「ジョンマスター」、問われる消費者への姿勢 セレブに人気の化粧品、回収後の対応に疑問

2017/11/17 5:00
東京・表参道にあるジョンマスターオーガニックの路面店、ヘアサロンやカフェなども併設する(撮影:編集部)
目次

2017年9月、天然由来原料による高級化粧品ブランド「ジョンマスターオーガニック」で発表された自主回収問題。発覚から1カ月半近くが経過したが、不可解さは何ら解決されていない。

経緯を振り返っておこう。ジョンマスターオーガニックグループ(本社・東京都渋谷区)のHPに「製品の自主回収のお知らせ」が突然掲載されたのが、9月21日。「ヘアケアおよびスキンケア製品のラベルに、一部成分表示の不備があったことが判明した」という理由だった。

自主回収の対象となったのは、2016年9月8日から2017年9月21日にアメリカの工場で作られた「イブニングPシャンプー」「Z&Sコンディショニングシャンプー」など、38品目121万個の製品だ。

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説明会はいっさい開かれていない

その後10月5日、再度HPに説明が掲載された。今回の問題は「米国でサプライチェーンおよび製造委託業者の包括的な自主検査を行ううえで発覚したもの」で、米国から日本へ「不正確な成分表が交付されていたことが判明した」。

成分誤表示の内容が聞いてあきれる。天然由来の原材料100%のイメージを振りまきながら、シリコンといった石油由来の合成原料を使用していた。あるいは、ラベンダーエキス、セイヨウシロヤナギ樹皮エキスといった天然の植物由来の原材料が使われていないのに、使われていると成分表示されていた――。

この説明の掲載以降、現時点で新たな情報公開は何もなされていない。実は、美容院、問屋、百貨店、直営店など販売ディーラーに対する説明会なども、いまだにまったく開かれていないという。ある販売関係者は「われわれも、見ているのはHPのお詫びと説明だけ」と打ち明ける。

広告の下に次ページ【メディアの取材も拒否】が続きます

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新聞、雑誌などメディアの取材も拒否し続けている。メディアには、当初は質問があればメールで出せ、メールで返答するという対応だった。しかし、メールでいくつかの質問や確認をすると、その後に「米国で調査を進めている途中であり、また国内においても関係当局に指導を仰いでいる段階で、回答を差し控えたい」と返信が来るだけだ。

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セレブの憧れの化粧品だったが

同社の製品は、「セレブの憧れの化粧品」といわれてきた。日本市場では特に人気が高く、オーガニック化粧品ではトップシェアを持つ企業として知られている。「ジョンマスターオーガニック」は世界ブランドだが、全体の売り上げの30~40%は日本が占めていると推定されている。

自主回収された「イブニングPシャンプー」と「Z&Sコンディショニングシャンプー」(写真:ジョンマスターオーガニックグループのHPより引用)

これまでのビジネスは順調だったようだ。回転ずし最大手「あきんどスシロー」を上場させた英国の投資ファンド、ペルミラが出資していることもあり、「経営不安は心配していない」(業界関係者)。

そもそも、今回誤表示はあったが、製品の中身は厚生労働省により使用が認められている成分であり、健康被害は出ていない。また、アメリカでは原料の70%以上が天然であれば、オーガニック製品とうたってよく、その点では同社の製品は「オーガニック」ということになる。日本では、医薬品医療機器等法や景品表示法に「オーガニック」の定義はない。

行政側の対応も「製品の安全性には問題はない」(厚労省)、「自主回収実施については承知しており、リコール事例として公示している。適切な指導はしている」(消費者庁)と、反応が鈍い。確かに自主回収を実施し、表示を改めて販売しているので、法的な問題はないのであろう。

ただ、消費者の信頼を裏切ったことは間違いない。同社の製品は、たとえば「イブニングPシャンプー」が236ミリリットルで2700円(税込み)と、一般品に比べ価格が2~3倍することもざらだ。それでも消費者が支持していたのは「100%天然由来原料」というイメージが大きかったはずだ。同社も「これまで当社製品に含まれるすべての成分が天然由来であるとの印象を与えていた」ことを認めている。

11月上旬、東京のある店舗をのぞいてみた。商品棚にHPと同じ説明書が小さく置かれているが、店内の様子に変わったところはない。自主回収の対象となった製品も、大半は成分表示を変えたうえで、従来どおり販売されている。店員に「100%天然由来の製品はないのか」と聞くと、「ありません。100%オーガニックの化粧品やシャンプーを作ることは難しいのが実情です」という答えが返ってきた。

同社は誤表示の原因を追及し、いち早く消費者に公表すべきだ。問われているのは、消費者に対する姿勢そのものなのだ。

小倉 正男 ジャーナリスト

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早稲田大学法学部卒。1971~2005年、東洋経済新報社で記者・編集者、企業情報部長、金融証券部長、編集局次長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事などを歴任。著書に『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(共に東洋経済新報社刊)、『日本の「時短」革命』『倒れない経営―クライシス・マネジメントとは何か』『「第四次産業」の衝撃』(いずれもPHP研究所刊)など。2012年から「小倉正男の経済コラム」をウェブで連載中。

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