サイエンス

2025.09.01 11:00

米国トップの科学者2000人超、科学予算削減の見直し訴え議会に書簡 ノーベル賞受賞者80人も署名

米ニューメキシコ州にある米国立電波天文台の超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)。(Shutterstock.com)

米ニューメキシコ州にある米国立電波天文台の超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)。(Shutterstock.com)

全米で最も優れた科学者2000人超が異例の結束を見せ、2026年度の連邦科学予算が削減されれば米国の経済、医療、国際的地位は永続的な損害を受けると警告する共同書簡を米議会に送付した。

全米科学アカデミー(NAS)の会員でカリフォルニア大学デービス校特別教授のウォルター・リールが主導した公開書簡には、NASと全米工学アカデミー(NAE)、全米医学アカデミー(NAM)の会員、合わせて2171名が8月28日までに署名。さらに1092人の科学者が支持を表明している。

署名者にはノーベル賞受賞者80人、全米科学賞の受賞者50人が含まれ、錚々たる顔ぶれだ。これは単に大勢の研究者たちが声を上げたというだけにとどまらない。米科学界の最高峰に立つ一流科学者たちが一致団結して訴えているのだ。

米議会への厳しい警告

8月14日付で上下両院議員に宛てて送付されたこの書簡は、連邦科学予算の削減案が可決・成立すれば「経済は衰退し、米国の競争力は低下し、教育制度は崩壊し、科学人材は流出し、公衆衛生と国家安全保障は脅威にさらされる」と警鐘を鳴らしている。

書簡の文調は超党派に徹し、「私たちは共和党員であり、民主党員であり、無所属である」と記したうえで、米国の研究界を守り抜くことは政治的な立場の違いを超越すると強調している。

「全米アカデミーズ」の威信

この書簡の重みを理解するには、「全米アカデミーズ(National Academies)」の通称で知られる全米科学・工学・医学アカデミー(NASEM)がどんな存在かを知る必要があるだろう。NASEMを構成するNAS、NAE、NAMの会員には、正会員から推薦を受けて選出された者だけがなれる。会員資格はこれまでの功績と社会貢献の両方が認められたことを意味する。米国の科学者、技術者、医療専門家が到達できる最高の栄誉のひとつなのだ。

米国には約670万人の科学者と技術者約110万人の医師免許保有者がいるが、NASEMの会員数は約7000人。アカデミー会員は全米の科学・工学・医学専門家の0.001%に相当するえり抜きといっていい。

NASだけをみても会員の半数以上が書簡に署名しており、これは前例のない事態だ。すなわち、米科学界が現在の局面を転換点とみなしていることを示している。

次ページ > 日本にもゆかり、旗振り役のウォルター・リールとは

翻訳・編集=荻原藤緒

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2025.08.25 11:00

需要急伸! 空間創造78年目 船場のエシカルでラジカルなワークスペース革命

戦後間もなく大阪で生まれた商業施設の内装設計・施工の老舗が、今、大きく変化の瞬間を迎えている。

3月末に就任した新社長が、他業種を巻き込んで「オフィス空間」の未来を変える。


〈オフィス空間提案をアジアで拡大 施設デザインの船場と提携〉

7月8日、日本経済新聞はそう報じた。文具だけでなく、オフィス家具の販売やオフィスの内装なども手がけるコクヨが、空間創造事業の市場拡大を目指すパートナーとして選んだのが、船場(せんば)だった。

船場は1947年創業で、オフィスや商業施設、空港、公園など多様な空間のデザイン・設計・施工を手がけている。国内外の三井不動産の商業施設、イオンや森ビルなどで実績をもち、最近では麻布台ヒルズにあるオフィスの半数程度の施工も担当している。2021年より「エシカル」をテーマに循環型の空間創造に注力し、業界を牽引。海外展開にも積極的で、84年に香港に現地法人を設立して以来、アジアを中心に拡大し、現在、中国・上海、台湾、ベトナム、シンガポール、マレーシアの5カ所に拠点を置く。

「コクヨさんは企業知名度が高く、オフィス関連の営業力が強い。一方我々は、本業としての総合的な内装業の強みがあります。そんな両社が連携することで、シナジー効果が生まれると期待しています」

そう語るのは、コクヨとのグローバル戦略的業務提携を陣頭指揮した船場代表取締役社長の小田切潤(おだぎり・じゅん)だ。今年3月末に着任したばかりだが、5月には、世界的な組織・人事コンサルティングファーム、マーサージャパン(以下、マーサー)との協業を発表するなど、ここへ来て攻める動きを見せている。

