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スピロヘータ戦争

ライム病に悩む米国人達が注目する1944年出版の書籍『日本の秘密兵器』の第四章「スピロヘータ戦」の翻訳記事。その前に米国人達の反応を幾つか紹介したい。

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Facebook-2021/03/13

"スピロヘータ戦"-エレナ・クック(※2013年の投稿の転載)
序文
ライム病の原因微生物ボレリアは、"スピロヘータ"と呼ばれる生物学的分類上の亜属である。スピロヘータは75年以上前に兵器化されていたことが明らかになった。その知識は1944年出版の書籍から得たものである。タイトルは『日本の秘密兵器』(B.M. Newman)である。B.ニューマンは当時を代表するサイエンスライターであり、元米海軍のマラリア研究者でもあった。何十年もの間、米国を始めとするNATO諸国の公衆衛生機関は、細胞壁欠損型の病原性スピロヘータの存在を否定してきた。細胞壁をもたない微生物は、ペニシリン関連の抗生物質に対して耐性を持つ。これら抗生物質は、細菌が自身を複製する時の新たな細胞壁の形成を阻害することで正確に機能する為である。現代微生物学の教科書にあるような典型的なスピロヘータの印象的な螺旋とは対照的に、これら形態の微細なサイズと多形性は微生物を「目に見えない」ものにしていた。ライム病の歴史を研究している人達が長い間疑ってきたこと、つまりライム病の原因となるボレリアの顆粒形態やL形の壊滅的な病原性が公式に否定されてきたのは、その生物学的な疾病戦の意義に関係していることをこの第二次世界大戦期の書籍が裏付けてくれたのである。率直に言えば、ニューマンの書籍は、多くの細胞壁欠損型ボレリアが実際には兵器化されたスピロヘータであり、培養され、エアロゾル伝播に最適化されている説得力ある状況証拠を提供している。以下の小論は、ニューマンの著書の第4章にある情報に基づいている。この章のタイトルは "スピロヘータ戦争 "である。

Newman BM. Japan’s Secret Weapon. 日本の秘密兵器 (Greenleaf P, ed.). Current Publishing Co; 1944.; Chapter IV. Spirochete Warfare


奇抜な計画と悪魔的直観が狂気を産み落とす。宮川は日本製の培養物を迷宮から華北に蔓延させ、ヒトラーはポーランドへ侵攻し、アメリカ人は真珠湾で悲痛な叫びを上げることとなった。

「Amok!Amok!(イカレてる!イカレていやがる!)」

ナチスと日本がアメリカの破壊工作を共謀しているなどと真珠湾攻撃以前に指摘しても、数百万のアメリカ人には夢物語に思えた。現在、軍医総監が警鐘を鳴らす疾病戦(disease warfare)は未だ多くの人々には空想的である。現実では、1938年に宮川が東京で「細菌戦(bacterial warfare)」の報告をし、1939年にヒトラーがワルシャワへの侵略を始めていた頃、ナチスと日本の科学者はスピロヘータと(で)の戦いで協力関係にあった…ハワイで。

アメリカの支援も受けつつ、日本人は、真珠湾攻撃の少し前にハワイに輸入されたスピロヘータの対応に追われていた。目を疑うだろうが、ナチスの「医学」文献にその証拠がある。1939年出版のナチスの学術誌『Pathologie u. pathologische Anatomie(病理学と病理解剖学)』第10巻128頁に、ハワイで発生した日本の黄疸出血熱(ドイツ人は「slime fever(粘泥熱)」と呼ぶ)の症例に関する徳山氏の報告がある。徳山氏の報告では死亡率44%であった。その道の権威に訊けば、この死亡率の高さは紛れもなく粘泥熱スピロヘータ日本株だと分かるだろう。

熱帯病研究機関のラボにいるスピロヘータ専門家に相談するとしよう。この専門家は当然忙しい。だが本来あるべき程の、或いはこの先の未来ほどの忙しさでもない。だから現状把握に充分な時間を割いてくれる。

「スピロヘータを捕えて識別するのは専門家でも困難だ」と専門家は言う。「では、世界最悪のゴロツキ共のギャラリーから何枚か写真をお見せしようか」

既に机の上に開かれていた大きなマニュアルの中心部の頁を見せる。銀色の繊細な螺旋状の糸が3本、上品に描かれている。梅毒のクリーチャーだ。この螺旋が緊密に巻かれた小さなクリーチャーは両端が尖っていて、往復運動に適している。

「バクテリアなのか?」と尋ねる。

「いや、スピロヘータに詳しい日本人によれば、バクテリアと同じ下等な植物性生物で、つまり真菌の一種だ。日本人は、スピロヘータはバクテリアと近縁だがバクテリアではなく、だがバクテリアには“螺旋型”のものもあると言う。バクテリアと同じくスピロヘータは中央で横断分裂して増殖する。だが日本人は、スピロヘータは自身で大量の微細顆粒に分裂し、不可視のウイルス分子に匹敵して微小な顆粒のそれぞれから新たなスピロヘータが再び生まれると考えている。バクテリアにこんな奇天烈な増殖法はないようだ。一部の金属化合物、例えばヒ素や水銀、ビスマスやアンチモンはバクテリアよりスピロヘータに特に有効だ。だがこれら金属化合物でも一部のスピロヘータには効果がない。例えば粘泥熱や黄疸出血熱の Leptospira icterohaemorrhagiae だ。日本人によればこのスピロヘータに有効な薬剤は存在しない。」

