米Zone5 Technologiesはウクライナへの売却が承認された長距離攻撃兵器=ERAMの主要請負企業の1つで、Janesの取材に「ERAMはRusty Daggerベースだ」「複数の発射オプション、926km以上の射程距離、自律的な地形追従能力、戦術的終端機動能力を備えている」と明かした。
参考:Rusty Dagger cruise missile at centre of possible USD825 million ERAM sale to Ukraine
Rusty Daggerは「滑空爆弾に動力を追加したもの」ではなく、地形に沿った低高度飛行と敵の迎撃を回避する能力を備えている
米空軍は長距離攻撃兵器=Extended Range Attack Munitionに関する提案依頼書(RFP)を2024年7月に発行し、その中でウクライナのニーズと戦闘能力を効率的で効果的に満たすもの」「大規模生産が可能で手頃な価格を実現すること」「最低でも250マイル=約400kmの射程距離とM0.6以上の最高速度を併せ持つ500ポンドクラスの弾薬」「GPS信号が劣化する環境下で作動可能なナビゲーションシステムを備えること」「2年以内に1,000発(月平均42発)の生産が可能な設計であること」を要求。

出典:Ukrainian Air Force
Wall Street Journalは23日「トランプ政権が先週、ERAM×3,350発の海外販売を承認した」「このERAMは6週間後にウクライナへ到着する予定だ」「ウクライナにERAMを届けるための資金=8.5億ドルは欧州諸国が負担する」と報じ、War Zoneは「RFPは16社に対して回答を求め、この中にはCoAspireとZone5 Technologiesも含まれている」「Zone5はETVに、CoAspireはRAACMに関与している」「ERAMは低コスト巡航ミサイルの取り組みと何らかの関係があるかもしれない」と予想していた。
WSJの報道通り国務省は28日「ウクライナ政府に対してERAM及び関連機器の売却を承認した」「最大3,350発のERAM、スプーフィング防止モジュール、YコードとMコードに対応したGPS、INS、EGI、ミサイルコンテナ、パイロン、スペアパーツ、消耗品、ソフトウェア、作戦計画システム、機密ソフトウェア、関連技術文書、訓練、米政府及び請負業者による支援が含む売却総額は推定8.25億ドル」「これを購入するためウクライナはデンマーク、オランダ、ノルウェーからの資金と対外軍事融資(FMF)を活用する」「主な請負業者はCoAspireとZone5 Technologiesだ」と議会に通知。
請負企業がBoeingではなくZone5とCoAspireなので「ERAM=JSOW-ER説」はほぼ否定された格好で、Zone5がETV(エンタープライズ試験機)に提案しているRusty Dagger、CoAspireが主契約者に選ばれたRAACM(迅速適応型低価格巡航ミサイル)の可能性が高まり、Janesの取材に応じたZone5も「ERAMはRusty Daggerベースだ」と回答した。
Zone5のカイル・マキシマー社長は「同社がERAMの主要請負企業でERAMはRusty Daggerベースのプラットフォームだ。Rusty Daggerはエンジン始動に火薬を必要とせず、複数の発射オプション、亜音速飛行で926km以上の射程距離、自律的な地形追従能力、目標に最終突入する際の戦術的終端機動能力を備えている」と明かしており、これが事実ならERAMの射程距離は400km前後ではなく1,000km近くになり、複数の発射オプション=例えば地上発射に対応していれば運用上の柔軟性は大きく広がるだろう。

出典:Zone5 Technologies Rusty Dagger
さらに自律的な地形追従能力と終端機動能力を備えているためRusty Daggerは「滑空爆弾に動力を追加したもの」ではなく「地形に沿った低高度飛行能力と敵の迎撃を回避する機動能力」を備えている可能性があり、こうなるとERAMがロシア軍に与える影響と範囲は予想より大きなもになるかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Zone5 Technologies
射程1000kmは、サンクトペテルブルクにも届くため、外交上かなり踏み込みましたね。
ロシアの安全保障上の懸念は、ウクライナ東部発射~モスクワ・サンクトペテルブルクに届く、ミサイルの配備だからです。
これでウクライナが調子に乗ってバカをやらなければ良いんだけど…。まったく…アメリカやヨーロッパの政治屋共は戦争を終わらせたいのか激化させたいのかどっちなのやら…┐(´д`)┌
戦争は終わってほしいでしょう。しかしロシアに必要以上に勝たれるのも戦後のバランス的によろしくない。といったところでは?
