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永遠にさようなら ③

「……と、言う訳でトワイライトと喧嘩することになった!」


『馬鹿ですか、馬鹿ですよね、馬鹿でしょう、馬鹿なんですね?』


『盟友はそういうこと言う……』


『言っても無駄だヨ、学習能力ってのがないんだからサ』


「お前ら電話越しなら何言ってもいいと思うなよ青と金!」


『『うっさい黙れ白黒!!』』


電話越しだというのに2人の圧力がひしひしと伝わって来る。

まあ、ドクターにやられて言い返す気力もないよりはずっとましか。


『で、場所は? 我々も加勢しますよ』


「いや、俺一人で行くよ」


『馬鹿ですね』


「5回も言ったな!!」


『トワイライトが約束を守るという保証がありません、向こうが総出で掛かって来ればなす術はありませんよ』


アオの言う事はもっともだ。 相手は魔女、こちらが一方的に躱した約束を守る道理もない。

そもそも本当にやって来るかも不確定だ。


『それに、彼女が虐待されているというのであれば……通報か、最悪魔法局にでも駆け込めばどうとでも』


「それじゃ駄目だ。 引き剥がすだけじゃトワイライトの心はどうにもならない」


彼女の心は大きく打ちのめされ、完全に閉ざされてしまっている。

詳細は分からないが親に依存している事だけは確かだ、外から強引に引き剥がしたところで根本的な解決にはならない。

トワイライトが、自分自身の意思で閉じこもったからから出てこないといけない。


「だから直接河川敷で殴り合って会話する、簡単だろ」


『やっぱり馬鹿ですよこの人』


『サムライガール、それは同じ手段で懐柔された私にも刺さるからやめてヨ……』


『はぁ……分かってるんですかブルーム、万が一ドクターが出てきたらそれだけで詰みまでありますよ』


電話の向こうで頭を抱えるアオが目に浮かぶようだ。

確かにドクターなら魔女を監視し、本人の意思に関係なく現れる可能性も高い、だがその点については特に問題とは考えていない。


「ドクター対策は考えているんだろ? 信じてるよ」


『…………』


『あっ、顔が紅いよサムライガール、HAHAHAさては照れウ゛ッ!!』


肉に堅いものがめり込む鈍い音、次いで転がって悶絶するコルトの声がかすかに聞こえてくる。

まあ、ご愁傷様だ。


『……こちらの策も必ず成功する保証はありませんよ』


「ああ、詳細は聞かないことにするよ。 お互いさまって事で」


『互いに相手のやる事に目を瞑れ、と……ああもう分かりましたよ、ただ後でお互いに怒り散らすでしょうね』


何となく虫の予感が鳴きわめいていたが、予想通りアオが考えてる策というのも大分無茶なもののようだ。

本当なら止めるべきだが、俺も人の事を言える立場じゃないため、互いに目を瞑ろうという交換条件(?)だ。


『それと一つ、魔女狩りから気になる情報が聞き出せました』


「魔女狩り……ああ、ヒョウカからか。 無事だったか?」


『今はメディカルチェックを受けていますが、特に問題はないでしょう。 実は彼女、錠剤を入手する際にローレルと接触していましてね』


「その際に何か言われた、と」


『察しが良いですね、ローレルが“もうすぐ完成する”と呟いていた所を偶然耳にしていたようです』


もうすぐ完成する、頭の中でそのセリフを反芻する。

ということはつまり、魔女を増やすことで達成できる何らかの目標があるという事だ。


「……なあ、3人とも。 魔女が増えるメリットって何だと思う?」


『魔女が増えるメリットですか……単純に魔物を対処する人手が増える、ですかね』


『でもそれ以上にデメリットが多いヨ、魔法が使える人間なんてポンポン増やすもんでもないしサ』


『これといったメリットというと……我は思いつかぬな』


「うーん、そうだよな」


強いて言えばアオが言った通り、魔物を倒せる人手や自衛手段が増えるぐらいだが、これまでの魔女騒動を見るに手放しで喜べるほどの利点はない。

実際に魔女が現れたから魔物が減ったかというと、実はそうでもない。 むしろ魔物の出現に便乗して暴れる奴だっているぐらいだ。


「と、なると俺たちじゃ分からない利点……少なくともローレルが目的とするぐらいの何かがある」


『目的ネ、一体こんなはた迷惑な真似して何が目的って話だヨ』


『うむ……そう言えば』


と、そこでシルヴァが何かを思い出したか言葉を挟む。


『関係あるのかは分からぬが、盟友が錠剤を使って変身すると黒い粒を吐き出していたであろう?』


「ああ、そういえばそうだっけな」


トカゲを倒した時から毎回変身し、解除するたびに氷に包まれた黒い粒のようなものが口から排出された。

まあ詳しく調べようにもすぐに砕けて霧散してしまうため、今の今まで正体については何も分かっていなかったが。


『推測ではあるが、あれは錠剤の“核”である可能性が高い。 成分的には植物のタネに近いものではあるがな』


「錠剤の……核?」


『うむ、詳細は未だ分からぬがあれを取り込むことで魔女として覚醒できる仕組みだ。 何故それを盟友が吐き出すのかは我にもいまいちわからぬが……』


魔女化の核、植物のタネ……頭の中で浮かんだワードがこの事件の真相に繋がりそうで繋がらない。

そもそもシルヴァの言う通り、何故俺がタネを吐き出すのかも疑問だ。 他の魔法少女も同じ現象が起きるのか、それとも……


《……マスター、どうしました? なんだか顔色が悪いですよ》


「いや、なんでもない……」


……何故か俺の背筋に氷を突っ込んだような寒気が走った。

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