断頭台の決着 ②
自身を構成する心臓部を失い、繭が崩壊していく。
相手も今の光線で仕留めるつもりだったのうだろう、だからこそ今まで隠されきた核に刃が届いた。
お前の首を断ち切ったのは、お前が散々真似て来たラピリスの魔法だ。
『魏、ィ―――――?』
落下する赤子の首と視線が交錯する。
自身の死因さえも分からぬようなその顔を、何も言わぬまま見届けた。
そのまま重力に従って地表に落ちた頭部は、衝突の衝撃で光の粒子へと霧散していった。
《……決着ですね、じきに全てが塵に消えます》
「ああ、終わったな」
ここからさらに復活することはない、と思いたい。
安堵の息を零すとともに、俺の身体から今までみなぎっていた力が抜けていく。
気づけば赤と青の装いはいつの間にかいつものモノクロと白いマフラーに変わっていた。
「……サンキュー、ラピリス。 助かったよ」
《あれ、マスターいつもの格好に戻っちゃったんですか?》
「ああ、流石に全部出しきった。 これ以上は限界だ」
《それは不味くないですか? だって通常形態だと羽箒がなければ……》
「…………あっ」
今までは当たり前のように浮いていたが、それは今までラピリスの力を借りた状態だから出来た技だ。
慌てて袖口から羽箒の素材を探すが、既にストックは尽きている。
「…………ハク」
《なんですかね考えなしの馬鹿マスターさん》
「大丈夫、落ちても死なない距離だ。 腹くくるぞ」
《そんなんだからそんなんなんですよいつもいつもー!!》
目の前を横切った繭同様、俺たちの身体も一瞬の浮遊感ののちに落ちていく。
下は魔力をたっぷりと吸い込んだアスファルトだが、上手く受け身さえ取ればなんとかなる。
何とかならなきゃ死ぬ……だ け ――― ―――――
「あ、れ……?」
視界が赤く染まっていく、地表へ真っ逆さまへ落ちていく軌跡を赤い雫がなぞって行く。
ああそうか、そういや俺も大分無茶をしてきた。 繭を倒して気が緩んで、傷が開いたか。
《……マスター? マスター!! ちょっと、起きてくださいよマスター!!》
ハクの声がどんどん遠のいていく、応えるだけの力が湧かない。
不味い、本当に意識が……
「…………もう、本当に仕方ないなぁお兄ちゃんは」
――――――――…………
――――……
――…
「う、ぐ……」
「ら、ラピリス! 起きたか!」
「シルヴァ……揺らさないでください……頭がグワングワンする……」
シルヴァにゆすり起こされ、意識が覚醒する。
何か長い夢を見ていたような気分だ、ここはどこかのビルの屋上だろうか?
私は今まで何を……?
「っ……ブルームスターは、どうなりましたか……!?」
「決着はついたみたいだよぉ、ローレルも繭も全部いなくなっていく……」
後ろからオーキスが肩を叩き、向こうの方角を指で指す。
ちょうど廃墟が立ち並ぶ中でぽっかりと開いた空き地の上へ繭が落ちていくところだった。
半ばから真っ二つに斬り裂かれた繭はその輪郭が光の粒子に解けていく、他の魔物と同じ絶命時の消滅現象だ。
「ブルームスターはあれだね、無事みたいだぁ」
「ここからよく見えますね、あの米粒みたいな点ですか?」
「わ、我には何も見えぬ……」
「自分も見えねえっす……」
繭から零れる光の粒子に紛れて辛うじて人影らしき点が確認できる、ブルームスターだ。
しかしどういうことか、今まで宙に浮かんでいたその点は糸が切れたかのように落下を始める。
「ちょっ、何やってんですかあのバカは!!」
「待て、ラピリス! まだあの場は魔力が濃い!」
「そんな事言ってる場合ですか!!」
今だ気だるさを感じる身体に鞭打ち、シルヴァの制止を振り切ってビルを駆け降りた。
万全ではない私の速度で間に合うか? いや、間に合わせるしかない
口から零れる血を拭い、焦燥感のままに加速を続ける。
「っ…………」
空気抵抗などいつもはほとんど感じないのに、ブルームスターの墜落地点に近づくにつれて身体が軋む感覚を覚える。
シルヴァが言っていたのはこれだ、魔法少女ですら毒になるほどの魔力があの一体に漂っている。
ならその真っただ中で戦い続けたブルームスターはどうなる?
「みんなで一緒に帰るんでしょう? こんな所で間抜けな死に方だけはしないでください……!!」
頭が酷く痛む、身体の内側からじくじくと鈍い痛みが溢れ出す。
薄っすらとだが覚えている、繭の中で私は彼女に助けられた。 その恩も返さずにお別れなど断じてごめんだ。
「ブルームスター! どこですか!? まだ意識があるなら返事してください!!」
行く手を遮る廃墟群を飛び越し、壮絶な戦闘が行われた跡地に到着する。
空を見てもブルームスターの姿は見つからない、間に合わなかったのか?
そんなはずがない、あの殺しても死なないような魔法少女がこんな所で……
「ブルームスター! 黙ってると怒りますよ!!」
「―――――うるさいなぁ、キャンキャンと」
……ブルームスターのものでも、シルヴァたちのものでもない誰かの声が凛と響く。
背筋が凍り付くような冷気を孕んだその声に、なぜか私は聞き覚えがあった。
「ええと、ラピリス……だったかな? 驚いた、あの距離で間に合っちゃうんだ……まあ、私の方が早かったけど」
誰もいなかったはずのその場所に……ブルームスターを抱えた“誰か”が佇んでいた。