2025-09-02

とある現代っ子バイトの話

色々事情があって、20代半ばの頃にフリーターをしていた時期がある。

飲食店バイトをして食いつないでいたのだけれど、バイト仲間は大体年下の学生だった。

人には恵まれていて、フリーターフラフラ生きていた自分が(少なくとも表向きは)ハブられることも無く、高校生大学生たちとそれなりに楽しく働いていた。

長く働いていれば指導担当になることもあるわけで、学生相手に(こんなフリーターが偉そうにごめんな~)と思いつつ仕事を教えることもしばしば。

最近若いもんは」なんてよく言うけれど、体感9割以上の学生ものすごくまともで真面目だった。

バイトです!と緊張しながら入ってきて、一生懸命メモをとり、2週間もすれば一人前になる。

しろ、「若い子って呑み込みが早いなあ」と感心することのほうが多かった。

あるとき店長に「新しい子が入るから適当指導よろしく」と頼まれた。

来月辞めることが決まっていた自分の代わりだということはすぐにわかって、引継のつもりでしっかり指導しようと思ったのを覚えている。

まあ、とは言っても所詮バイトの身なので、別に厳しく指導するつもりはなかった。

直接その学生に会うまでは。

学生は、高校1年生の男の子(以下、A)だった。

Aは、バイトは初めてだと言っていたが、正直、第一印象からまり良くない雰囲気だった。

バイト経験がない学生特有の緊張感がまるで無い。

此方が声をかけるまで挨拶をしてこなかったし、制服の着方もどことなくだらしがなかった。

自分学生の頃は「ルールとかだるい」「挨拶しろとかうるせ~」というタイプだったので、特段苛立ちはしなかったけれど、「この子大丈夫かな?」という不安はよぎった。

その店は、自分店長こそ穏やかなタイプだったけれど、パート主婦たちや他の学生バイトはかなり勤勉で厳しい人が多かった。

きっと、このままいけばAは他の人たちからかなり叱られてしまうだろう。

自分指導する立場になって初めて、「お前を心配してるから叱っているんだ」と言っていた大人たちの気持ちが分かった。

Aは、バイトをする上で学生でも最低限身に着けておくべきルールマナーを一切知らなかった。

バイトなので仕方ないのだが、これまで指導した学生たちはある程度「言わなくてもできる」タイプばかりだったので、ますます不安は増した。

先輩やお客様には自分から挨拶しようね。

挨拶は、相手に聞こえる声で、はきはきした喋り方でね。

相手が喋ってるときは、手を止めて目を見ようね。

服や髪が乱れていると、清潔感が無く見えてしまうから、鏡を見て整えようね。

お客様には笑顔で接してね。

テーブル適当に拭かないでね。

お客様に見えるカウンターは綺麗に保ってね。私物は置かないでね。

業務を教えることなんて出来なくて、初日はとにかく礼儀を教えることに徹した。

口うるさいと思われても良いから、自分がいなくなるまでにAがこの場でやっていくための術を身につけさせたかった。

自分も、ガミガミ言われるとやる気をなくす性分だ。

言い方一つに気を遣って、優しく、けれど馬鹿にされていると感じられないように。

けっこう頑張ったつもりだったけれど、その日はAから「…うっす」という返事しか聞くことが出来なかった。

目は合わなかったし、頑なに服や髪も整えてくれなかった。

でも、ついこの間まで中学生だった子が急にできるようになるわけないと自分に言い聞かせた。

翌日、Aが来なかったらどうしようと不安になりつつも出勤。

Aは、遅刻ギリギリ……いや、ちょっとアウトという時間に出勤してきた。

そして、私の元へ来るなり挨拶も何もかもすっ飛ばして「道が混んでました」。

言いたいことはいっぱいあった。

時間に余裕を持てとか、まず挨拶しろとか、服とか身を整えろよとか、遅刻したのに謝罪も無しかよとか。

でも全部飲みこんだ。

ここで叱ってやる気をなくされては困る。

その時間帯は基本的ワンオペだったので、他に頼れるバイト仲間もいない。

その状況で、Aとの関係がこじれるのは避けたかった。

「そっか!それは仕方ないね。次はもう少し時間に余裕を持ってこられる?」

いろいろと我慢して絞り出したその言葉にも、Aは「…っす」と返すだけだった。

いつまでも礼儀ばかり言ってられないので、その日は本格的に業務指導をした。

難しい仕事ではないけれど、タスクの数はそれなりにある。

ざっと説明しながら、Aがただ立って聞いていることに気付いた。

メモとかとらなくて大丈夫?」

これは、一回聞いただけでは絶対に覚えきれるわけ無いかメモをとれよ、という意味言葉である

もちろんAには伝わらず、「大丈夫です」とだけ返された。

メモ、取った方が良いよ。ワンオペとかのとき、忘れちゃってもすぐ確認できるよ」と言葉を重ねると、非常に面倒そうな表情でAはメモを取り始めた。

スマホメモアプリで。

個人的には結構衝撃だった。

バイトメモって、手書きじゃないの!?の子は、スマホ普通!?

いや、でもこの店、業務中に私物スマホ触るの禁止から……注意していいよね?

「あの、手書きでお願いできる?」

「いや、スマホでいいです」

私物スマホ、触るの禁止なんだよね~…便利なのはわかるんだけど」

スマホしかないです。メモ無いです」

「じゃあ私のメモを何枚かあげるから今日はそれに書いてくれる?」

ペン無いです」

ペンはお店の使っていいよ。店長から説明あったと思うけど、メモペンは必ず持ってきてね」

「いや、俺メモとらない派なんです」

「でも覚えられないこともあると思うよ」

「全部聞いて覚えます

話が通じる気がしなかった。

たかメモをとるだけで、なぜこんなにごねるんだ。

しかも、本当に聞いたら覚えられるくらい要領のいい子ならともかく、何度言っても覚えられない癖に。

これが現代っ子か?これが、「今どきの若い者は」ってやつか!?

Aとの戦いは続いた。

何を教えてもまともにこなせないし、何を言っても聞き入れてくれない。

こちらの余裕はどんどんなくなり、なんかもう、いっそ厳しいバイト仲間たちに叱られてしまえと思った。

叱られて、最初指導担当が優しかたことに気付け。

あの時点で素直に聞いておけばとかったと後悔しろ

そろそろ自分限界だな~と思っていた矢先、別の時間帯に急な退職者が出て、Aのシフトが変わったことで指導の日々は終わった。

ちなみに、店長からは「しっかり指導してくれてたのに、欠員のせいで中途半端になってごめん」と言われたので、

決して自分指導力がなかったことでAの担当を下ろされたわけではないことは主張しておく。

自分退職まで数日と言う時に、パート主婦勢やバイト仲間と喋る機会があった。

いわく、口をそろえて「Aはまるで駄目だ」とのこと。

かなり厳しく注意を受けているらしく、店長が「辞めちゃいそうだな…」とぼやいていたのが印象に残っている。

自分が割と問題児的なポジションだったので、大人になっても「最近若いもんは」なんて言わないと思っていた。

けれど、Aを見ていると思わず言いたくなってしまう。

決して若者全員がだめなわけではないと頭ではわかっているのに。

いまごろAが何をしているのか、ふと気になることがある。

あのあと、鍛えられて戦力になったのかな。それとも、辞めてしまたかな。

自分が教えたマナーは一つくらい覚えていてくれるかな。

定職もついてなかったフリーターの言うことは信じられないかもしれないけれど、教えたことは全部社会人になってからも使うからね。

メモ、とれよ。まじで。

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