書いた記事を「Grokファクトチェック」 された記者が考えてみた

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後藤遼太
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 「Grok、ファクトチェックして」

 最近、X(旧ツイッター)でこんな投稿をよく目にする。Xに搭載された生成AI(人工知能)である「Grok(グロック)」に、気になった投稿の真偽を尋ねて答えさせる使い方だ。生成AIに真偽の検証はできるのか。書いた記事が「Grokファクトチェック」された記者が、調べてみた。

愛読者から怒りのメール

 石破茂首相の発言を巡るファクトチェック記事(5月31日朝刊)に対して6月、朝日新聞の読者モニターから意見メールが届いた。

 記事は、消費減税に慎重な首相が、税率を変更するとスーパーのシステム変更などに「1年かかる」などとした発言について検証し、「ほぼ正確」と結論づける内容だ。

 メールには「いい加減にしないと、朝日もやはり利権がらみと思われるような記事」「政権擁護キャンペーン」とあり、「Grokに記事をファクトチェックさせた」と続いた。

 Grokの回答は「石破首相の発言は、現場の小売店の対応実績や過去の消費税率変更の事例、専門家の意見から見て、誇張または事実と異なる可能性が高い」だったという。

記事が拡散 「デマ」「デタラメ」の投稿も

 確かに、首相発言の直後、民放が都内の商店街の小売店主らに取材し、「レジの税率の設定変更は1日でできる」という声を情報番組で流していた。SNS上ではこの切り抜き動画や画像が拡散。首相への「うそつき」批判も盛り上がった。

 ファクトチェックを書く際、記者はまず首相の発言を確認した。正確にはレジではなく「スーパーのシステムの変更」だった。財務省に確認すると、店内に複数あるレジの売り上げを集計する「POSシステム」を指すとのことだった。

 システムの大手3社(東芝テック、富士通、NECプラットフォームズ)に取材すると、変更にかかる期間は「数カ月~1年以上」で、首相発言は「妥当」「不自然ではない」などと回答。また、「1日では難しい」とも答えた。

 取材を元に、石破首相の発言を「ほぼ正確」とした記事はX上で拡散した。同時に「デマ」「デタラメ」といった反応も多く、読者モニターの意見メールと同様にGrokに「ファクトチェック」させた投稿もあった。

メールの送り主が語ったのは

 なぜ、Grokに聞いたのか、意見メールの送り主の男性に電話してみた。

 千葉県在住の70歳。以前は…

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この記事を書いた人
後藤遼太
横浜総局|次長
専門・関心分野
戦争や平和について、歴史
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    津田正太郎
    (慶応義塾大学教授・メディアコム研究所)
    2025年9月2日11時3分 投稿
    【視点】

    記事の本筋からは逸れるのですが、この記事中にある「5年ほど前から目が悪くなり、ユーチューブやツイッター(現X)で情報収集することが増えた」という言葉に気づきがありました。 制作者が誰かも分からない(従って、間違いがあっても誰も責任をとらない)動画がなぜ情報収集の手段になるのかと疑問に思っていたのですが、視力の問題が一因になっているのかもしれません。私は50代前半ですが、最近、老眼が進み始めました。 そう考えると、ファクトチェック記事の中身まできちんと読んでもらうためにも、高齢者にもアクセスしやすい報道の形態を模索していく必要があるのではないかと考えました。

    …続きを読む
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    秦正樹
    (大阪経済大学准教授=政治心理学)
    2025年9月2日12時53分 投稿
    【視点】

    ファクトチェックに関する実証研究はたくさんあります(たとえば,https://doi.org/10.1037/xge0001131 の論文はよくまとまっていて読みやすいと思います)が,ファクトチェックで(理念通りに)誤信念を修正できるという

    …続きを読む