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蛇蝎の如く ①

『ゴアアアアアアアアアア!!!!』


怪物の咆哮に大地が震える。 耳が痛い、ただでさえ風化していた建物やガラス窓がその衝撃だけで崩壊した。


「い、一撃貰うだけでもかなり辛いよぉ。 シルヴァちゃんは一発でペシャンコかも」


「なるほどな、分かった! してあの魔女の特徴は!?」


「ど、毒使って来るんだけどねぇ……腐食性の奴、骨まで溶けるから一発貰ったらアウトだと思ってねぇ」


「なるほどな! つまり攻撃を全て躱して倒せと!!」


「ふへぇ、そうなるねぇ?」


「笑っている場合ではないがー!?」


へにゃへにゃと笑いながら、唐突にオーキスが自分たちの足元をカミソリで切り裂く。

当然、足場を失って私達の体は大きく口を開けた切り口の中に落ちていく。

――――その頭上を赤い熱線が通り過ぎて行った。


「―――――~~~~~!!!!??」


「わぁ、やっぱり。 わざとらしい予備動作だし、飛び道具の1つぐらいあるかなぁって思ったんだよねぇ」


オーキスの魔法によって開かれた異空間への入り口が閉じる刹那、熱線が通り過ぎた後の景色は陽炎を揺らめかせながら何もかもが焼き溶けていた。

いくら魔法少女とは言え、あんなものが直撃したらひとたまりもない。

脳裏に過る最悪のビジョンに思わず声にならない悲鳴が漏れる。


「こ、声は抑えてねえ。 この空間は空気も届かないから……すぐに顔出すよぉ」


オーキスの魔法によって作られる異空間は完全な安置ではない。

空気も届かなければほとんど暗闇に近く、術者であるオーキスに捕まっていないと異物としてはじき出されそうになる。

この空間を熟知したオーキスでなければ移動すらままならない、こうして潜伏していられるのも長くはない状態だ。


「5秒後に顔出すよぉ、出来れば防御の用意してほしいけど……」


「…………!」


呼気を逃がさぬように首を振って肯定する。

紙とペンさえあればこの闇の中でも簡単な術式ぐらいは構築できる、5秒あれば十分だ。

オーキスも私の準備を確認し、きっちり5秒後に異空間から浮上する。


……すぐ目の前にあの怪物の巨大な脚が迫っていた。


「―――――なぜぇ!?」


「勘」


悲鳴と共に上げた疑問は理不尽な直感だと一蹴された。

急いで発動した術式がドーム状の防壁を作り、間一髪踏みつぶされるのを防ぐ。

だが即興の術式に対して掛けられる重圧が割に合わない、ドームの表面にみるみる亀裂が刻まれていく。


「わああああ! 駄目だオーキスよこれは駄目だ! もう一度あの空間に……」


「それじゃジリ貧だ、攻めよう」


結界が割れる――――と同時に、オーキスが私の手を引いて駆けだす。

間一髪で圧死を逃れたまま、目指すは怪物の奥に佇む魔女の本体。


「わ、わったったったたぁ!?」


「ごめんねぇ、喋ってると舌を噛む……よっ!」


「わぁー!!?」


真正面から突っ込むのかと思えば、唐突に私の体を宙へと投げ出した。 酷い。

しかし形としては放物線を描いて飛び込む私と、地を駆けて迫るオーキスの挟み撃ちになる。

これには刃を構えていた待ち望んでいた魔女も、一瞬だが狙いに迷いが生じた。


「シルヴァ、()()()!」


「な、なるほどぉ!!」


自らの魔法で削いだアスファルトの板をカミソリの腹に乗せ、オーキスが投げ飛ばす。

受け取ったそれは表面が適度にざらついており、私の(ペン)ならば文字を書き込む事も容易い。

着弾までの数秒に書き込める内容は少ない、最小の文章量で最適な効果を生み出すには……


「――――オーキス、出来たぞ!!」


「うん、ありがとぉ」


書き上げたそれを敵の魔女でもなく、味方のオーキスでもなく……()()()()()()()()()()()()()()()

足元を潜り抜けて本体へ向かうその隙を黙って見過ごすほど相手も馬鹿ではない、予想通り既に振り返り鋭利な爪を振りかぶっていた。

投げつけた板切れに込めた術式は火力を伴うものではない、それにこの数秒で練り上げられる威力などたかが知れている。


「目!!」


「あぁい」


最低限の言葉で通じ合い、二人同時に目を瞑る。

敵の目の前で視覚を閉じる愚行、その意味の答え合わせは瞼を透けるほどの光量が教えてくれるだろう。

板切れに込めたのは目くらまし、強力な光を浴びせるだけの魔術だ。


『グギャアアアアアアアアアアア!!?!?』


「ひ、ひぃ……!」


光源から背を向けていた私たちとは違い、光を直接見てしまった怪物が苦悶の声を上げる。

当然、私達と向かい合っていた魔女も目くらましを喰らったはずだ。


「オーキス、いまのうち――――ふべちっ!」


目を瞑ったまま地面に着弾した私は盛大に顔を打ち付けた。

すぐさま顔を上げて周囲を確認すると、私の背後で怪物を操っていた魔女とオーキスが鍔ぜり合っている姿が見えた。

だが、なんだか様子がおかしい。


「…………外道だねぇ、私も流石にそこまではやらないかなぁ」


「ふん、近くにいたこいつが悪い」


鍔ぜり合っている訳ではない、オーキスの刃は確かに魔女を捕らえている……ように見える。

しかし、その間に何かが挟まっている。 よく見ればそれは人だ、気絶したまま転がっていた名も知らぬ魔女の一人だった。



パリンと、肉壁にされた少女の杖が割れる音が響いた。

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