が僅かに開かれて。

 

 焦点が合わない視線を何度か揺らして、音もなく上半身を起こして。

 

 何かを探すように、何度か視線を迷わせたあとに、その目がオレを捉える。捉えられてしまう。

 

 

「————」

 

「っ……? ……!?」

 

 

 で、ほんと〜〜〜〜に! わからないのはここから。畏怖すら覚えていたはずの目の前の存在。

 

 その子と目が合った瞬間、体を隠すように丸めていたその子の全身がオレの視界に入ったとき。

 

 オレは、かみなりを受けたような衝撃と、自分の中の何かが破壊された感覚を覚えた。

 

 なんだろう、価値観が壊れたとかそう言うレベルのものじゃない。全部が塗り替えられる感じ?

 

 で、こんな神秘的でロマンスがありそうな出会いの瞬間に思わず、バカみたいな大きな声で。

 

 

「オレのポケモン(意味深)が爆発するわ!!!」

 

 

 なんて、アホみたいな言葉を振るえた声と引けた腰で叫んでしまったんだ。この言葉の意味はそのまんま。

 

 マセた子どもが、色々と透けた服? を着たこの世の存在とは思えない美少女に向けて言い放ったドが付くストレートなセクハラ発言である。

 

そして、寝起きでそんな最低な言葉を受けた彼女の反応はというと。

 

 

「————??」

 

 

 理解できない、何言ってんだコイツ、みたいな視線だったとオレは感じたね。

 

 実際には違ったわけだが、それはこの子……人型のカイオーガと絆を深めて、なんなら深めすぎたときに聞かされた。いや、コイツ喋らないんだけど。

 

 

 

 かくして。

 ちょっとどころか天変地異でも起こしそうなくらい運の悪い男の子と、文字通り天変地異くらい起こせちゃう女の子の出会いはここで。

 

 ホウエンどころか、そのうち他の地方にまでいろいろと迷惑をかける人間と伝説のポケモン? のカップル誕生の1ページはこの瞬間から始まるのでした。

 

 

 

 

▼おまけ『少し未来のお話』

 

 

 

 

「なぁ、カイオーガ」

 

「————?」

 

「そろそろ手持ちのポケモンを増やしたいんだけど」

 

「————……」

 

「そんなジトっとした目で見ないで……?」

 

「————、————?」

 

「浮気じゃないよ! てかお前の番じゃないぞ、オレ!!」

 

「————!!!」

 

「うわぁ!? 飛びかかってくるなぁ!」

 

「————♪」

 

「力はまんまポケモンなの忘れないでね!? と言うかなに、その舌舐めずりは……?」

 

「————? ————♡」

 

「いやぁ!? しなだれかかってくるなぁ!!?? あ、ちょ、そこは————」

 

 

 手持ちのポケモンを自分以外は許さない。なんなら見るのもダメ。

 

 “わたしいがいをみたら、きゅってする”そんな独占欲と愛情たっぷりな……かいていポケモンから一心の恋心とストレートな行動を受けて、彼はいつまで持つのか。それは神のみぞ知る。

 

 

「————、————♡」

ぜったいに、はなさない、から♡

 

 

 ちょっぴり独占欲が強すぎるカイオーガと、そんな彼女のトレーナーのドッタンバッタンで、甘々の甘な日々はきっと世界も救うことでしょう。

 

 

 

 






誰か続きを下さい。

ちなみに私のポケモンの初恋は彼女でした。カイオーガちゃんはいいぞ。
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