サイエンス

2025.09.01 18:00

95%の頭数減少、世界で「トラ」は生き残れるか? ネコ科最強の頂点捕食者が直面する絶滅の危機

ベンガルトラ(Shutterstock.com)

ベンガルトラ(Shutterstock.com)

ネコ科の動物はすべて捕食者だ。他の動物を捕えて殺し、食料とする。そして、ネコ科の一部の種は、他よりも強力な捕食者だ。

ネコ科のなかで、最強の「頂点」捕食者として君臨するのがトラだ。ネコ科の現生種のなかで最大であり、動物界に敵は存在しない――ヒト以外には。

当然ながら、近代銃器が発明されるまで、ヒトはトラに対してまったくの無力だった。1900年代初頭まで、世界のトラの個体数は健全な状態だった。

しかし、銃や現代的農業、工業化が、トラの運命を暗転させた(20世紀初頭には世界で10万頭以上いたが、2010年には3200頭以下まで激減。現在は保全活動の成果により、2022年の推計では約4500頭とされている)。

以下では、現在知られている9亜種のトラが直面する苦難について紹介していこう。すでに絶滅した3つの系統についても詳述する。

1. バリトラ(絶滅)

インドネシアのバリ島にのみ分布したバリトラは、トラの9亜種のなかで最小サイズだった。野生下での最後の確実な観察例は1930年代のもので、それからまもなく絶滅が宣言された。

分布域の狭さに、島の人口増加が重なり、バリトラは森林破壊、獲物の減少、狩猟によって数を減らした。悲劇的なことに、バリトラは一度として飼育下に置かれたことがなかった。そのため、最後の野生個体が姿を消した瞬間、この亜種は永遠に失われた。

2. カスピトラ(絶滅)

カスピトラは、かつて中央アジアに広く分布した大型の亜種であり、現在のトルコ、イラン、中国西部の河畔域や森林に生息した。堂々たる体格と高い適応能力を備えていたが、カスピトラは大規模な狩猟、生息地の断片化、20世紀なかばのソ連の農業プロジェクトの犠牲になった。正式に絶滅が宣言されたのは1970年代だ。

最近の遺伝学研究により、カスピトラとアムールトラは、DNAの類似性が極めて高かったことが判明した。これを受け、遺伝的にごく近い亜種であるアムールトラを代理とした、再野生化をめぐる議論が活発化している。

3. ジャワトラ(絶滅)

ジャワトラは、人口稠密なインドネシアのジャワ島に分布したが、森林伐採、農地拡大、密猟が原因で1980年代に絶滅に追いやられた。その後も散発的に未確認の目撃情報はあったものの、数十年にわたり生存の決定的証拠は得られておらず、大多数の保全関係者は絶滅亜種とみなしている。

4. アムールトラ(絶滅危惧)

アムールトラ(Shutterstock.com)
アムールトラ(Shutterstock.com)

シベリアトラとも呼ばれるアムールトラは、世界最大のネコ科動物であり、主な分布域はロシア極東部だが、中国東北部にも少数が生息する。かつて絶滅寸前に陥ったものの、集中的な保全努力と密猟の取り締まりによって、現在の個体数は推定500~600頭まで回復した。しかし、生息地は依然として、違法伐採やインフラ開発、気候変動の絶え間ない脅威にさらされており、アムールトラの将来は安泰とは程遠い。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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2025.08.26 16:00

テレビCMの未来を変える――日テレ『スグリー』誕生の舞台裏

日本テレビ放送網は今年4月、テレビCMの購入・運用をオンラインで完結できる新サービス「スグリー」をローンチした。その立役者は、同社営業局営業戦略センターアドリーチマックス部次長の武井裕亮と、伴走支援したXspear Consulting(以下クロスピア)シニア・マネージャーの天野善仁だ。両者が取り組みの舞台裏とテレビの未来について語った。


進化が遅れていたテレビCM 

天野善仁(以下、天野):テレビCMの購入や運用がオンラインで完結するサービス「スグリー」が、今年4月に無事ローンチされました。弊社がご支援させていただくようになったのは途中からですが、このプロジェクトの立ち上げ経緯を改めて振り返っていただけますか。

