科学的知見に基づく家庭教育一家庭教育学の樹立を目指して一

 公益財団法人・日本教育科学研究所編『教育研究情報』54号(令和5年)に、日本家庭教育学会の「脳科学等の科学的知見に基づく家庭教育一新たな家庭教育学の樹立を目指して一」と題する私の基調講演に関する記事が掲載されたので、紹介したい。

<「問題児がいるのではなくて、その背景には、問題の親、問題の教育、問題の社会がある」という明確かつ時代を見通した問題提起で始まった髙橋史朗氏の基調講演は、一瞬も気を抜くことができないほど、緊迫感を伴う内容の充実したものだった。
 文科省等の各審議会や委託研究に長年携わってきた髙橋氏は、臨床教育学の立場から「脳科学と教育」について研究を深めてきた。昨今の子供をめぐる様々な問題を憂える髙橋氏は、価値観の強制ではなく、子供の成長をいかに保障するかに重点を置く。その隘路は、道徳教育学と家庭教育を結び付けることで成し得るのではないかと期待を寄せる。そうすることが、新たな家庭教育学の樹立に資すると考えているのだ。そのためには、科学的根拠に基づいた理論構築が必要だと説く。
 今回の講演会では、現在注目されている研究者の科学的知見を中心に述べつつ、家庭教育と架橋することを念頭に講じている。例えば、倫理学において、「共感」は、アダム・スミスの『道徳感情論』にもあるように、人間の本性に基づいて道徳的に振る舞うのに不可欠な感情と位置付けられる。このことについて髙橋氏は、多くの研究や論文を駆使しながら、共感のインセンティブは、ミラーニューロンに根拠づけられるとする。つまり、「共感」は神経科学からアプローチすることでメカニズムが解明され、倫理的法則の核心であることが明らかにされるとするのだ。
 また、ポール・サガードも、「ミラーニューロンによって、人は他者を気遣うように動機付けられる」(『脳科学革命』参照)と記しているという。このように髙橋氏は、数々の知見を紹介しながら「共感」や「社会性」が、科学的に裏付けられることを検証した。
 また、筑波大学の安梅勅江教授の著書『気になる子どもの早期発見・早期支援一「かかわり指標」を活用した根拠に基づく子育て・子育ち支援に向けて』によれば、生後4か月から400組の親子を20年間調査研究した結果、ほめることが将来の社会性に影響することや1~1歳半の愛着体験が欠落すると2、3歳児において身体症状を訴える者が4倍に増えることも明らかだという。
 さらに「情動学」の分野では、東大大学院の遠藤俊彦教授の著書『情動発達の理論と支援』を引きながら、「非認知能力」こそが「幸福の鍵を握る」としている。また、「非認知能力」について、OECDでは「非認知能力の3本柱」として、⑴目標の達成(忍耐力・自己抑制・目標への情熱)⑵他者との協議(社交性・敬意・思いやり)⑶情動の制御(自尊心・楽観性・自信)の重要性について詳述しているとのことだった。玉川大学の大豆生田啓友教授の著書『非認知能力を育てる遊びのレシピ』は、「非認知能力を育む子育て」の6本柱として、心の安全基地を作ることや多様な遊び体験や絵本の読み聞かせ等を推奨している。
 以上のようなエビデンスに基づく子育て支援について、髙橋氏は、次々と文献及び研究成果を紹介した上で、日本における家庭教育をめぐる議論の流れと課題について論じており、昨今話題の「こども庁」構想についても取り上げ、家庭の視点が弱いのではないかと懸念している。
 髙橋氏は、最後に日本家庭教育学会の役割として、家庭教育に関するプラットフォームを構築することを提唱していた。そこでは研究者と実践者の融合、および教育委員会・家庭教育団体との一層の連携を進めることの必要性が述べられていた。
 髙橋氏の講演を受け、日本家庭教育学会理事長の佐藤貢悦氏は、包括的、体系的、総合的にまとめられた今回の脳科学等の科学的知見に基づく家庭教育についての講演は、髙橋氏の幅広い知識と深い見識がなければ語れなかったと謝意を述べ、次回への期待を滲ませていた。>(日本家庭教育学会会報108号、参照)


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コメント

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舜平汰
舜平汰

問題児がいるのではなく、親、教育、社会が問題なのだというのは、視点の切り替えになりました。
罪を憎んで、人を憎まず
会社の従業員が悪いのも同じで、マネジメント、教育制度、環境に問題があると悪くなるだけで、それらをよくすることは従業員にとってウェルビーイングにつながる。すると、その効果として、幸福度が高いとパフォーマンスが高かなるということがわかります。

また、脳科学や情動学はとても興味深く、今後とも学んでいきたいと思います。

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科学的知見に基づく家庭教育一家庭教育学の樹立を目指して一|髙橋史朗
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