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ヴィラン ④

私の身体はパンパンに張り詰めた風船のようなものだった。

強く突かれるだけで割れて、中のものが全て抜け落ちる。 それほどまでに追い込まれていた。

みっともなく吐き出される野球ボールほどのしわくちゃなタネは、ローレルに与えられた私の勝機だったのだ。


「―――――ガハッ、グ、ハア……!」


「ハァ……ハァ……悪い、大丈夫か……ヴィーラ……?」


なぜだろう、前にもこんなことがあった様な気がする。

自分の方がボロボロの癖に、こいつは()()()こうやって他人の事ばかり気にするんだ。

……いつも? いつもってなんだ、とうとう私は頭までおかしくなったのか。


「オレたちの電気を浴びるから磁力で引っ張れってなぁ……随分無茶したな」


「ははは、こんな作戦しか思いつかなかったんだ……悪いな、花子ちゃん」


「今はセキだ、お前に剣をぶっ刺して電撃を浴びせたのはオレだ。 間違えんなよ」


「はっ……こんな時でも仲良しごっこかよ……笑わせるし……」


全身が悲鳴を上げている中、開くのも億劫な口から漏れ出たのはただの妬みでしかなった。

我ながら驚いた、こんな状況でも憎まれ口を叩けるのかと。


「ヴィー、ラ……生きてるか?」


「死人が口利くかよ、ああでも駄目だ……もう、指一本動かせないし」


槌はまだこの手の中にある、もし振り回せる余力が残っていたのなら私はそうしただろう。

しかし体の一部とも思えたその鉄槌は、見た目以上の重量が掌にのしかかりビクともしない。

槌に込める魔力もない、幾ら握りしめて持ち上げようとしても私の杖は何も答えてはくれない……完全な敗北だ。


「マジで指一本動かせないわー……好きにしろよ、そっちの勝ちだ」


「そういう訳にはいかないよ、お前の身柄は保護する。 ヘリに連絡とって東北に送り返すぞ」


「……あんたさぁ、ローレルがそんな生ぬるいこと許すと思う?」


ビシリと嫌な音が響き、私の大槌にヒビが走る。

自らの限界を超えた力の反動、そして多くの魔女たちが迎える末路がとうとう私にも回って来た。


「アハハ、残念……最後までお前ら魔法少女の思い通りにはならないし」


笑う、哂う、嗤う。 ただの自嘲でしかない、もしくは負け惜しみだ。

私は完膚なきまでに負け、抱え込んだ願いも責任も叶えられない。

後に待つのは過ぎた力の代償、目覚めるかも分からない廃人同然の眠りだけだ。


「さっさと行けよ、情けなんてみじめになるだけだ。 アタシはここでくたばってるからさ」


「……花子ちゃん、悪いが先に行ってくれ、どうせ戻れって言っても聞かないだろ。 俺は少しこいつと話がある」


「ああ、分かった。 すぐ来いよ」


「…………はぁ?」


行ってくれ、といわれて素直に剣を担いでもう一人の魔法少女は去って行く。

待て、話ってなんだ。 今さらこんな私なんかと何の話がある?


そんな私の疑問に答える言葉はなく、ブルームスターは横たわる私の隣に腰を下ろした。



――――――――…………

――――……

――…


「…………いってぇ……!」


全身が痛い、ヴィーラにボッコボコやられた上に磁力を帯びて特攻するために無茶してしまった。

今だ電気が全身を駆け巡ってる気がする、痺れて立ち上がるのもしんどい。


「お前……馬鹿でしょ……」


《そうですよ、私のマスターは大馬鹿野郎です。 その内ひょんなことでおっ死んで女の子を沢山泣かせることでしょう》


「うっせぇ、手ぇつけられなくなるぐらい暴れる方が悪い……あいっててて……」


まだ東京の奥にはローレルも控えているというのに、このざまでは先が思いやられる。

正直このまま大の字に倒れ伏して休んでしまいたいが、そうもいかない。 ヴィーラに残された時間は僅かだ。


「……あんたさぁ、いっつもそんな事やってんの?」


「悪いかよ、体張らないと何にも掴めないんだ。 いつもいつも取りこぼしてばっかだよ」


指折り数えて記憶に残るのはいつも間に合わなかったものばかりだ。

もう少し早ければ、俺が強ければ、違和感に気付いていたら、この手が届いた未来もあったのかもしれない。

“ブルームスター”が助けた命だってもちろんあるはずだ、だけどいつも悪い記録ばかりが記憶に残る。


「……損な生き方、周りの人間苦労してるっしょ」


《そーだそーだ、もっと言ってやってくださいよ》


「ええい俺の話はやめよう、それより……あとどれぐらい持ちそうだ?」


ヴィーラが握る杖の崩壊は止まらないし、止められもしない。

何度も見て来た、魔女が持つ不完全な杖の崩壊だ。


「……分かんね、けど長くは持たないっしょ」


「そうだな、個人差はあるみたいだが……お前は大分無茶したからその反動だろうな」


「……ねえ、ちょっと」


「なんだ?」


「あんたさ、前に何処かであったっけ……」


「―――――……さあな」


忘れているはずだ、思い出せるはずがない。

今ヴィーラが感じている違和感はただの()()()()だ、放っておけばどこかに吹き飛んで忘れてしまう些事に過ぎない。

それに、今さら思い出したところで何になるというんだ。


《……マスター》


ハクが何かを察したかのように口を開く。


《言いたい事があるなら言った方がいいですよ。 ヴィーラちゃんの事を思っての言葉ではなく、あなたが言いたい事を》


「………………」


ヴィーラの意識は既に朦朧とし始めている、杖の崩壊もほぼほぼ全体を侵食し、いつ砕けてもおかしくはない。

……俺たちに残された時間は、あと1分もなかった。

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