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藪医者の攻略戦 ④

はじめからずっとその機会を狙っていた。

彼女達の陰に隠れながら、息を殺しながら、ずっとその機会だけを待っていた。

気づかれるわけにはいかない、ミスは許されない。 声をかける事すらも出来ず、歯を食いしばってただその瞬間だけを見逃さないように。


だから決して、この銃弾を外すわけにはいかなかった。



――――――――…………

――――……

――…



パチンと何かが背中に当たって弾ける。

無敵の障壁で守られている以上、ダメージはない。 しかし痛みがない以上は衝撃の正体が分析できない。

ボクは振り返る事で、ようやく彼女達の存在を確認することが出来た。



「や、やったでござるよ! 花子殿、当たったでござる!」


「花子じゃねえデスけど……まあそれは今は置いておくデス!!」


「―――――シノバス……!?」


シノビ装束を纏った魔法少女には覚えがある、確か名前はシノバス。 固有魔法は隠密性に長けたものだ。

そして彼女に背負われているのは魔法少女名のない、花子と呼ばれていた少女だ。

銃口をこちらに向けていることから今の衝撃は彼女の銃弾によるものだろう、彼女の魔法は……


「……磁力か」


掌に吸いついた砂鉄を見て、思い出す。 武道館の時にも喰らった魔法だ。

だからこそ二発目は警戒されると思い、今の今までシノバスの魔法で潜伏していたのだろう。

この戦場にはじめから隠れ、確実に銃弾を撃ち込めるその瞬間まで。


「だがそれがどうした。 街中ならともかく、この場にボクを拘束できるだけの金属物はない!」


「ええ、()()()()()()()()()()()()


一瞬の間に目の前まで距離を詰めたラピリスがボクの腕をホールドする。

咄嗟に振り解こうとするが、ビクともしない。 それこそまるで磁石にくっついたかのように。


「まさか、君は自分の体も磁石化したのか……!?」


「ええ、かなりシビれましたが必要経費です。 二人は早く避難を!!」


「わ、分かったでござる!!」 「グッドラック、デス!!」


ラピリスの指示を受け、背負った格好のまま撤退するシノバスの足は速い。

この磁力を解除するには術者である魔法少女を叩くしかないが、既に射程圏外だ。


「武道館での経験と、港での戦闘を聞いて確信していました。 重力や磁力を伴う攻撃を嫌っていたようですね?」


「……ああそうだ、コンテナに張り付けになるような真似だけは避けたかったからね」


無敵大戦が無効化できるのはあくまでダメージのみ、決して万能でも最強でもない。

ギャラクシオンや花子と呼ばれた少女が扱う重力や磁力により、出力を超える力で拘束されれば振り解くことも難しい。


「だがそれが分かったところでどうした、いくら動きを封じても君の攻撃は効かない!」


「ええ、物理的な攻撃は無理でしょう」


ラピリスが僕との間に深々と大剣を突き刺す。

……彼女は確かいつもは使い勝手の点から双剣を好んで使っていたはずだ。

大剣を使う時は、その大きさから盾として運用するか、あるいは―――――


「――――ところでドクター、一つ伺いますが()()()()()()()()?」


「……待て、正気か君は……?」


「ああ、返答はその言葉だけで十分ですよ。 無敵とはいえスタミナまで無尽蔵ではないようなので予想はしていましたが、やはり窒息や飢餓もあなたの弱点ですか」


「正気かと聞いている!!」


深々と突き刺された剣の刀身が赤熱し、チロチロと火の粉が溢れ出す。

残った魔力の殆どを炎として放出する気だ、窒息という言葉からして彼女がやろうとしていることにも察しがつく。


ラピリスが大剣を使うのは、盾として運用するほかに単純に「火力」が欲しい場合だ。


「辺りの酸素を奪うほどの火力でボクを包み込む気か、シルヴァたちが撒いた紙片すらもボクへの牽制に見せかけた、このための起爆剤……!!」


「御明察、シノバスさんたちは本当によくやってくれました」


戦闘中にシルヴァが仕掛けたにしては紙片の量が多いのではないかという違和感があった。

シノバスたちへの命令に撤退などの言葉ではなく「避難」を選んだ理由についても合点がいった。

だが気付いたところでもう遅い、磁力で繋げられたラピリスの手は振り解く事が出来ない。


「この手を離せ、ラピリス!」


「離しませんし離れませんよ、術者である花子さんはすでに撤退済みです」


魔力の減衰による磁力の低下を待っていたのでは遅い、かといって術者はラピリスが言う通りすでに彼方へ逃げている。


「……君まで巻き込まれるんだぞ?」


「心外ですね。 自分の魔法ですよ、耐性くらいあります」


「だが0じゃない、ボクの無敵とはわけが違う! それにキミだって窒息は免れないはずだ!!」


「そこはまあ、気合いでなんとかします」


「……どうして、そこまで……」


既にボロボロの体で、彼女がふっと笑う。

ボクの瞳を見つめ返す彼女の視線は、これまで幾度となく見て来た頑なな意思が込められたものだ。


「一番付き合いが長いから、ですかね……私が最もドクターと接していたはずなのに、あなたの苦悩に気付く事が出来なかった」


大剣へ収束するかのように風が吹き込む。 それは火炎をより大きく巻き上げるための旋風だ。

むりやり腕を振り解こうにも、大剣を軸に杭のように固定された彼女の体は動かない。


「だからこれは私のケジメです。 駄目だった時はまあ、ドクターの主張が正しかったって事で、蘇生でも何でもお試しください」


「…………やめろ」


「ああ、そういえばこうして喧嘩するのは初めてですよね。 歯、食いしばってください、ドクター」


「――――やめろ!!!」


「いやです」


実に短い言葉で拒絶の意思を示し、彼女は刀身に込めた魔力を炎に変えて開放する。

それは周囲の紙片を炎に巻き取りながら、僕たちを飲み込んで空へ空へと昇って行く。


ラピリスはその()()()()()、僕の野望を否定する気だ。

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