小田切潤
船場代表取締役社長 小田切 潤

直近年10%で拡大するディスプレイ業界

小田切の経歴をたどると、広告代理店のあとに就職した丸紅に15年在籍し、アメリカ駐在を5年間、さらに財務部、銀行や戦略コンサルティングファームへの出向なども経験し、多様な企業の経営企画・管理やM&Aを担当した。その後転じたアクセンチュア、そして執行役員を務めたオンワードホールディングスでは、売上高約300億円のアパレルのWEGO社の買収、同社取締役を兼務し新規事業開発などを行ってきた。それにしても、無縁だったディスプレイ業界になぜ興味をもったのか。

「衣食住の“衣食”は、日本は世界トップレベル。“衣”は、世界のトップアパレル企業が、日本の消費者は世界一感度が高いと評価し、“食”も海外の旅行者が日本での食事を大きな楽しみにしています。

ただ、“住”はまだ弱いという印象で、高いポテンシャルを感じたのです。船場を知った時、上場ディスプレイ業界4~5位ですが、78年の歴史のなかで蓄積された安全にいいものをつくり上げる力は、競合他社と1対1になっても負けない。経営でうまく舵取りすれば爆発的に伸びると直感しました」

ただ、デザインや設計・施工のプロはいても、経営視点で戦略を構想し実行する人は少ないとも感じた。趣味は、ファッションと映画、そして経営という小田切である。これは自分の出番だと思っただろう。

3つの大学院で経営を学んだ“経営フリーク”の同氏が示したのは、事業の選択と集中、そしてスピード感だった。

ディスプレイ業界の市場規模は約1兆8,000億円といわれる。直近は年10%の割合で伸びており、ラグジュアリーブランドなどのショップ、ホテル、そしてオフィス需要が特に伸びている。

「これまではオフィス空間にお金をかけるのは直接的な収益を生まないという文脈で商売ベタだといわれてきました。しかし今は、社員の定着率や中途採用の採用率にも影響するといわれており、オフィスへの投資が活発なのです」

またプロジェクトの特性によるものの、オフィスにバーやカフェをつくったり、2フロア借りの場合、ビル共用のエレベーターでの行き来ではなく、吹き抜けと階段を設置したり、木などの植物を置いたりしたほうが、その付近に人が集まることもわかってきた。

「そうした“タッチポイント”を随所につくることで、自然と会話が生まれ、新しいアイデアが生まれる可能性があることも知られるようになりました。我々が商業空間で培ってきた“賑わいの場づくり”のノウハウが生かされるのです」

オフィスに大型投資しようとするのは、グローバル企業やそれを目指す企業が多いという。そうしたターゲットにアクセスする手段として小田切が考えたのが、マーサーとの協業。なぜなら、153カ国にある大企業の従業員サーベイデータベースを所有する世界最大級の企業だからだ。

「膨大な情報から導き出された組織・人事戦略に関する示唆を、いかにオフィススペースのデザインへ落とし込んでいくか。それを我々が支援します」 

面を取る戦略と「4つの新組織」

マーサー、そして冒頭に記したコクヨといった業界トップクラスの企業と組む狙いは、知名度を補う意味合いもある。連携がメディアで発表されるや株価も敏感に反応した。こうした大きな連携は小田切自身がトップ営業でまとめた。

「今回のようにチャレンジをする場合に大切なのはスピードです。競合他社が豊富な資金力をもって市場に入り込んで来る前に、一点突破して素早く面を取っていく戦略をとる必要がある。そういう勝負どころでは、私自身が出て行きます」

こうした戦略に対応するために4つの新組織を立ち上げた。

まず、「CVX(コーポレート・バリュー・トランスフォーメーション)戦略室」。急拡大するオフィス関連市場の特殊専門部隊で、営業支援活動を行う。

ふたつ目は「ラグジュアリースペース室」。付加価値の高いホテルやラグジュアリーブランドのショップを担当するセクションだ。特に環境配慮とデザイン性を両立させた「エシカル」は船場の強みとしてきたところで、ラグジュアリーとの親和性が高く、欧米のラグジュアリーブランドでは当たり前のコンセプトになっている。

3つ目は「事業承継チーム」。同社には工事や什器など約150の協力会社があるが、どこもキラリと光る技術をもっている。が、後継者問題を抱える会社が多く、放置すると後継者が見つからないまま廃業するケースも。これは船場にとっても損失であるため相談窓口を設置したのだ。