図面提供者の謝辞には野口英世の名がある。

「これは梅毒やスピロヘータ関連の日本製のマニュアルなのか?」

「そんなわけはない!米陸海軍や公衆衛生局の医療専門家や検査技師も皆使うアメリカ製のマニュアルだ。日本人は偶々この手のことに長けているのだ。」

専門家は”スピロヘータの研究法、同定法、培養法、伝播”という章の冒頭に目を戻した。

「ほら!色々なスピロヘータの主だった特徴が図示されている。」専門家は述べる。

「これが世界中のスピロヘータだ。梅毒スピロヘータに、ほぼ見分けがつかないフランベジアや熱帯梅毒のスピロヘータ、鼠毒(rat-poison fever)の螺旋菌に、アフリカとヨーロッパの回帰熱スピロヘータだ。この図も日本の作品のコピーなんだ。反対側の頁には分類表がある。これも日本のアイデアから来ている。この章全部が日本の報告の意訳に毛が生えたようなものだ。」

稲田と伊東が粘泥熱スピロヘータの優れた研究者だと分かる。このスピロヘータの繊細な日本製の写真を凝視すると、はじめは鮮やかな点の連鎖に見えるが、実際はスレンダーな糸であり、螺旋の形はビーズ細工を思わせる。糸は一端か両端が湾曲するか鉤状になっている。生きる螺旋はフックの回転運動で推進する。日本人が発見した通りだ。

日本の技師達は野口からヒントを得て、スピロヘータを特殊なゼリーの上で増殖させた。日本の報告だと、モルモットや人間の血肉を与えて成長させれば、病原性や殺傷力を高めることができる。

日本では長らく予防的ワクチンが使用された。だが日本人以外の研究者にそんなワクチンは作製できない。伝染病流行の予防的スピロヘータワクチンの使用法に通じているのは日本人だけのようだ。

井戸、伊東、和邇らは七日疫の症例から、粘泥熱より病原性の劣る類似のスピロヘータを発見した。神品、鹽澤、北山らは秋疫からより強毒性の菌株を発見した。

稲田の報告では、黄疸出血熱スピロヘータの特殊な培養物からウイルス様の不可視な微粒子やスピロヘータの断片を得る方法を日本人は把握している。言うには、これらスピロヘータを創造する無限小の断片を含む液滴を空気中や水中、泥土や湿潤土に撒けば動物や人間に感染させられる。この報告にある通りの伝染病を流行させる方法は日本国外では試されていない...日本人以外の科学者が知る限りは、だが。

「このグループの生息範囲は日本だけではないのか?」

「粘泥熱はエジプト遠征中のナポレオン軍を壊滅させた。明らかに日本だけが発生源の特殊な病原株を除けば、粘泥熱や関連疾患のスピロヘータは西アフリカやコンゴ、北アフリカ沿岸、オランダにロシアのバルカン半島など世界中に分布している。一次大戦中の西部戦線ではフランダースやイタリアの泥の塹壕で粘泥熱が発生した。最近はヨーロッパ全土で感染が起こっている。二次大戦の直前にハワイと米国本土でスピロヘータ症が勃発して公衆衛生局の注目を集めた。1941年の JAMA 誌には『レプトスピラ症:公衆衛生の危機』というタイトルの論文が掲載された。レプトスピラ症とは、粘泥熱や七日疫と秋疫、後は日本人だけが知っている明らかな関連疾患を含めた、一群のスピロヘータが原因となる感染症の総称だ。」

「粘泥熱の突然の流行には日本人が何かしら絡んでいると思うか?」

「いちいち広める必要などない。日本人が何もしなくても広がっている。さながらカブトムシのように、だ。アメリカの専門家はこの脅威にやっと気付き始めたというのが一般論だろうが、誰も知らなかっただけでずっとそこにいた筈だ。勿論、日本人のせいにもできる。状況証拠で有罪にできそうなものだ。中国、インドシナ、オランダ領東インド、マレー諸国に日本軍が侵攻する直前、あるいはインドやオーストラリア上陸の少し前、これら地域で粘泥熱の流行が初めて報告された。カルカッタの症例は死亡率の高さ…60%…から考えて日本特有のタイプだった。1939年のハワイも同じだ。1938年のカリフォルニアで突然、致死的な動物伝染病が発生して大量の犬が犠牲になった。解剖した67頭の大半から粘泥熱スピロヘータが見つかった。とある獣医師が粘泥熱スピロヘータの通称”カリフォルニア犬株”に事故で感染し、典型的な黄疸出血熱を発症したが一命を取り留めた。その後のカリフォルニアの症例は極々僅かとはいえ、スピロヘータは既にネズミやハツカネズミ、ジリス、他あらゆる野生の齧歯類の体内に偏在している。だが予想される最悪の事態は、まさに腺ペストのように時々1~2例の発生があることだ。ペスト桿菌は数年前に東洋からカリフォルニアに事故で上陸し、今となっては西部の多くの州で野生の齧歯類に蔓延している。同じような事故でも死者はあまり出ていない。ペスト様の野兎病(兎熱(rabbit fever))桿菌がどういう訳か日本から事故で侵入し、最初にカリフォルニアのチュレア郡で発見された。それ以来、この病原体は全米各州で兎や他の野生動物に感染し、また何百例もの人間が発症している。心配はいらない、どうせ為す術もない。病原体は日本のカブトムシみたいに出回っている。
1941年、フィラデルフィア近郊の小川で若者7人が川遊びをした。数日後に全員粘泥熱で昏倒したが、亡くなったのは1人だけだった。『この小川に日本人が近付いたんだ』とツッコむだろうが、スピロヘータはアメリカで繁殖し、感染ネズミの腎臓排泄物から水中に拡散した可能性が高い。ニュージャージー、コネチカット、ニューヨークの報告もある。
1942年の血液検査の結果から、ニューヨーク市では軽症の粘泥熱がここ数年で広がったに違いない。勿論、ニューヨークには日本人疫学者が何年も滞在していた以上、完全な言い掛かりを吹っ掛けることもできる。ロックフェラー医学研究所に数年間在籍した天才野口英世の名誉を毀損する事態にもなり兼ねない。知っての通り野口はとりわけ献身的で、スピロヘータや多くの病原体との闘いに加勢する為だけに渡米してきた男だ。」

