2025年8月20日~22日、日本、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)の共催のもと、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が横浜で開かれます。TICAD9開催を前に、在ダカール国連広報センター斉藤洋之所長による寄稿を前編・後編の2回に分けて、紹介します。
斉藤洋之(さいとう・ひろゆき)
【略歴】2024年1月から在ダカール国連広報センター所長。セネガルと西アフリカで国連の戦略コミュニケーションを担い、緊急時は方針設計、メッセージ作成、関係各所との調整まで対応。着任前はエチオピア・アディスアベバの国連開発調整室アフリカ地域広報官として、各国常駐調整官事務所や国連広報センターと連携し、広報戦略の立案やメッセージ発信を進めた。20年以上にわたり国連とメディアの現場で活動。ボストン大学大学院で放送ジャーナリズム修士。早稲田大学第一文学部卒。英語・フランス語・日本語で業務を行う。
具体化するパートナーシップ――ダカールからカザマンスまで
ダカール市内の「セネガル・日本職業技術訓練センター」では若者が青色の作業服に身を包み、産業用保冷設備、機械保守や自動車整備などの実習に取り組む。数百キロ南のカザマンスでは、女性の魚加工業者が日本の支援により省エネ型オーブンを導入し、製品品質と収入の向上を図るとともに、マングローブ林の薪使用の大幅な削減を目指している。こうした教室や燻製小屋での取り組みは、日本とセネガルの協力が日常生活に息づいていることを示すとともに、今後のさらなる発展の可能性も示唆している。
セネガルはアフリカ最西端に位置し、面積は北海道と四国を合わせた程度。首都ダカールは大西洋に突き出す。その約1万4千キロ東の横浜では8月、アフリカ諸国の首脳等を迎え「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」が開催される。現場での成功例は、西アフリカから遠く離れた日本の地で生まれたパートナーシップが実際に成果を上げること、そしてその絆を強めることがアフリカの目標と日本の持続可能な成長、技術的リーダーシップ、責任ある地球市民としての目標を同時に後押しすることを示している。
人口、気候、安全保障――補完し合う強み
日本は少子高齢化が進み、若年労働力の縮小と平均年齢の上昇が経済構造を揺さぶっている。一方、アフリカは「人口急増期」に入り、人口の約6割が25歳未満だ。国連の推計では、同大陸の人口は2050年までに約25億人に達する。これは、世界人口の4人にひとりにあたる。若いエネルギーは日本の技術・文化の巨大市場となり、グリーン技術の普及の場、デジタル人材の供給源ともなり得る。
利害の重なりは経済に留まらない。アフリカの温室効果ガス排出量は世界全体の4%未満にすぎないが、干ばつや洪水、暴風雨など気候災害による損失は地域GDPの最大5%に達すると報告されている。適応策の成否は、日本自身の脱炭素目標とも表裏一体である。また、日本と欧米を結ぶ海上輸送はアフリカの角や西アフリカ沖を通過するが、海賊や過激派の脅威が増している。アフリカ諸国の安定化は日本のサプライチェーン保護にも直結する。
前進とギャップ
世界経済の逆風下でも、アフリカ経済は25年に約3・9%成長、21カ国が5%超を予測する。ただ、毎年1200万人の若者が労働市場に参入する一方、正式な新規雇用は約300万にとどまる。電化率は過去10年で39%から53%へ向上したが、5億7100万人が依然として安定的な電力を利用できない。アフリカ大陸での気候変動への適応策には年間2770億ドル(約40兆円)が必要だが、現在の資金流入は300億ドル(約4兆円)程度にとどまる。いくつかのサハラ以南諸国では利払いが歳入の半分近くを占める。課題は大きいが、投資・技術・公正な資金供給が追いつけば、勢いはさらに加速し得る。
セビリア会議後――公正な資金の論点
6月30日~7月3日、スペイン・セビリアで開かれた「第4回開発資金国際会議」では、100項目超の行動案を盛り込んだ「セビリア・コミットメント」が採択された。多国間銀行の融資拡充や、債務を開発支援に転換する「債務スワップ」の促進などが含まれる一方、格付手法の偏りにより、アフリカ諸国の借入コストは先進国の3~5倍という構造が浮き彫りとなった。2020年には22カ国で保健支出より債務返済額の方が多い結果となった。
このセビリア会議は、2024年9月の国連「未来サミット」で各国首脳が合意した「未来のための協定」の具体化に向けた第一歩と位置づけられている。同協定では、気候変動対策や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に必要な資金を公平に確保すること、過剰債務の軽減、公正な信用評価制度の確立などが柱とされている。また、若者や将来世代の国連活動への参画促進も打ち出されている。これらの理念を実行に移すため、「セビリア・コミットメント」では前述の債務スワップの活用や開発銀行の融資拡大といった具体策が提示された。
アフリカ側も対応を進める。アフリカ連合は「アフリカ信用格付機関」を創設し、実情に即した評価を目指す。アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)は13億人市場を形成し、域内取引の活性化を図る。ベナンはグリーン資本誘致策を導入し、ルワンダとブルキナファソは税基盤を強化、さらにコートジボワール、トーゴ、エジプト、マリはディアスポラ債(海外に住む自国出身者を対象とした国債)で海外在住者の貯蓄を呼び込む。気候変動や紛争、資金流出、貿易障壁の拡大、そして社会保障費を圧迫する債務負担など、アフリカが直面する課題は多い。それでも、自らの手で経済の未来を切り開こうとする動きが広がりつつある。
国連の役割――地域主導の解決策を後押し
国連開発調整室のアフリカ地域所長ヤクブ・エル=ヒロ氏は「アフリカは援助を求めているのではなく、解決策を提供している」と語り、支援の在り方について「主権を尊重すべきであり、依存を生んではならない」と強調した。外部からの支援は、各国主導の戦略を後押しするものであり、支援側の意向を押し付けるものであってはならないと訴える。
国連は、現地の国連常駐調整官の指揮のもと、国別チームを通じてこうした方針を具体化している。セビリア会議をはじめとする国際会議での合意事項を現場の成果につなげ、各国の開発計画とSDGsを連動させ、官民の資金を組み合わせて調達。アフリカが直面する多様な課題への対応を進めている。財政の自立、地域連携の強化、技術革新を目指すアフリカに対し、国連は各国政府や地域団体、国際機関と連携し、障害の克服と持続的な発展を後押ししている。気候技術、資本市場、円借款の歴史を持つ日本は、こうした前向きな潮流を後押しし得る。今後、より公正で持続可能な資金供給が各国で広がれば、雇用の創出や気候変動対策、地域の安定にも一層つながっていくと期待されている。