さらに「アルムナイ・ネットワーク」。中途・定年で退職した人と、離れたあとも関係性を保ち続け、情報交換などができるネットワークにした。

小田切は、コクヨとのグローバル戦略的業務提携に際して、「イノベーティブで“ラジカル”」という表現を使った。その理由にこそ、これから船場が進むべき道が示されている。

「船場の社員に常勝集団のようなメンタリティをもってほしい。各分野のプロとして独特の緊張感があって、チームとしても迫力があるような。そんな存在であるためには、ラジカルでなければ」

映画界の鬼才スタンリー・キューブリックの大ファンだという小田切。コクヨ、マーサーとのアクションはほんのファーストショットという。売上目標は1,000億円。これからも、ラジカルに新しいプロジェクトを仕掛けてくるだろう。

船場

https://www.semba1008.co.jp

おだぎり・じゅん◎船場 代表取締役社長。新卒で広告代理店、2006年から丸紅の投資事業金融室、NY駐在等に従事。その後、アクセンチュア戦略チームのプリンシパルディレクター、オンワードホールディングス執行役員兼戦略企画室長を経て、2024年11月船場副社長執行役員に就任。2025年3月より現職。早稲田大学大学院卒(MBA)、一橋大学大学院卒(MBA in Finance)、HEC Paris経営大学院卒(MSc)、ハーバードビジネススクールGlobal Strategic Management修了。

promoted by 船場/text by Masamichi Nishidokoro | photographs by Toru Hiraiwa

宇宙

2025.05.27 12:00

日本人宇宙飛行士の月面着陸、いつ誰が実現? NASA予算の大幅削減で混迷するアルテミス計画

Shutterstock.com

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トランプ政権が5月2日に発表した予算教書の簡易版によると、NASA(米航空宇宙局)の2026年度予算は昨年度の248億ドル(約3兆5500億円)から188億ドル(約2兆6900億円)へ大幅に削減される見込みだ。この予算案が米上下院議で可決されれば米国だけでなく、日本や欧州においても今後の宇宙計画を大幅に見直す必要に迫られる。

とくに注目されるのは有人宇宙プログラムの行方だ。米国が主導するアルテミス計画では、月への輸送手段として有人宇宙船「オリオン」と超大型ロケット「SLS」を運用してきた。しかし、今回の予算草案では、予算超過が激しい同機の廃止が提案されている。さらに、月面探査の拠点として建設予定の月軌道周回ステーション「ゲートウェイ」の中止も要求されている。

ただし、NASAのほぼすべてのプログラムで予算削減が提示されるなか、トランプ政権は、月と火星にヒトを送り込むミッションだけは予算を増額することを提案している。これは宇宙における米国の覇権を守り、中国を牽制する策といえる。中国は2030年にヒトを月に立たせ、月面基地の建設を開始するとともに、同年には無人探査機「天問3号」を火星に向けて打ち上げ、史上はじめて火星の岩石を地球に持ち帰ろうとしている。

今回の予算案が現実となった場合、米国が牽引する有人探査プログラムが今後どのように再構築されるかは不明だ。しかし、限られた時間と予算のなかで中国より先に成果を出すには機材の選択肢が限られるため、中止される機材の代替機を予想することは可能だ。

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NASA、月と火星にヒトを送る計画に全集中 総予算24%カットで日本も対応迫られる

ルナクルーザーと日本人2名が月面へ

日米両政府は2024年4月、アルテミス計画において日本の与圧式月面探査ローバーを月面に送るとともに、2名の日本人宇宙飛行士を月面に着陸させることで合意した。与圧ローバーの機材名は記されていないが、これはJAXAとトヨタが共同開発する「ルナクルーザー」を指す。 同ローバーは2024年秋にはじめて試験走行が行われ、その様子が公開された。

 今年3月にデザインが更新されたトヨタの「ルナクルーザー」。現状では2032年のアルテミス7からの運用が予定される(c)TOYOTA
今年3月にデザインが更新されたトヨタの「ルナクルーザー」。現状では2032年のアルテミス7からの運用が予定される(c)TOYOTA

合意書が交わされた時点では、ルナクルーザーの運用は2031年のアルテミス7が予定されていたが、その後同ミッションは2032年にスリップしている。日本人宇宙飛行士が月に降りる時期は明記されていないが、ルナクルーザーの運用に付随して発表されたことから、少なくとも1名はアルテミス7でアサイン(割り当て・任命)されると思われる。

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編集=安井克至

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