「献身的な日本人の支援が必要だった理由は?」

「アメリカの関心が別の所にある。イギリスもそうだ。二次大戦の開戦直前、イングランドとスコットランド全域で下水道労働者、炭鉱労働者、水産業者、そして食肉業者の間で粘泥熱が多いことが分かった。勿論、ナチスや日本人がイギリスのネズミにどうにか感染させたんだとも言える。粘泥熱が公衆衛生上の脅威になったのはつい最近の話だ。イギリス人が数年前に発生した大量の黄疸症例からスピロヘータを探していれば、その時点で脅威は暴かれただろうし、何だかんだ成功裏に対策されただろう。気分と警戒心が向いた時のイギリスやアメリカの科学者が真菌とウイルス研究で挙げた成果は分かるだろう。ペニシリンはイングランドで発見された。今はアメリカで大量生産されている。数年前、ロックフェラー研究所が、日本人の支援を得ずに大規模な黄熱病調査を開始した。アメリカ医学研究所の卓越した専門家達による多大な奮闘の甲斐もあり、世界各国に先駆けて黄熱予防ワクチンを開発した。今やすべての兵隊はこのワクチンに守られている。こんなワクチンは恐らく日本にもない筈だ。」

「だが日本には粘泥熱用の一般予防ワクチンがある。こちらにはない。」

「アメリカで研究が進んでいる。気楽に構えていい。 」

「だがその間の粘泥熱の治療はどうする?」

「日本人はこの病気の治療には何もできないと言う。」

「一般に致死的な病気なのか?」

「日本株スピロヘータは非常に致死的だ。日本産スピロヘータは日本人も日本人以外も100人中40~60人を殺害する。アフリカとヨーロッパの粘泥熱の致死率は非常に低く、2~10、あるいは15%ほどだ。だが開戦直前に流行したオランダでは100人中32人が死亡した。この致死率はこれまでの中で日本の病原株の特徴に一番近い。一次大戦中のフランダースの塹壕では致死率は僅か5%だった。だが日本人が言うには、スピロヘータは日本株と区別できなかったそうだ。」

「彼らも現場にいたのか? 」

「いや、コンサルで呼ばれたのだ。東京にスピロヘータを輸送して一番の専門家の見解も聞いた。返答は、病原性以外は明らかに同一だった。」

「スピロヘータの犠牲者はどんな損傷を受ける?」

「日本人によれば、日本の典型的な黄疸出血熱(粘泥熱)の場合、約1週間から2週間の体内での潜伏期間中に増殖するという。そして突然の硬直発作、高熱に頭痛、痙攣性嘔吐に見舞われる。殆どの場合すぐに衰弱する。発症から数日後に黄疸症状で皮膚が黄変ないし黄緑色となる。日本人以外の軽症粘泥熱には黄疸が全くない場合もある。時に出血症状、特に腸出血が生じる。脳の被膜が侵された場合は髄膜炎に発展する。肝臓は通例、深刻な傷害を受ける。本格的な回復期に入るまでに、2度目の発熱と再発性の全身症状を経験しなければならない。薬の助けがなければロクに睡眠も摂れず、頻繁にせん妄が起こる。」

「サルファ剤はダメなのか? 」

「シンプルに、スピロヘータには効かない。」

「ペニシリンはどうだ?新聞がどんな奇跡の薬剤も太刀打ちできない所に効くと報じていたが。」

ペニシリンがサルファ剤の効かない一部の細菌感染症に効くことを大袈裟に宣伝しているだけだ。日本人の言う通り、スピロヘータはバクテリアではない。そして万能薬には程遠いことをイメージしてもらう為に、日本人は赤痢桿菌などのバクテリアをサルファ剤で満たした培地で培養している。こうすると、病原性が増幅する上に完全なサルファ剤耐性株が得られるのだ。一番の奇跡的な新薬が効かないバクテリアには他にも結核菌と癩菌がある。最悪のペストには未だ著効薬は存在しない。」

