誤情報による民意は本当に「民意」か──自民党の先生たちがブレクジットの轍を踏まないために
SNSによる支持は偽情報による支持も含まれる?
ここに時事通信の記事がある。主に下記のような内容だ。
SNSや切り抜き動画の偽情報を、35%の人が事実誤認
参院選で伸びたのは国民民主と参政党、逆に議席を落としたのは老舗政党
投票者のうち46.9%がSNSを参考にした
参考にした層の投票先は1位が参政党、2位が国民民主党
参考にしなかった層の1位は自民、2位が立憲
参院選の間に広まった偽情報を59.7%の人が見、35.3%が事実だと誤解、11.2%の人が会話やSNSで拡散
ここから推察されるのは、「SNSや切り抜き動画は党勢拡大には効果的だが、誤情報による支持も含まれるのではないか?」ということだ。
自民党はショート動画やSNS活用において後手に回ったため、参院選で劣勢を余儀なくされたという見方もある。しかし実際、新政党のように切り抜きショート動画を活用できたかは疑問だ。
なぜなら老舗政党として、誤った情報が拡散される状況に乗っかれば、党の信頼に大きく関わるからだ。
企業などでも、新興企業の軽いノリを大企業がやると叩かれてしまう場面はよくある。
神谷代表が「外国人受け入れ」へ方向転換?
最近Xで、興味深い話題があった。
参政党の神谷代表が、とあるYouTube番組で「10%未満なら外国人を受け入れても良い」と話したというのだ。
しかしこれ、調べてみると、神谷代表は以前から、ある程度の制限を設けてなら、外国人を受け入れても良いと言っていたようだ。つまり大きく路線変更したわけではないのだ。
ではなぜこのような誤解が生じたのか。これも先ほどの時事通信の記事にヒントがある。切り抜きショート動画だ。
政治家の演説は本来、長い尺の中で多様な文脈を含む。しかし切り抜きショート動画はその一部だけを切り出す。例えば「Aであるが、一方でBでもある」という発言なら、Bだけが切り取られて拡散される。
さらにSNS上のフィルターバブルやエコーチェンバーが作用し、誤った理解が「真実」として流通していく。
この神谷代表の場合なら、「外国人は受け入れるが、制限する」の、「制限する」のほうだけが拡散してしまったのではないだろうか。
他にも、参政党が日本の伝統継承を重視したり、他の議員の過激な発言などもあいまって、「参政党は外国人排除」とのラベルが形成されたのではないだろうか。
自民・立憲が若い世代に嫌われる理由
時事通信の記事には次のようなことも書いている。
「ACR/ex」の意識調査では、2000年以降に生まれた人は「情報収集は自ら積極的に行うほうだ」という質問に対して、上の世代に比べ肯定的な回答が減少するという結果が出た。
ひと研究所の調査グループは、仮説として「2000年以降生まれの人は、SNSなどのシステムからその人に合わせた情報を提供されることが当たり前になったため、上の『検索行動世代』よりも積極的に情報を集める必要がないという意識が強まっている」ことを挙げる。
若い世代で抵抗なく受け入れられている「おすすめ」。しかし、SNSではこの機能により、何度か特定の政治や選挙関係の投稿を見ると、次々に似た主義・主張のものばかりが表示され、異なる意見に触れにくくなる「フィルターバブル」という現象が起きている。渡辺所長は「SNSの仕様により誤った情報や極端な意見が拡散され、分断を生む構造になっている」と指摘。その上で「社会やメディアは、人々が何に不満を持っているのか丁寧に拾っていく必要があるのではないか」と語る。
https://www.jiji.com/jc/v8?id=202508SNSsenkyo-team
2000年以降に生まれた層は、自分から情報を調べに行かない傾向がある。なぜなら、レコメンド機能(おすすめ機能)などによって、向こうから情報がやってくるのが当たり前の世代だから、という内容だ。
それは単に情報を取りに行かないだけではない。目にした情報の真偽を調べるという行為自体も、他の年齢層に比べると少ないということだ。
YouTubeのサムネイルには、注意を引くために過激なことが書かれていることが多々ある。たとえば、「〇〇議員がスタッフを恫喝?」といった調子だ。
もしそのような若年層が、日々目にするYouTubeのサムネイルをそのまま信じ、それが投票行動の元になっているとしたら……。
若年層で自民党や立憲民主党の支持率が低いのは、政策内容が若年層に響かないというのも、もちろんある。しかしこのようなことも関係している可能性が高い。
日本がブレクジットの轍を踏まないために
時事通信の記事では、2016年からのトランプ当選やブレクジットについても触れられている。これは欧米において、SNSの“民意”への影響力拡大を物語る象徴的な出来事だ。
特にブレクジットには学ぶところが多い。以下、AIに要約してもらった。少し長いが、ぜひおさらいしておきたい。
Brexitが示した危うさ
Brexitの前例がまさにそれを示している。
2016年の英国国民投票では、「EUに加盟しているせいでイギリスが大きな損をしている」というメッセージがSNSを通じて拡散された。最も象徴的だったのが、「週に3億5,000万ポンドをEUに払っている。このお金をNHS(国民保健サービス)に回せる」というスローガンである。しかし実際には、EU拠出金からイギリスが受け取る補助金を差し引けば純負担額は大幅に少なく、数字は誇張されていた。それでもこの主張はバス広告やSNSキャンペーンによって繰り返し刷り込まれ、多くの国民が真実だと受け止めた。
さらに「EU加盟のせいで移民が急増し、イギリス人の仕事や医療が奪われている」といった不安を煽る情報も拡散された。移民問題は事実と誇張が入り混じり、SNS上でエコーチェンバー化した空間では「移民=危機」という単純な構図が定着していった。そこにはボットによる拡散や、特定の政治団体が仕掛けたターゲティング広告も大きく関与していた。
結果的に、こうした誤情報が「国民の声」として可視化され、EU離脱は「民意」として承認されてしまったのである。離脱後、2018年から2020年頃にかけて「Brexitは誤りだった」という評価が英国や欧米で広まったが、その本質は「経済的な失敗」というよりも「SNSが民意を歪めた典型例」として理解されている。
SNSの影響を数値で正確に測ることは困難である。しかし、Brexitが「SNS時代の民意の歪み」の象徴であったことは、本国や欧米で広く共有されている。とりわけ「もしSNSが存在しなければ、Brexitは起こらなかっただろう」という認識は、イギリス国内で強く定着している。(※訂正)
ここで重要なのは、たとえロシアのボットや外部勢力による攪乱を取り除いたとしても、SNSのアルゴリズムと、人間が「物事を単純化して理解したい」という欲求とが掛け合わさることで、民意は大きく歪み得るという点である。Brexitはその危うさを如実に示した事例であった。
日本との認識ギャップ
一方、日本での一般的な認識は「Brexit=経済的な失敗」にとどまり、SNSの誤情報が民意を歪めたという視点は十分に共有されていない。背景には2020年のコロナ・パンデミックがある。社会的関心が感染症や経済停滞に集中し、Brexit再評価の議論やSNSの危うさが日本に伝わりにくかったのである。
つまり、本国と日本の間には明確な認識のギャップが存在している。Brexitが「SNS時代の民意の歪み」の象徴として理解されているにもかかわらず、その認識が日本社会には十分浸透していない。このギャップこそ、いま私たちが直視すべき問題なのである。
※この部分はAIによる誇張のため取り消して訂正する。
ただし「SNSがBrexitに大きな影響を与えた」という見方自体は、英国内や欧米で一定の評価を得ている。
つまり、日本では「ブレクジット=経済的失敗」という評価にとどまっているが、実際には欧米では「SNSによる民意の歪み」の象徴的出来事として評価されているのだ。
もちろん、日本でもブレクジットとSNSの関係について報道はされているが、それが真の意味で一般に理解されているとは言い難い。
今や「情報が多過ぎて伝わらない」「伝わったとしてもどんどん新しい情報が流れてきて忘れ去られてしまう」という状況もひしひしと感じる。コロナパンデミックがなかったとしても、日本において、ブレクジットについての認識が不十分である可能性は高い。
総裁選前倒しは歴史的岐路
今、石破首相の進退は自民党の先生たちの判断に委ねられている。
選挙結果は民意だ。そして負けたら辞めるのも、その組織に属する人たちにとっては、秩序を守るために大事なことなのかもしれない。
しかしその“民意”が、SNS、あるいは切り抜かれた短い言葉、短い動画によって歪められていたとしたらどうだろうか?
もし、自民党の先生たちがこの事実を過小評価した上で総裁選前倒しの議論をしているとしたら……。
ただ自民党が負けるだけではない。政局や権力争いであってはもちろんならない。もし選択を間違えれば、国益、ひいては日本の未来が失われる歴史的岐路である。
選挙結果は確かに民意である。しかしその民意がSNSと切り抜き動画で歪められていたとしたら、議論は根本から覆ってしまうのである。
ブレクジットの轍を踏まないために、ぜひ自民党の先生たちには、この民意を取り巻くSNS環境について適切に評価していただいた上で、臨時総裁選の議論を進めていただきたい。
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