一部報道ではアメリカはウクライナによる長距離攻撃を止めさせ、代わりにロシアへウクライナのインフラや重要都市への攻撃を止めるよう説得するとかなんとか。
情報ありがとうございます、勉強になります。
なんだか既視感があるなあと思いましたが、1年前クルスク侵攻前こんな交渉があったのを思い出し、また戻ってきたのかなあと…
>米紙ワシントン・ポスト(電子版)は17日、ウクライナとロシアが今月中に部分的な停戦交渉を行う予定だったが、ウクライナ軍による露西部クルスク州への越境攻撃で頓挫したと伝えた。エネルギー関連施設への攻撃を互いに停止するための協議だったが、ロシア側が延期を申し出たという。
>ロシアはウクライナの電力供給網への攻撃を繰り返し、ウクライナも無人機攻撃でロシアの石油関連施設に損害を与えている。交渉はこうした状況を打開する狙いがあったとみられる。
(2024/08/19 ウクライナとロシアの部分停戦交渉、越境攻撃で延期…エネルギー施設攻撃停止を協議予定 読売新聞オンライン)
戦争を終わらせるためにロシアの軍事拠点インフラ類をウクライナに叩かせてるだけでは?
寧ろロシアがどんどん手段の目的化してる事が一番この戦争を終わらせる上での課題な気が……
そういう事ではなく、ロシア軍の総力を挙げて空軍投入・都市爆撃をやりだすような展開になる事を懸念しているのでしょ
それ今やってる事でしょ
ほんとそれ
何を言っているんですか
それを言うなら、ユーロマイダンに対して首都急襲からの全面武力侵攻とかいうアホみたいな手段に訴えたロシア側に圧倒的に戦争の責任があるでしょうが。何をどうすればそこまで認知が歪むのか分からない。たった3年半前のことなんですから覚えていて下さいよ。
ウクライナ側は別に無茶な講和要求をしてるわけでもなく、ロシアの占領地は占領地として認めると言ってるんですから、プーチンがそれに乗っかればすぐにでも終わるでしょうに。
ロシアは戦場の現状とは明らかにかけ離れた要求を繰り返して戦争を終わらせる気が全くないので、ウクライナの長距離打撃力を強化してロシアの戦争コストを引き上げ、講和のテーブルにつかせるのが一番の平和への道でしょう。
ラダーを上げたい・ラダーを下げたい、どっちなのかなあと、どっちか分からないのを見せるのも交渉の要諦かもしれませんが何だかなあと。
冷酷な話しかもしれませんが、ロシア世論の対アメリカ意識が軟化しているのを見ると、アメリカの外交目的はそれなりに達成できているのかもしれませんね(しかも米露首脳会談前の調査です)。
>それによりますと、「ロシアに対してどの国が最も非友好的で敵対的か」を複数回答で尋ねたところ、ドイツと答えた人の割合が55%と最も多く、次いでイギリスが49%、ウクライナが43%でした。
>1年前の調査まで12年連続で最も多かったアメリカは今回は4番目の40%で、1年前の調査より36ポイント減少しました。
(2025年6月10日 ロシア「最も非友好的な国」世論調査 “対米感情 急速に改善” NHK)
うーんどうなんすかね。
ウクライナでは長距離精密攻撃兵器が氾濫してるので
高度な分散・隠蔽・掩蔽という対策が徹底されている。
たまにウクライナ空軍が滑空爆弾を投下する動画とか挙げてるけど
全然人の気配が無い場所を司令部だって言ってて、それくらい
目立たないようにしてるんだなあって感心したわ。
あの戦場に今更同じようなものを追加しても決定的な流れは
変わらないだろうな。
どうも昨日もウクライナ特務の作戦でクリミアのレーダー基地やシンフェロポリに駐機していたヘリが2機破壊されたようなので(動画もあるためほぼ確実)クリミアにはそれなりの数、あるいは長期間尻尾をつかませていないウクライナの草が入り込んでいるのでしょうかね。
あの手の攻撃は初めてじゃないのにロシアは碌に対策をしないのよなあ。
スターリンクドローンが脅威なのは分かるが電波妨害が困難とも思えない。
美しい報告書に「問題なし!」って書いて満足してるのかねえ。かれこれ千億以上の損害が出てそうだが。
亜音速の巡航ミサイルはこの戦いで落とされまくって割と評価を落としていたと思いましたが(ウクライナの撃墜報告など)そこまでの効果が見込めるのだろうか。政治的な意味合いなのかな。
ロシア側は都市部の攻撃に巡航ミサイルを集中して運用してたみたいですけど、本来は基地、生産施設、弾薬庫、燃料プラント、発電所に使うべき兵器だと思うんですよね。
スポンサーになる欧州諸国は「攻撃目標は軍事施設に限る」などの条件を付けるような気がします
まず、軍事目標とは何か(ネットリ)
欧州諸国以上にトランプ政権がそうするでしょうね
尤もERAMが全て軍事目標に充てられても、その分玉突き式にフラミンゴミサイルや長距離ドローンが精油施設など非軍事目標に充てられる様になりますから、ウクライナ軍の標的設定の自由度にあまり影響はないでしょう
「敵の迎撃を回避する機動能力」って、迎撃用のレーダー照射を受けたりしたら不規則な機動に切り替えるのでしょうか?
日本の12式地対艦誘導弾能力向上型も、敵艦への命中直前に複雑な軌道をとるようですが、どのくらい回避できるのか気になります。