「粘泥熱の感染経路は?」

「ネズミ、ハツカネズミ、バンディクート、イヌ、キツネ、ヒョウなどの動物体内で感染増殖する。腎臓排泄物が土壌や水、食料などに混入し、感染動物が遭遇するものは何でも汚染されてしまう。研究所職員は経皮感染予防にゴム手袋の着用が必須であり、指で目に触れてはならない。スピロヘータは水中でも、泥やヘドロなど湿った環境でも数か月間、病原性を維持したまま生存する。1936年のドイツで発生した700症例を辿ると浴場に行き着いた。ロシアでは一部の沼地がスピロヘータで徹底的に汚染されており、間違いなく齧歯類の排泄物のせいだ。屠殺場や魚市場では、ネズミが出入りする滑った床面が感染源になる場合がある。湿った鉱山、軍事塹壕、長雨の後の農地、用水路の近辺でも集団感染が起こる。」

「疫病の制圧法は?」

「流行源の地域で齧歯類の撲滅と、恐らくは犬の全頭殺処分だ。用水路や汚染された遊泳プール、流速の遅い河川、湿った鉱山、下水道、塹壕には近寄らないことが一番だ。ネズミが触れた食品は避けること。スピロヘータで汚染された水は飲まない。数年前のリスボンでの流行は公共の噴水に潜んでいたスピロヘータで始まった。沼地に近寄らず、ネズミや野ネズミ、野生の齧歯類の排泄物で汚染された泥の中で作業しないことだ。」

「だいぶ網羅しているんだな?」

「スピロヘータもそうだ。開戦直前のオーストラリアで、長雨の後に農業従事者(収穫者、サトウキビ刈、農民)の間で七日疫と秋疫が流行した。」

「要は日本の軽症型も蔓延しているということか?どうやらこのマニュアルは暗に七日疫と秋疫は日本限定だと言っているようだが。」

「確実なことは誰にも分からない。水面下で議論が続いている。日本人の追及を続けたいなら、では何故彼等は病原株ではなく非病原株を蔓延させる必要があるのか?確かに実験の可能性はある…推測に耽りたければ、な。菌株間の殆ど気付けないような違いを熟知しているのは日本人だけだし、それは時に専門家同士でも(表面上)一致しない。」

「では粘泥熱の診断は簡単ではない?」

「1917年に粘泥熱が塹壕で発生した時、疫学者は真っ先に黄熱を疑った。高熱と黄疸、衰弱と嘔吐に肝傷害だ。時に医師が肝臓の梅毒と考える極端な例もある。硬直、発熱、肝傷害などの症状からマラリアや、黒水病などの重篤な再発性マラリアが疑われる場合もある。医師へ粘泥熱の鑑別診断法の教育も提案されている。もっと多くの症例が予想されるが、恐らくそう多くはない。」

「帰還兵が新株を持ち込む可能性は?」

「そう考える関係者もいる。だがマラリアや回帰熱、赤痢、フィラリア症、カラ・アザール(内臓リーシュマニア)、ハンセン病、皮膚や肺と脳を侵す原因不明の真菌症など、もっと巨大な脅威が沢山ある。既に医師不足だ。今後、人手不足はもっと深刻になるだろう。医学部に入学できる生徒が少ないのだ。」

「何故?」

「この監督は私の管轄外だ。自力で見出すしかない。それでもほぼ心配はいらない。疫病がいつ何時発生しようと効率的に対処できる。粘泥熱はナポレオンの頃から知られているし、医学研究や何かしら注意不足が原因で亡くなった数はそう多くない。」

「だがスピロヘータは蔓延している!」

「極々ゆっくりと、だ。最近は急速に蔓延しているようだが。」

「終戦後に日本の専門家に相談すればいい。親身に支援してくれるだろう。」

「確かに。グスタフ・エクスタインが出版した野口英世の伝記には世界に奉仕した日本人科学者に関する400頁がある。日本人科学者はどこの国でも同じだ。彼等は親身の極致だ。また、デ・クリーフの『Microbe Hunters(病原微生物ハンター)』では、日本人技師達の技術力や身の毛のよだつ努力が窺い知れる。同書の『エーリッヒ博士の魔法の弾丸』の章には、エーリッヒが”日本人レベルの努力と忍耐を要する仕事は日本人に頼らねばならなかった”と指摘されている。繊細で退屈な梅毒スピロヘータの作業を依頼するエーリッヒの日本人スタッフの選別が賢明でなければ、梅毒治療薬のヒ素化合物である”606号”、通称”サルバルサン”の発見には至らなかっただろう。志賀、秦などの日本人は欠かせない人材だった。皮膚や骨、心臓、脳組織を腐敗させる危険で捉え所のないスピロヘータの培養や感染実験で、無二の機敏さと能力、正確性に、とりわけ忍耐強さを持ち合わせていたからだ。」

「スピロヘータが特に魅力的に映ったのだろうか?」

「加えて諦めが悪い。1940年、藤森正雄が東京帝国大学の実験室で長年培養された梅毒スピロヘータの感染実験の成功を報告した。野口が小規模に始めた培養そのものであることは疑いない。藤森は二種類の寄生虫をモルモットの同一個体に同時感染させた場合の効果を試した。日本人は一方の寄生虫が相方の寄生虫の致死的作用を促進することを発見し、藤森は梅毒菌と併存したジフテリア菌の病原性が強化されることを実証した。日本人は時々、スピロヘータを空気中に散布したり、動物やボランティアの眼球に噴霧して感染させたりと、とんでもない実験を思いつく。こうして感染が成立する。日本人技師達はスピロヘータを含めた致死的な病原体の培養以外にも、危険で恐ろしい病原体の大量生産にも卓越した成功を収めてきた。日本の感染理論や報告は、全体的に日本以外の研究所の先を行っている。日本の専門家が主張する一見空想染みた新たな感染法の一部は、最初の主張から数年を経てからアメリカの研究所の調査で真実性が立証されている。従って、仮にスピロヘータ戦争の可能性について推測を深めたいなら、日本人は特殊培養したスピロヘータを込めた液滴の噴霧で、粘泥熱や梅毒、フランベジア、鼠毒、回帰熱などの凡有るスピロヘータ病を蔓延させる方法に精通しているのは間違いない。つまり、感染した蚤や鼠、或いは豹を飛行機から落とすなんて大衆作家が言うような方法は必要ない。国家全域や大陸全土を感染させるほどのスピロヘータの生産には精々数千円、家庭で作業すれば恐らく僅か数円だろう。事態の発覚と軍事的報復を避けつつ秘密裡にスピロヘータを放出する方法など、数時間この課題に集中すれば、恐らく自力で数百もの隠密技術を思い付く。そうして放出されたスピロヘータや命令に忠実なスーパー・スピロヘータは埃や水中、湿った土壌、泥や食物の中で生き続けるだろう。そして誰も気付かない。感染症や伝染病が流行するのは敵が撤退して数日、数週間、或いは数か月後の話だ。告発や逆告訴が新聞の紙面や世間の雰囲気を埋め尽くすかもしれない。例えば、オランダでの粘泥熱流行や東インド諸島での大流行を巡ってオランダ人はナチスや日本までも追及することになる。オランダの浴場からドイツの浴場へと意図的に粘泥熱を蔓延させ、2,3年の内に数千人の粘泥熱被害を生み出したオランダ人をナチスは非難するかもしれない。日本の粘泥熱がハワイやカリフォルニア、ペンシルバニアやニューヨークに意図的に持ち込まれた可能性を証明か、或いは反証できるだろうか?知り得る限り、日本の工作員がカリフォルニアからニューヨーク、カナダからメキシコへのカブトムシの行進を密かに早めた可能性がある。…数匹のカブトムシを捕えては放つだけで全くの「事故」だ。だが自然界が既に大陸中へ制御不能な形で蔓延させているものを、敵がわざわざ推進する必要があるだろうか?日本人の元々の計画は、最低でも数百万人のアメリカ人を大陸に残し、奴隷利用することだったろうと思う。」

「スピロヘータは実際にどこかで重大な殺戮をしているだろうか?」

「粘泥熱は数千人、梅毒やフランベジアは数万人、回帰熱は数百万と言わないまでも数十万人単位は殺害している。」

「数十万、恐らく数百万…も、どこで?」

「現在のアフリカでは、ダニとシラミ、ナンキンムシを介して数千万人に蔓延している。回帰熱スピロヘータはマラリアやトリパノソーマ症(睡眠病)にほぼ並ぶ重要な殺戮者だ。暗黒大陸は依然として暗く、死の影に覆われている…全景に影を落とす日本人工作員もいないのに、だ。万が一アフリカの病気全ての治療が効率化されたら、アフリカ大陸全土が一つの大病院と化し、世界中の医師を招集しても賄い切れないだろう。

「回帰熱の症状とは? 」

「発症は突発的で、高熱と激しい頭痛が伴う。数日後に体温が突然低下して患者は卒倒し、その4~8日後に再び体温が急上昇する。発熱発作が10回ほど繰り返される。黄疸が黄熱や粘泥熱の場合もあり、体温の乱降下が混乱の元となって医師がマラリアやブルセラ症を疑うこともある。他にもデング熱(骨折熱)やチフス等、大流行の際には併発例のある疾患と誤診する可能性もある。梅毒がない中で症例の10%がワッセルマン反応陽性を示し、50~60%という声もある。このスピロヘータは時に駆梅用のヒ素剤で退治される。」

「致命的な場合もある?」

「スピロヘータの病原性は幅広い。数%の被害の場合もあれば、死亡率が75%に達することもある。西アフリカでの最近数年間に及ぶ流行では、モロッコとアルジェからニジェールを下ってセネガルとフランス領スーダン、南下してゴールドコーストとナイジェリアに至るまで、スピロヘータの猛威で全人口10%が殺された。この流行一度で恐らく100万人の原住民が死亡した。インドや華北の最近の流行はそれほど悲惨ではなかった。一次大戦期のセルビアでは、感染者だけなら数万人を超えたが、死亡率は低かった…正確な数値は誰にも分からない。チフスが同時流行していたからな。この病気はロシアや欧州各地域でも数世紀にわたって断続的に流行してきた。

1870年、アメリカで数千人、特にフィラデルフィアでは1,000人の患者が発生したが、それ以来東部では散発的にしか発生していない。カリフォルニアやテキサスでは時々数十件の症例があるが、そこに棲息するマダニがスピロヘータを5,6年以上の間保菌し、人に伝染させはしないが子孫に受け継ぐ。これが数世代にわたって継代されるが、死亡率は高くない。」

「アフリカから新株が持ち込まれたら?」

「恐らく既に起こっている。だが多くの人間は感染することはないだろう。マダニはテキサス中部のような洞窟や、カリフォルニアの山麓のような標高の高い所の草葉に潜んでいる。マダニは何年も食料や水がない状況でも辛抱強く待っているが、犠牲者はなかなか現れない。」

「日本人が感染マダニを落下させた?」

「無駄な努力だ。マダニは簡単に発見されて対処される。スピロヘータを拡散させる別の方法を模索する方法が簡単だろう。どんな技術があるかは推して知るべし、だ。もしかすると、日本人は高度な回帰熱戦を開発していないかもしれない。そして当然だがフランベジアの方がベターだ。新規の秘密兵器を探し回るなら、だが。」

「熱帯梅毒? 」

「所謂。C.S.バトラー提督は、フランベジアは梅毒の一種であり、梅毒スピロヘータは熱帯地方の黒人種の体内を通過すると病原性の一部を失う為にフランベジアは熱帯地方に限定されるのだといつも強弁されている。日本人は梅毒がフランベジアの病原性を向上させたものと考えたいようだ。ある意味、フランベジアは梅毒より疾病戦に適しているが、どちらのタイプのスピロヘータも容易く蔓延させられる。実際の所、ケニアとタンザニア、ウガンダでフランベジアがまさに今野火の如く広がる光景を見て、疾病戦の支持者達がフランベジアスピロヘータの可能性に歓喜している所だ。哀れな原住民達は、白人が不可解な理由で自分達にスピロヘータ戦を仕掛けていると考えているに違いない。白人が伝染病を食い止められることも、大半の症例を治癒できることも、だがそれを望んでいないことも、その心算もないことも原住民達は知っている。」

「フランベジアの感染経路は?」

「フランベジアが梅毒より疾病戦に最適な理由は、フランベジアスピロヘータはハエや、感染物質との接触、性交に止まらないあらゆる個人的接触で蔓延する為だ。つまり、この病気は伝染性だ。アフリカから連行された奴隷達には、フランベジアの傷口の分泌物を取り、このスピロヘータ搭載の物質を自分の子供に塗り付ける習慣があった。この発想は、明らかに大人になって罹る感染症へのある種の免疫を付与する為のものだった。彼等は時に自家移植も行った。まず出現した傷口がたった一か所なら、その滲出物を全身に塗り付けて全身感染を起こせば抵抗力が高まると考えられていた。だが彼等は発端と、スピロヘータが骨や時に大動脈の深部で数年間密に活動した後に襲い来る結末とを関連付けられなかった。

スピロヘータが(通常は軽い擦り傷の)皮膚に侵入してから3~4週間後、犠牲者は消化器障害、関節痛、夜間頭痛、不規則な発熱に悩まされる。その後、感染部位から吹き出物が出現し、数日以内にエンドウ豆サイズに成長する。結節の周囲には炎症性の発赤がある。結節の皮膚はひび割れ、黄色滲出物が飛散する。出血が伴うこともある。病変形成が足や臀部のような圧力のかかる身体部位でなければ痛みは伴わない。この病変をラズベリーや裏返しのイチジクに譬える記述が多い。この俗に言う”母フランベジア”は直径1インチから2インチに達する例もある。初期病変は乾燥の有無を問わず瘢痕だけを残す。いずれの場合も、最初の症状から2~3か月後に関節痛と頭痛が強くなり、ラズベリー様の結節が全身に多数発生する。続いて数か月や数年の間に、病変が次々と現われては消える。数年後にスピロヘータが口蓋や鼻、時に眼球の骨を腐敗させることがある。

日本の高橋らが梅毒とフランベジアの経過に関する入念な比較研究を実施した。梅毒の方が大動脈を侵す例が多い。両疾患が同時に同一人物を襲うことがある。どちらもワッセルマン反応は陽性を示す。」

「フランベジアの症例が出始めたら、梅毒とどう区別するのか?」

「治療に関する限りその問題は型通りだ。ハンセン病や東洋瘤腫(皮膚リーシュマニア)、皮膚結核を除外したら、梅毒と同じくヒ素剤による一連の治療を開始する。ワッセルマン反応の陽性が指針になる。フランベジアは梅毒に比べて簡単に治療されるが、中には難治性で再発する例もある。」

「温帯地域で流行する危険性はあるか?」

「意図的にスピロヘータを散布しない限りは心配ない。その場合でもフランベジアは清潔で通常の衛生上の注意が行き届いている場所では時間の経過とともに消失するだろう。未治療の症例や潜伏患者が感染を広げるリスクはある。適切な治療を施せば、アフリカ、熱帯アメリカ、西インド諸島、ハイチ、マレー諸国、シャム国(タイ)、オランダ領東インド諸島、ビルマ、インドシナ、フィジー諸島、サモア、フィリピン、他太平洋の島々からフランベジアは根絶されるだろう。中国やインド、日本では殆ど例がない。」

「ではハイチ、アメリカ領サモア、フィリピンでフランベジアが流行したのか?」

「ハイチだけで数年間、年間40万人の患者に治療を施した。」

「何故止めた?」

「治療には金がかかるし、他の問題もあった。それに政治も絡んでくる。それに、フランベジアの治療を始めると、マラリアや細菌性赤痢やアメーバ赤痢といった腸の病気に進むことが予想される。」

「フランベジアなどの病気は人々を衰弱させる?」

「それは明らかだろう。 」

「もしここでこれらの病気が発生すれば、効率的かつ迅速に対処できるだろう」。

「そう豪語する。だがマラリアのような一部の疾患は我国で50年前より多くの犠牲者を出している。」

「だがこれらは軍事問題ではないのか?報告では、フィリピンで我々を打ち負かしたのは日本軍ではなく病気だ。」

「書類上は軍事問題だ。紙面上では、大金を投じて多くの人材を疫学調査に送れば、フィリピンからフランベジアやマラリアすら一掃できるだろう。」

「なら何故これら制御可能な疾患が数年前のフィリピンでは制御されなかった?そうすれば民衆は自由を求めて最大限の活力で戦えただろうに。」
 
「その監督は私の管轄外だ。」

「こうした過失がどれだけの命を犠牲にしたというのか?」

「フィリピンだけで数十万の死者と数百万の被害者がわずか5年の内に出ている。この場の状況に関して意見するつもりはない。私は自分の将来を考えねばならない。」

だが人口16,000,000(1,600万)に対するこの数字は、戦争の死傷者が実質的に取るに足らないことを意味する。

「防疫は金がかかるし、今以上の医師と技師が必要だ。」

「では日本人はこれを把握しているのか?」

「それは我々と同じく彼等にも明白だ。だから恐らく日本人は細菌戦を使用しないと思う…軍医総監殿には言葉を返すようだが。彼等には病気を蔓延させる必要性がない。既に制御不能で、事実上制圧できないものだ。」

「だが彼等は病原体の新しい蔓延法に通じているし、私達が培養できないスピロヘータの培養ができる。」

「野口とその後継者は大嘘吐きだ。或いはそのどちらか、だ。」

「どういう意味だ? 」

「最近、アメリカの科学者がスピロヘータ培養法に関する日本の報告を確認しようと考えた。フランベジアや梅毒スピロヘータは野口や彼の同僚、後継者達が開発したゼリーの上で培養可能だとされる。だが日本の指示に忠実に従ってもそんなゼリー上でスピロヘータは一切成長しない。本質的情報が日本人に隠蔽されているに違いない。だが野口の深い献身がそんな秘密主義を容認したとは信じ難い。野口には世界観があった。」

「だが日本の技術には何か問題があるように思えるが?」

「野口でさえそうだ。だが天才は過ちを犯すものだ。それに私は偉大な恩人を中傷しているわけではない。」

「斬新でエキサイティングな培養法と感染法を発見した後の野口はその制御法の開発を考えたことがあっただろうか?」

「彼はずっと何を目指していたと思う?当然だが病気の制御を目指していた。」

「彼はそこに到達したのか? 」

「野口が築いた礎の上にアメリカやイギリスの科学者による黄熱ワクチンがある。だが彼が犯した黄熱の誤りは認めねばならない。黄熱の原因は粘泥熱スピロヘータに類縁のスピロヘータだと譲らなかった。勿論、今では黄熱がウイルス疾患だと分かっている。」

「野口はウイルスの存在を知らなかったのか?彼の時代より前だったかと思うが。」

「そんなことはない。彼は狂犬病(恐水病)ウイルスの培養に初めて貢献した人物だ。彼の後を継いだ日本の科学者達は狂犬病ウイルスを大量生産している。だから30年前、野口はこちらに来て、ロックフェラー研究所に小児麻痺ウイルスの培養法を伝えたんだ」。

「彼はこの病気の制御に貢献したのだろうか? 」

「ウイルス培養とはつまり感染を伝播させる力だ。サルのような実験動物に一度感染させれば、自然感染を制御する方法の会得も始められる。」

「”ソドク”スピロヘータはどうだ?日本で培養されたことはあるのか?」

「二木、高木(逸麿)、谷口(腆二)、大角(眞八)が1917年に培養の報告をしている。彼等も本質的情報を隠していたのかもしれない。この病気は当初日本限定だと思われていたが、最近アメリカのあちらこちらで発生し始めた。そこでアメリカの研究者達が最近スピロヘータの培養を試みたが、成功しなかった。」