武井裕亮(以下、武井):2021年、当時の営業局の取締役と局長から 「10年後を見据えたテレビビジネス、広告セールスを提案せよ」との課題が出されました。さらに「営業経験の浅い メンバーで考えること」という条件があったため、私を含め入社10年目以下の条件に合った社員約10人でチームを編成して、現状分析や社外ヒアリングを重ねてプランを作成しました。しかし、最初の提案は大きな反発を受けたんです。

天野:そんな舞台裏があったんですね。

武井:当時の提案も、現在取り組んでいる「アドリーチマックス」構想に近く、「テレビCMをデジタル広告のようにアップデートしたい」という内容でした。しかし「テレビを見限って他媒体に活路を見出そうとしている」と受け止められたようです。そこで、“テレビCMは販売して放映されれば終わり”という世界、その仕組みを変え、“テレビCMをデジタル広告レベルにアップデートしたい”という意図を丁寧に説明し、理解を得ました。結果、役員プレゼンの場を設けてもらい、「失敗してもいいからやってみなさい」という言葉とともにアドリーチマックスプロジェクトがスタートしました。

天野:挑戦を受け入れる土壌がある素晴らしい会社ですね。

武井:とはいえ、当初は正式に認められてはいない “野良プロジェクト”でした。2022年6月にようやく正式な社内プロジェクトとして認められ、2023年には「アドリーチマックス部」として組織化されました。

天野:私が参画したのは公認化された後の22年11月。年度末が近く、予算策定が急務という山場のタイミングでしたね。

武井:クロスピアさんとの付き合いはその少し前。別領域での支援がきっかけでした。当時のアドリーチマックスプロジェクトは兼務のメンバーのみで構成されていたため、きちんとリソースを割いて一歩踏み込んだ検討を実現するための推進役として、プロジェクトへ本格参画をしていただきました。天野さんはコンサルティングスキルだけでなく、エンタメ業界を改革したいという情熱をお持ちで、私と思想が近く非常にやりやすかったのを覚えています。営業局フロアの隅の小さなデスクで毎日少しずつシステムの要件定義書を積み上げ、組織化やプロジェクトの仕組み化でも力を発揮していただきました。クロスピアさんなしにローンチは実現できなかったと思います。

天野:立ち上げのフェーズから参画でき、業界を大きく変えるサービスに携わっているんだという手応えがありました。サービス名も仕様も固まっていない段階でしたが、類似サービスの分析や放送局ならではのコアバリューの検討等を行い、日本テレビとして実現すべきサービスを目指して議論を重ね、ブラックボックス化していたオペレーションを可視化し、一歩ずつ階段を上っていきましたね。

日本テレビ放送網 営業局営業戦略センターアドリーチマックス部次長 武井 裕亮
日本テレビ放送網 営業局営業戦略センターアドリーチマックス部次長 武井裕亮

「必要ない」と言われた衝撃、潜在ニーズを信じて

武井:システム開発は順調でしたが、ビジネス面では難産でした。日本テレビの名前を伏せたまま「デジタル広告のように運用可能なテレビCMがあればどう思うか」と大手広告会社に覆面インタビューをしたところ、「必要ない」とはっきり言われたんです。テレビCMは広告枠を買い付けて発注すれば完結する手離れのよい媒体。一方、デジタル広告は運用が不可欠です。「テレビにそんな面倒なことをもち込まないでほしい」というのが現場の本音だったのだと思います。

天野:ですが、本来のお客様である広告主とデジタル専業の広告会社からは真逆の反応でしたね。

武井:そうなんです。「絶対にやるべき」と高評価でした。なぜここまで差があるのかと考えましたが、 大手広告会社は既存のやり方に最適化されている。そして広告効果もしっかりと出しているんです。広告主の満足度も高いです。一方で、もっとデータドリブンに、もっと柔軟かつ効率的に、ハンズオンで事業を成長させたい広告主と新しい施策を求めるマーケターには強いニーズがあると確信しました。しかし、このプロダクトを業界に根付かせるには、相当なモメンタムを作り出す必要があるなと頭が重くなったことをよく覚えています。
そこで、2023年11月に先行してプレスリリースを出し、25年4月のローンチまで時間を確保して、広告会社への説明・説得を重ねました。世の中の流れをつくることに苦心しましたね。