「”ソドク”とは何だろうか?」

「”ソ”は日本語の『鼠』、”ドク”は『毒』を意味する。スピロヘータは感染したネズミ、ネコ、バンディクート、イヌに存在し、通常これらの動物に咬まれることで人間に感染する。狂犬病と混同してはならない。狂犬病の死亡率は、パスツール法の対策なく発病した場合、動物でも人間でも100%だ。鼠毒の死亡率は、日本の三宅によれば、未治療で僅か10%程度である。死亡率を低下させるには駆梅法のヒ素剤が有用だ。パスツールの狂犬病に対する免疫増強法は役に立たない。パスツールの予防ワクチン投与後に犬などの動物に咬まれて死亡した例がこの事実で説明できるかもしれない。ワシントンD.C.における最近の狂犬病大流行では、大型犬が女性に裂傷被害を起こした。彼女は迅速な手当を受けたが、数週間後に亡くなった。ここ数年間でアメリカ国内の至る地域で鼠毒の感染例が報告されていたが、誰も鼠毒を考えなかった。」

「狂犬病ではウイルスは遅発性であり、咬まれてから何週間も症状が出ない場合がある。鼠毒もそうなのか?」

「二木ら日本の研究者によれば、その場合もある。スピロヘータの潜伏期間は数日から6週間の範囲にある。症状の発現は突発的である。体温は急速に上昇し、被害者はほぼ間を置かずに衰弱する。関節に激痛が走り、一部の狂犬病のように麻痺症状が出る場合もある。最初の危機を乗り越えれば熱は下がる。その後数日間はほぼ平熱が続くが、未治療の場合のみ痙攣発作が生じる。こうして途切れることなく危機が恐らく数か月続く。」

「これは回帰熱に似ていないか? 」

「その通りだ。だが被害者の血液を白ネズミに注射すれば鑑別できる。Ozeki によれば、鼠毒なら1~2か月で鼠は腹部や鼻、目の周囲で脱毛するという。」

「顕微鏡でスピロヘータを見ることはできないのか?」

「専門家なら最初の数日以内にスピロヘータを探そうと思えば可能性はある。スピロヘータはすぐに血液から消える。この国でスピロヘータを観測できた者は殆どいない。普通の医師や検査技師には何を探すべきかもわからないだろう。」

「この国で発生するまでは日本限定だったのか?」

「鼠毒は鼠がいる所なら世界中どこでもある。だが最初の症例は1924年にアメリカで発見された。何年もの間、症例が見過ごされてきた証拠もある。日本では鼠の咬傷被害が他の地域より多く、また有害に見えない動物のおよそ25%がスピロヘータを保有している。日本の一部地域ではモグラの50%以上が保有者だ。山本は猫もまた保有者だと信じ、他の研究者達はリス、イタチ、フェレットと共に犬も感染源だと信じている。ベネズエラのカラカス地方の鼠は10%が感染状態であり、1933年のトゥーロンでフランスの軍艦に乗っていた100匹の鼠の裡、約20匹がスピロヘータを保有していた。」

「この国の動物はどうなのか?」

「調査が実施されていない。単発の研究だと、犬や鼠、白鼠が保有者だと判明している。アメリカ領土や旧領土に関する信頼性の高い唯一の情報源は日本からのものだけである。二次大戦直前、日本人はフィリピンで鼠毒研究をしていた。」

「鼠毒を広げる新しい奇妙な方法を見つけたのだろう。」

「いかにも、だ。口から…つまりスピロヘータは口や鼻、呼吸器、消化管などの粘膜を突き進むことができる。この発見は後の研究で確認され、またあらゆるスピロヘータが眼球から簡単に侵入することに疑いの余地がなくなった。だから実験室での感染事故が起こった。こうしてヒントを得た所でインドのハンセン病患者を調べた所、鼠毒スピロヘータが数人の鼻の中から見つかった。まさにこのスピロヘータ達はボランティアや実験動物、とくにモルモットに感染するほどの病原性を持っていた。明らかにスピロヘータは万能だ。ある経路が駄目なら別の経路で侵入してくる。思うに、日本人は自然には到底太刀打ちできないし、その必要もないと悟っている。」

「このマニュアルはそんな結論を強調しているのか?」

「疾病戦については言及すらない。その必要があるだろうか?それにこのマニュアルは6年近く前のものだ。」

「1943年出版だ。 」

「1938年版が1943年に再版された。」

「この5,6年で大きな進展はなかったのか?」

「改訂するほどではない。古典的な疫病は未だ現役だ。戦時中であることも忘れてはならない。新版の出版は金も時間も労力もかかる。急ぎの課題もある。」

「日本人は何故鼠毒の研究にフィリピンに行く必要があったのか?自国に沢山スピロヘータがいるのに?」

「野口には慈愛に満ちた世界観があった。彼の追随者は当然ながら同じ展望を広げようとする。東条は野口から多くを学んだはずだ。最初の東京への爆撃の時に、日本の未来は遅かれ早かれ野口の信奉者達のような実利的で勤勉な手に委ねられると間違いなく東条は予感し始めたはずだ。日本人含む全ての疫学者は、自然界が秘密裡に、だが公然と仕掛ける稲妻という攻撃手段への敬意を早々に抱く。この自然界の兵器を研究し、その対抗手段を得ることで人類の為の防壁を築こうとするだろう。この兵器は実質的に無限大であり、確実に測りきれない潜在力を熟知する彼等は、その暴発を恐れて敢えて利用することなどないだろう。人間の力など無くとも、自然界は恐竜やドードーなどの絶滅種と共に人類の化石化をもちらつかせている。」

「オリゴダイナミック戦では、狂奔するピグミー達が神々の稲妻を解き放つかもしれない。」

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