天野:あの時期は本当に大変でしたね。業界団体を含めた多くのステークホルダーと対話しながら、サービスの設計と開発を進める必要があり、やるべきことが山積みだったのを覚えています。

Xspear Consulting シニア・マネージャー 天野 善仁
Xspear Consulting シニア・マネージャー 天野善仁

「スグ買える」「スグ変えられる」「スグわかる」スグリー

天野:スグリーのコンセプト固めについてはかなり議論しましたね。ペルソナ分析やカスタマージャーニーの描出も繰り返しました。

武井:テレビ広告は技術革新が進んでこなかったぶん、未開拓の余地が多く、あれもこれもやりたくなるんです。そのなかでコアバリューを絞り込むために議論を重ね、「スピード感」にたどり着きました。そこから「スグ買える」「スグ変えられる」「スグわかる」を特徴とする「スグリー」という名称に決定。ローンチ前は開発の遅延も許されないなかで、業界にインパクトを与えられる完成度を目指し、かなりハードワークでしたが優秀なメンバー達のおかげで乗り越えられました。

天野:結果、多くの広告会社様に導入いただけていますね。

武井:従来のテレビCMでは、例えばスポットという買い方では最短でも1週間単位の購入が必要でしたが、スグリーなら1本から出稿が可能です。また放送の結果も15分後にレポートページで確認できるので、その分析を通じて「このジャンルの番組は効果が高い」と仮説を立て、すぐに番組やCM内容を変えることもできます。デジタル広告に近い運用が可能になりました。また、天気や気温に合わせて自動的に入札を開始したり、テレビに出演しているタレントを AIが見分けて入札をコントロールしたりする仕組みなど、プログラマティックな商品もリリース予定です。

 目指すは「テレビ広告全体のプラットフォーム」

天野:今では全体で数百人が関わる大規模プロジェクトになりましたが、初期のクロスピアメンバーは私ひとり。支援の幅も限られていましたが、評価いただいたことで体制を拡充でき、ローンチまで伴走できたのは感慨深いです。業界のアップデートに向けて、これからが勝負どころだと思いますが、引き続き伴走型でご支援していきたいです。

武井:私たちが目指すのは、テレビ業界全体のプラットフォームです。現状のスグリーは日本テレビのCM枠販売システムですが、近い将来、日本テレビだけではなく、系列局、他系列局を含め、すべてのテレビコンテンツに紐づく広告枠を購入・運用・可視化できるプラットフォームにしたいと思っています。心強かったのは、同じ時期にイギリスやオーストラリアで類似サービスが立ち上がっていたこと。潜在的なニーズがあるという信念を後押ししてくれました。

世界のテレビは有料ケーブルが主流で、日本のように無料で多くのドラマや映画を楽しめる環境は珍しい。これは広告主の皆様がテレビCMを通じてテレビ局を支えてくださった賜物です。「テレビはオワコン」と言われることもありますが、この環境や文化を支え、さらに発展させるためにも頑張りたいと思っています。グローバルの動向も踏まえると見据えている方向性は間違っていないと信じていますし、私たち“テレビマン”は文化を守り、成長させたい。そのためにテレビCMをより便利で効果的なものにし、業界全体をアップデートしていきます。

Xspear Consulting
https://www.xspear.co.jp/


たけい・ひろあき◎日本テレビ放送網 営業局営業戦略センター アドリーチマックス部次長。2014年に同社入社。報道局社会部にて、記者として事件や皇室を担当する。19年に営業局に異動。23年にアドリーチマックス部を立ち上げ現職。

あまの・よしひと◎Xspear Consulting シニア・マネージャー。大学卒業後、外資系総合コンサルティングファームに入社。エンタメ・メディア業界担当として、新規事業の立案から実行、IPの新規創出やマーケティング支援、CXのあるべき姿策定等のプロジェクトに従事。2022年、Xspear Consultingに入社し現職。

Promoted by Xspear Consulting/ text by Fumihiko Ohashi / photographs by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro